千恵子@詠む...................

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知的財産権とは何か

2007年12月26日 | 知的財産権とは
知的財産権とは、基本的に新たな技術、新たな知見を着想した者に対し、その技術がもたらす産業上の発明を、出願料や登録料あるいは毎年の特許料納付と引き換えに独占的利用を許す、という考え方から成り立っています。権利者に無断でその技術を利用した場合は、罰金や権利者に対する損害賠償を認めるものです。産業上のこのような独占権は産業財産権と呼ばれています。

この権利は産業革命より前の16世紀、産業技術の発達とその重要性を痛感したイギリスのエリザベス1世時代に、王室が上納金と引き換えに独占特許状を発行して、新技術の開発者を保護するというかたちで生まれました。この独占特許状による上納金の増収をあてこみ、王室は独占特許状を濫発した時代もありました。

もう一つ、創作にもとづく著作などの場合は著作権と呼ばれ、こちらは出願・登録などの手続きは不要で、それらの創作の瞬間に権利が発生しますので、少し事情が異なります。

以下では、著作権は省略し、主として産業上の権利である産業財産権、特にその中で代表的な特許を中心として説明します。

== 特許には金がかかる ==

さて、最初の節でお気付きと思いますが、特許を出願し、審査を請求し、特許として認められるためには、そのたびにお金がかかります。最近は法改正が多くて変動が大きいのですが、どの程度の金額がかかるか、試算してみます。

出 願 料: 16,000 円
審査請求: 168,000 円+ (請求項の数)× 4,000円
登 録 料:1年目~3年目: 2,600円 + (請求項の数)×200円
4年目~6年目: 8,100円 + (請求項の数)×600円
7年目~9年目: 24,300円 + (請求項の数)×1,900円
10年目~   : 81,200円 + (請求項の数)×6,400円

さて、一件の特許権について十年間権利を維持するためにいくらかかるか、請求項が一つの場合の総額を計算しますと、合計で約四十万円となります。これは国(特許庁)に納付する金額だけの費用です。ほかにも、特許を認められるまでの間に、手数料は取られませんが、さまざまな手間がかかることも覚悟しなければなりません。

ところで、身近な最新式の電子機器を思い浮かべて下さい。たとえば液晶のディスプレイがあったとします。一台のディスプレイ全体でどのぐらいの特許が使われているでしょうか。一概に言うことはできませんが、部品類を一つひとつみるならば、少なくとも数百、場合によっては数千、パソコンなどの精密機器は数万もの特許が使われています。それら一つひとつの権利を維持するために、権利者は、国つまり特許庁に権利維持のため特許料を毎年納付しています。総額を考えると、国はたいへんな収入を得ていることがわかります。

== 特許取得のむずかしさ ==

以上の特許権を取る場合、出願や登録までの手続きを代行する専門家として弁理士という資格があります。弁理士事務所に勤めていた関係で、しろうとには難しい障害がいくつもあることを痛感しました。どういったところに大きな障害があるか例をいくつか挙げてみます。

まず何かの発明をしたとします、その発明は、これまで一度も使われた技術であってはならないのです。新規性などと言ったりしますが、すでにどこかで知られている技術は特許にはなりません。高額の費用を払って特許を出願し、その審査を請求するのですから、そのような発明がこれまでにあったかどうかを 調査する必要があります。調査せずに出願するなら、みすみすお金を捨てるようなものです。

次に、特許にはその権利の範囲が定められています。一つひとつの特許は、文章でその範囲が厳格に決められているのです。これを特許請求の範囲と呼びます。例を挙げると、その特許にゴムを使うとしましょう、ところが正直に「ゴムを用いて」などと書いてしまうと、これは価値のない特許になってしまいます。ゴムに代わる弾力性のあるものを使うと、その特許権に保護された範囲に入りませんから抜け穴ができてしまい、他社に出し抜かれてしまいます。弁理士は そのような抜け道をつくらないようにするのが腕の見せどころになりますが、腕の悪い弁理士の場合は、狭い権利の特許にしかなりません。これらは俗に「点のような特許権」などとも言われます。

ですから、弁理士は高額の手数料を取ります。一件につき、出願するだけで通常最低15万円もの手数料を取ります。もちろん、手数料を払えば、さきほどの特許請求の範囲から、詳細を説明した明細書、図面などを作成してくれます。とはいえ、弁理士はそういう依頼を受けるたびに細心の注意を払っているかというと、そうでもありません。弁理士によっては顧客を選ぶことによって専門の分野を絞ります。そうすれば普段の仕事は、どれも似たようなものですから、定型的な作業を毎日繰り返しているだけなのです。最近は何人もの弁理士をかかえる大きな事務所が増えています。そうすると専門分野を細かく分けて担当者は同じような特許ばかりを扱うため、視野の狭い弁理士が増えているかもしれません。

== 特許で一攫千金? ==

ここで一休みしてこぼれ話を。発明で金儲けを、というような夢のような話は本当にあるのでしょうか。少なくとも日本にはいない、と断言できます。ドクター中松(中松義郎)という有名な人が発明家を自称していますが、金儲けとして成り立っているかどうかは疑問です。

一方、本物の発明家となった人に中村修二という人がいます。十年以上かけて液晶に使われる青色LEDという発光物質を開発しています。従業員としての発明(職務発明)だったため、勤めていた日亜化学工業は発明の対価を払いませんでした。中村さんはこれを不服として会社を提訴したところ、一審の裁判は特許権が会社のものだとしながらも、中村さんの功績を認めて発明の譲渡対価の一部として200億円の支払いを会社に命じました。その後二審の裁判で和解勧告が出され、結局8億円で和解。けれども世界中で使われるカラー液晶ディスプレイすべてにこの青色LEDが使われていますから、会社側は大儲けしています。一審で200億円の支払いを命じた年にマスコミは会社の経常利益が年間1000億円(年間売り上げは1800億円)だと報道し、非常に話題になりました。けれどもこのような大発明の特許は、何十年に一度あるかないかと考えてよさそうです。

== 産業界のうごき ==

さて、特許権の多くをどのような企業が持っているかについて説明します。実は、ほとんどが大企業だと言っても過言ではありません。大企業は新技術開発にしのぎを削っています。重要な技術で他社に出し抜かれてしまえば、転落しかねません。そこで各大企業は法務部、あるいは特許部をつくって、特許出願から、すでに登録された特許権の維持・管理に努めています。特許権侵害の可能性のある他社に対しては、すかさず警告書を送りつけるなどして、権利の維持をはかります。

同時に大企業は、新技術を開発した場合も、それが利用できるかどうかを判断する前に、とりあえず特許出願してしまいます。利用できる可能性が少ない場合は、出願するだけで審査を請求しない例が非常に多いのです。これは、万が一他社にその技術を使われたとき、審査請求をして権利を取り、他社に技術を使わせない保険のような出願ですから、俗に防衛出願と言われたりします。大企業はこのような防衛出願を年に数千件、大きいところでは何万件も出願している会社もあります。

== 最近の特許のうごき ==

さて、最近入手した公的なパンフレット類に一通り目を通しました。もっともていねいにできているのは特許庁の特許ワークブック『書いてみよう特許明細書  出してみよう特許出願』でした。先ほどのべた特許請求の範囲などについても、「知識がある人」ならば広い権利をとれるように演習問題がついています。なるほど、これを読めば、有効な特許が取れるかのような錯覚を持ちかねない。これまで市販されてきた『よくわかる特許の取りかた』などの類書に比べれば、よほどよく書かれているという印象を持ちましたが、ここに書かれた演習問題ができるようになっても、特許で要求される技術分野はとても広いわけですから、これだけでは不安です。

さらに、よくできたこの特許ワークブックには致命的な欠陥があります。出願しただけでは特許は審査されない、ということの説明は、かなり注意しなければ分からないほど小さな扱いになっています。審査請求書というものを出さなければ、特許庁は審査せず、時間が経てば自動的にその特許は公開されてしまい、いつまでたっても特許にはなりません。

これではまるで詐欺のようなものです。出願した人は、いずれ特許になると思い込んでいますが、公開されてしまえば、その技術を他企業に使ってくれと言っているようなものです。法務部や特許部を持つ大企業ならば、そういった盗用を避けるため、毎日他企業の動向を監視していますが、一般の個人や零細企業が監視できるでしょうか。

最近の特許庁は、中小企業や公的研究機関、研究者に対して、納付金の免除・減免の姿勢を打ち出しています。日本経済新聞などでもたびたびそのような動きを報道し、特許庁も中小企業に対する支援策を宣伝しています。

けれども、以上述べてきたようなしくみを改善する動きはまったくありません。景気の悪化によって減少した納付金をいくらかでも回復させるための細工だと思うのは私だけでしょうか。

したがって中小企業にとって知的財産権取得は、費用対効果のバランスを注意深く検討し、よほどの新技術でもなければ、安易に手を出すのは避けるべきだと思います。

== 独創的発明が生まれたとき ==

けれどももし万が一、新たな技術が開発で、独創的な発明だと思え、それが確信できるようなことがあったときには、迷わず弁理士に相談する以外に方法はないと思います。腕のいい弁理士を見つけるのはとてもたいへんですけれども。その場合には、高額の手数料を取られることも覚悟する必要があります。そして晴れて特許権を取っても、盗用されないように監視しなければなりません。それは非常に困難なことで、それを克服することによって、はじめて独占権を維持することができるのです。
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