「女・底辺・社会運動」 郡山吉江 モナリザ事件
救援の大先輩の本を読んだ。とはいえ先輩すぎて実感が湧かなかった。にこよん女って想像の域を超えてる。三里塚の集会なんて三十年以上も行ってないし。ごめんね。
「しかし語らねばならない」なんだ。ふうん。
いっとう感動したのは、「モナ・リザ」スプレー裁判傍聴記だった。なに、世界の名画にスプレー掛けたのか1974年。この頃は高校生だったし、ぜんぜん知らなかった。
当時「暮らしの手帳」花森編集長は、モナリザに拘りすぎていると述べた。手塚治虫は嫉妬からかと述べ、ふざけたカリカチュア漫画を描いた。
ウーマン・リブへの偏見が多かったんだろうなあ。いや、フェミニズムなんて小洒落た言葉がでてきたせいで、リブは今でも貶められている。
その後にリブを知り、凛とした米津知子を知って驚いた。
そして今回、裁判傍聴記を拝読して背景を知った。田中角栄首相が実行委員長を務めるモナ・リザ展の初日。彼女は防弾ガラスと鋼鉄で守られた絵に赤いスプレーを吹きかけた。その場で逮捕、「建造物侵入・威力業務妨害」で18日間拘束された。
なぜ蹶起したのか。障害者差別への抗議だ。混雑防止のため「障害者・こども連れ」の入場を禁止した。強い抗議の声に「一日障害者デー」なる、ふざけた入場無料の日を設けた。どんな天気になるかもわからない、たった一日。そのたった一日のチャンスを逃した「ろうあ者」を入場拒否する。ひどいもんだ。
彼女自身、3歳の時のポリオが原因で26歳になるも片足を鉄骨の補装具で支えてきた障害者である。スプレー噴射時には「身障者を締め出すな」と叫んでいる。
台東簡裁は検事の求刑を上回る科料3500円、軽犯罪では最高の刑罰、拘留25日の判決を出した。
控訴、東京高裁では傍聴人の数が増え、補助椅子が出される(あら、これは良いこと、今こんなのあるかしら)。
法廷での障害者証言は、主催者の人権感覚への批判、欧米諸国を見学しての違い。彼女の「福祉は恩恵か」の鋭い問い。半世紀を経ても突き刺さってくる。
二審では原審が破棄され、科料3000円。彼女は「私の主張は何ひとつ認められていない、こんな裁判なんてあるんでしょうか」と語った。
★「しかし語らねばならない- 女・底辺・社会運動」郡山吉江 共和国・刊