救援連絡センター発行「救援」紙の、2面の連載コラムより
新人の奮闘のさま微笑し 「プリズン・ドクター」
新人の矯正医官が刑務所に赴任する。でも自分の希望じゃない。なぜなのか、深い事情がある。
ずっと育ててくれたシングルマザー若年性認知症の介護を抱えていては、医者の激務をこなせない。定時帰りとフレックスタイムが特色の医官になる。なにしろ月15万円の奨学金のために、700万円の借金あり。やっと社会人になったのに債務者なのだ。刑務所で三年間を働けば返さなくてすむという。
母の持病の認知症などを扱う神経内科の専門医を目指しているのに、キャリアを積めない。医師も患者も塀のなか。
相手の患者群。出所後十年以内の再入所率は五割、うーむ。
そんななかで毎日せっせと診察を続ける。痛いやら眠れないやらの訴え。医療機材も少なく正確な検査もできないなかで、見極めなければならない。詐病を見抜けば患者に怒鳴られ、見抜けなければ舐められる。後ろに控えるベテラン刑務官は、なにしろ詐病を疑う。作業をしたくない。睡眠薬や痛み止めがほしいのは、快感を得るためや刑務所内通貨のためという裏事情もあるそうだ。でも、とある受刑者青年の「見えない病」は丹念に検査を進めるうちに見えてきた難病。やっとこさ病名が分かれば治療への一歩。親からさえも怠け病だと言われていたのが、信頼できる医師にあった嬉しさよ。
自殺を予告していた受刑者が夜中に変死した。自殺か、病死か? 検事が調べにくる朝までに死因を特定せよ!との所長命令。「死体の診察」は採血もできないなかで数時間の、はらはらどきどき。間一髪のサスペンス。
年々増えてくる高齢者によって、ほとんど介護施設と化した房。そんななかで、認知症の放火犯の「誰がために燃える」浮かびあがる真実。老父の呟く北海道弁を手掛りに娘との繋がりに涙する。
ミステリ展開ぐんぐん進む。どんどん事件は起きていく。最後の「白い世界」は怖くて紹介をするのが困難なくらい重い。なんと暴力父親が入所してくる。小さい頃と同じように、ちくちくと子ども(青年医師)を虐める。この鬼父にどう対処したらよいか。めくるめく矛盾のなかで起きた事件。行き過ぎた正義は怖い。読んでみてちょうだい。
刑務所や医療について考えさせられる、四つの連作物語。
千歳名物、鮭の冷凍ルイベなどなど、北の幸も嬉しい文庫本。
「プリズン・ドクター」岩井圭也 幻冬舎・刊 790円&税