逆転無罪の認定 原田國男の軌跡
検察に起訴されたら、まず有罪となるこの国の有罪率は99.9。著者は四十年ちかく裁判官を務め、高裁で二十件以上の逆転無罪判決を言い渡した。
喉仏伝説。事実を認めると言った被告人が異様に喉仏を上下させているのに着目し、確認すると否認に転じた。その経験から、黙秘権の告知はたとえ自白事件であっても「本当にやってないのならここで言わないと駄目だよ、控訴審や上告審,再審で言ったって駄目だよ」と確認していく。
おかしかったのは難聴のくだり。ある被告人が若い国選弁護人に補聴器まで買わせて、尋問で不利なことは聞こえないという。一計を案じ、とびきり大きな声で質問すると、被告人は席から転げ落ち補聴器をかきむしり、怒るどころか観念した。その後は補聴器なしでスムーズに尋問が進んだ。補聴器代が気の毒だったので弁護士報酬に一部含めたとさ。
「逆転無罪の事実認定」が、背景の解説付きで十六件の判決文を収録。
蹴破られたドアの穴をくぐり抜けられるかが争点となった巨乳タレント事件。些細な違いをきちんと検証していく。
痴漢事件、『それでもボクはやってない』の周防正行監督も、たびたび傍聴していた。浜田寿美男教授の心理鑑定で傘をどちらの手に持っていたかが論点になったが「冤罪弁護士」本の今村核弁護士らが無罪判決を勝ち取った。
早朝の公然わいせつ事件。なんのことはない、追尾してきた不審車両をやり過ごすため、墓地の裏で立ち小便のふりをしただけ。
筆跡鑑定事件では一審において、無罪となる決定証拠の鑑定結果を検察官が隠した。被告人がせっかく認めているから、裁判官が迷わないように提出しなかったと。とんでもない話も。
タイムカード事件は、調布駅南口事件としても有名だ。深夜に少年たちが暴行したというもの。タイムカードが偽造ではないか、他の店員が代わりに打刻したのではないかなど徹底捜査。だが何も出てこなかった。後に刑事補償請求としても争われ、請求満額の補償金を勝ち取った。われらが山下幸夫弁護士の、ねばった末の勝訴。
「休日家族ドライブの受難事件」、バーベキューの帰途にバックミラーを二度蹴られたうえ進路を塞がれる。暴走族風のバイク二十台に取り囲まれた家族。正当防衛が認められず罰金二十万円だったが、破棄差戻しで、結果は無罪。
せっかくの本書、つぎに繋げていきたいぞ。
-------- 目 次 -------------
I 刑事裁判へのメッセージ
第1章 えん罪を防ぐ審理のあり方――第1審の手続にそって
第2章 控訴審における審理のあり方――事後審でえん罪を防ぐには
第3章 刑事裁判の魅力
Ⅱ 逆転無罪の事実認定
1 偽証発覚事件 (平成20年6月11日)
2 携帯電話決め手事件 (平成18年10月25日/平成19年6月25日)
3 ソープ嬢覚せい剤自己使用事件 (平成14年7月15日)
4 巨乳被告人事件 (平成20年3月3日)
5 痴漢無罪事件 (平成18年3月8日)
6 窃盗犯人誤認事件 (平成17年2月16日)
7 防犯ビデオ決め手事件 (平成16年1月21日/平成14年12月11日)
8 早朝の公然わいせつ事件 (平成17年2月7日)
9 被害者調書なし事件 (平成19年11月21日)
10 筆跡鑑定事件 (平成15年7月9日)
11 足跡痕事件 (平成18年2月1日/平成14年6月17日)
12 狂言の疑いがある事件 (平成16年10月6日)
13 採尿封かん紙貼替事件 (平成15年4月14日/東京地裁平成5年2月17日)
14 アリバイが認められた事件 (平成18年3月29日)
15 タイムカード(調布駅南口)事件 (平成13年12月12日)
16 休日家族ドライブの受難事件 (平成17年7月6日)