気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

空に吸はるる 小潟水脈歌集

2005-08-18 18:57:06 | つれづれ
みづからの馴れぬ靴音耳に従く祝婚の帰路地下道長き

電線に逆光の鳩一羽ゐてポーポーポポーが空(くう)に吸はるる

逆に見る「\」は「夫」の形にて炬燵の上のサラ金チラシ

月四万家計へ入れて夕食の当番こなす半寄生(セミ・パラサイト)

欲しいのは平穏だけかい折り返し折り返し昇るエスカレーター

(小潟水脈 空に吸はるる 青磁社)

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小潟さんの歌集を読むと、彼女の家庭の状況や立場がわかってくる。こんな読み方は卑しいと思いつつ、わかってくる。
一首目は妹さんの結婚式の帰り道のことらしい。姉妹の結びつきが固いと、妹さんの結婚がご自分の暮らしに大きく関わってくるのだろう。地下道という場所や「耳に従く」に説得力がある。
二首目は、歌集の題になった歌。オノマトペがよい。
五首目。二句目をわざと八音にしてまで「平穏だけかい」としたところに、彼女のユーモアを感じた。
以前に作った私のエスカレーターの歌はこれ。

地下街へ下りるきだはし踏み板のいちまいいちまい床に吸はるる
(近藤かすみ 短歌人2004年10月号)

をみな古りて

2005-08-17 19:27:46 | つれづれ
ひきだしを引けど引けざりすぐそばに隠れて見えぬものにくるしむ

をみな古りて自在の感は夜のそらの藍青に手ののびて嗟くかな

けれども、と言ひさしてわがいくばくか空間のごときを得たりき

(森岡貞香 百乳文)

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先日の短歌人会の大会の小池さんの講演を思い出しつつ、あれこれ見ている。一首目はわかりやすい歌。これを「こんな経験だれでもあるよね」などと軽い読みで共感するだけでなく、その深さを読みとらねばならない。「くるしむ」は、なかなか言えない。二首目三首目は、プロ好みの歌で短歌に慣れていないと、鑑賞することがむつかしい。先輩の鑑賞にすがりつつ、だんだん良さがわかって来る。

題詠マラソン(41~45)

2005-08-16 15:24:09 | 題詠マラソン2005
041:迷
迷信を肯ふ人は理屈言ふひとより大人と知りぬこの頃

042:官僚
その夫の理解しがたき名を持ちて官僚の妻はブログ創める

043:馬
なんとなく晶子に逢ひたし叡電で鞍馬へ行かむ歌碑を訪ねて

044:香
貴船川の床に盛りの香魚食めば身ぬちにさらに匂ふ藻のみどり

045:パズル
嵌る場所探して入れて世の中はまだまだ続くジグソーパズル

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今夜は大文字五山の送り火。以前、何度か北白川のブリカン(ブリティッシュカウンシル)の屋上から、送り火を見た。送り火を見て会話が錯綜する場は、人の気持ちを常ならぬ状態にする。あの建物はなくなったようだ。

大の字は山の肌(はだへ)に彫られをり御霊を空に還す夜のため
(近藤かすみ)

今日の朝日歌壇

2005-08-15 22:04:53 | 朝日歌壇
死ににゆく機に帽ふりき残されし夏のつづきの夏にまだいる
(市川市 藤樫土樹)

どうしたらいいのだろうというような鳥取砂丘のわれの足あと
(東京都 松井多絵子)

黒ゼリー涼しき震え銀の匙息子娶らず娘の嫁さず
(名古屋市 藤田恭)

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終戦後六十年。テレビや映画新聞で知ってはいるものの、もうひとつピンと来ない。私に戦争のことを語る肉親はいない。父は戦争のことを語らない人だった。鳥取にいたということを聞いた気がするが、かすかな記憶。母は淡路島に疎開していたらしい。

一首目。特攻隊の出撃を見送った人の歌だと思う。上句の過去形と下句の現在形の対比が歌を強くしている。二回出てくる「夏」の一回目は過去、二回目は現在。夏の重なりも強い印象を与える。

二首目。砂丘の果てしなさが生き方の不安を象徴している。

三首目。ゼリーの震えと息子、娘の結婚とはなんの関係もないのだが、作者はそのことが常に頭にひっかかっているのだろう。母親にとって、子供の結婚はその後の人生を左右することが多く、やはり気になること。そして、子供を持たない女性も、もし子供がいたらと、心にひっかかるものらしい。女はどちらにしても損?。意識を変えるしかない。「娶る」「嫁す」という言葉の選択も実はピンと来ないのだが、いろんな意味でこの歌に気持ちがひっかかった。


だんごと古書と

2005-08-14 22:27:45 | つれづれ
だんごやに就職したる生徒あり月見団子を売りにくるかな

くろぐろと葡萄のつぶは地を這へる葡萄前進、前進やまず

和風喫茶に白玉だんご食うてゐつ男の孤独はかくもまどかに

(小池光 滴滴集)

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下鴨神社で恒例の古本まつりがあるので、勇んで出かける。
塚本邦雄自選歌集「寵歌」を1200円など、なかなか良い買い物ができた。「短歌俳句同時入門」馬場あき子・黒田杏子監修というのも、トンデモ本かもしれないと思って500円で購入。こんなに読めるのかしら。

歩きまわって疲れて、近くの加茂みたらし団子屋に入って、クリームあんみつを食べる。短歌の解説書も水泳の解説書もいろいろあるが、結局自分でどこかでコツをつかんでやって行くのだと思う。
小池さんの葡萄のうた、つい「匍匐(ほふく)前進」と読んでしまうが、よく見るとちょっと違うぞ。

八月の下鴨神社の古書市に埋もれし松下竜一に会ふ
(近藤かすみ 題詠マラソン2004)

花火

2005-08-13 13:30:34 | つれづれ
「出られる」は四音にして「出れる」だと三音だからピシリと決まる

本物と付き合いなさい本物は間違いなしに元気を呉れる

花火見て歌わんと思う 花火見ずに歌えぬわれは花火見に行く

どこまでが空かと思い 結局は 地上スレスレまで空である

われはもや「わが歌」得たりひとみなの得がたくあらん「わが歌」得たり

(奥村晃作 空と自動車)

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最新刊の「空と自動車」はアンソロジー。掲出歌は『ピシリと決まる』『キケンの水位』から。空の歌が出来た瞬間を、HP奥村晃作短歌ワールドでリアルタイムで読んませて頂いた。ありがたいことだ。花火を詠もうと思うと、見に行かんとあかんのやな、やっぱり。

大空を見上ぐる瞳その数とおなじ数だけある空の色
(近藤かすみ)

題詠マラソン2005(36~40)

2005-08-12 18:27:37 | 題詠マラソン2005
036:探偵
自らのなさぬ罪ゆゑ探偵は尾行つづける夏雲の下

037:汗
顔文字で照れて笑つて汗をかく世界がときどき馬鹿らしくなる

038:横浜
横浜の古書店ならば安からう新潮文庫『午後の曳航』

039:紫
異人さんの夫に呼ばれお滝さんその名うつくしう咲く紫陽花

040:おとうと
ロシアにてスパイ活動に従事するおとうとをらば声を聞きたし

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37番「汗」の歌は、思わぬところから好評をいただいた。
自分で力を入れた歌はうまく行かず、その逆が多い。
だけど、脱力しっぱなしではいけない。

今、読んでいる本は、高橋秀実の「はい、泳げません」新潮社。
どこで、力をいれるか、息を吸おうかと、頭で考えているようでは「はい、泳げません」。しかし数ヶ月まえの自分よりは、かなり進歩している。題詠マラソンも気負わず、走るのみ。

ぶどう

2005-08-11 21:52:22 | つれづれ
然ういへば今年はぶだう食はなんだくだものを食ふひまはなかつた

大地震予知出来たとてその日その時全員どこにおれと言うのか

<イチロー>がもし<一郎>であったならあんな大打者になれたであろうか

(奥村晃作 空と自動車)

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新現代歌人叢書の「空と自動車」を読みすすむ。
みながココロの底で、思いながら「こんなこと言ってどうする」ということがちゃんと短歌になっていることに感動を覚える。
奥村さんは犬派、小池さんは猫派、吉岡さんは兎派。

尚、奥村氏は第七歌集『男の眼』より新かなに転じておられる。

今日の朝日歌壇

2005-08-10 21:57:31 | 朝日歌壇
さようならわたくしの過去すがすがとピアスの穴に夏の風吹く
(今治市 池内カナエ)

揉め事を喜ぶ本音ひた隠しそを憂うがに装うテレビ
(横浜市 我妻幸男)

息そろう太極拳のゆるゆると気は満ちてくるはつ夏の朝
(東京都 佐藤佳子)

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一首目。親からもらった体に自分で傷をつけてはいけないという考えがあって、私はまだピアスをしていない。ピアスをするとすがすがと風が通るのだろうか。この作者は何歳くらいの方なのだろう。さわやかな風を作者と一緒に感じることが出来た。

二首目。この歌が作られたのは、ひと月くらい前だろう。若貴兄弟のことだろうか。テレビという枠で切り取られたものを見ながら、わが身にひきつけ、平凡がいいかと思うのは、多くの人に共通するのだろう。ときどきそんな自分が卑しく思える。

三首目。太極拳の動きらしきものを少々やったことがあるが、汗をかく。緩やかな動きに中に神経を張り詰める。宝ヶ池公園や御所で、こういうことをやったら気持ちいいだろうな・・・

「風信」に奇しくも歌友、風間博夫さん『動かぬ画鋲』、資延英樹さんの『抒情装置』が紹介されたいた。多くの人に読んでいただきたいと思います。

空と自動車

2005-08-09 22:47:10 | つれづれ
一人づつ疎み去りたれば一人にて行きも帰りも地下鉄に眠る

ぐらぐらと揺れて頭蓋がはづれたりわれの内側ばかり見てゐて

真面目過ぎる「過ぎる」部分が駄目ならむ真面目自体(そのもの)はそれで佳(よ)しとして

はつきりとこつちがいいと言ひくれし女店員が決めしボールペン持つ

次々と自動車止めてわが犬が赤信号の道渡り行く

(奥村晃作歌集 空と自動車 新現代歌人叢書 短歌新聞社)

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奥村晃作先生のHP「奥村晃作短歌ワールド」で、奥村作品にはたくさん触れているつもりだったが、この「空と自動車」が出て、奥村短歌の全体を改めて読んでいる。後記で「この一冊があれば「必要にして十分」と言い得る歌集を編む機会を・・・」とあるように奥村短歌のいまの全貌がわかる歌集である。まっすぐに気持ちが届いて、そのあとふっと笑いや悲しみが伝わる歌。