書く仕事

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「蒲公英草子 常野物語」恩田陸

2006年05月21日 17時12分02秒 | 読書
タンポポって,「蒲公英」って書くんですね.知らなかった.
先週紹介した「光の帝国 常野物語」の続編ということになります.
しかし,物語は「光の帝国」より,ずっと以前の明治時代に遡ります.
光の帝国の第1話に登場する春田家の何代目か前にあたる一家と,ある地方の大地主の槙村家との交流が,槙村家の主治医の娘,峰子の視点でたんたんと語られます.
峰子は,槙村家の病弱な娘,聡子の話し相手として槙村家と関わることになります.聡子には常野の血が流れており,遠目という予知能力があるのです.しかし,この予知能力が聡子の悲しい運命とも絡み合い,静かな中になんとも言えぬ痛切なストーリーが語られます.
「光の帝国」では,常野に関わるエピソードが物語の中心でした.だからコンセプトはともかく物語自身の面白さで勝負するという面がありました.とにかく面白ければ「勝ち」ということですね.
しかし,この「蒲公英草子」では,春田家の人々の「しまう」役割を,その歴史的な意義みたいなものを(全貌は述べられないんですが...)描こうという試みがされています.
「光の帝国」ではさらりと描かれていたことが,ここではその歴史的な経緯も含めて丁寧に語られます.
そういう意味では,「光の帝国」を先に読んでいた方がいいと思います.峰子の母親の「虫干し」のエピソードも抵抗なく,興味深く読めるに違いありません.
ただ,峰子の日記という形で語られるために,峰子のキャラクターのフィルターを通さざるを得ないことから,物語の展開の「切れ」っていうんでしょうか,「凄み」というんでしょうか,有無を言わさず物語に引きずり込んでしまう恩田マジックは,やや影をひそめています.
これは構成上仕方ないことなのです.そういうことを期待してこの本を読むと少しがっかりするかもしれません.
逆に,恩田さんが常野シリーズを通して読者に語りたい本音というかコンセプトのようなものはじっくりと読み取ることができるのです.
ある意味,哲学的なこと,例えば,人は何のために生まれてきたのか?とか,人の運命と時代の流れの関わりとかについて,恩田さんの考える人生観が忍ばれて,私なんかはそちらの意味でとても面白く読むことができました.