備前焼 やきもん屋 

備前焼・陶芸家の渡邊琢磨(わたなべたくま)です。陶芸、料理、音楽、路上観察……やきもん屋的発想のつれづれです。

ザ・ベスト・オブ・カツオ

2006-05-12 23:22:20 | 料理・食材

小生が10代の終わりに、『四国漫遊貧乏一人旅』をしていた時のこと。

高知の通りすがりの呑み屋。
ガラス戸越しに見えるカウンターが 無垢ではないが小ぎれいで、お客さんの様子からして お高くない雰囲気のお店。なんとなく直感で 『ここにしよう』と決めた。
暖簾をくぐる。チョイ強面の大将と目が合ってしまった。ちょっとビビル。失敗か?


何をおいても 本場の『カツオのたたき』と思い、注文。

すると、大将いわく、「じゃ、準備はいいか?」
何の準備か分からないまま 雰囲気に押されて反射的に「うん」。 

また、失敗か?


大将、右手に塩を相撲取りのように持って、左手にはカツオ。
やおら、カツオに塩をすり込み、店の隅でワラに火をつける。

ワラの焼ける香りが、ふわーと漂ったか、と思うと、ザーッ と火へつっこみ、冷やすことなく熱いまま、まな板の上へ。ガッツリと分厚く切る。結構、ワイルドな仕事ぶり。
新たまねぎの上にドッカリと据えて、寝かさない。
大将は、ドカっと出すと、ギロリとにらんで「さ。早よ食べっ!」

これ、『カツオのたたき』かぁ?  
薬味は、タマネギ程度、ポン酢なし。カルパッチョみたいに寝かさない。叩かない。
だまされてないか? またまた失敗か?




くだんのカツオを見ると、湯気の中で、塩の粒々がキラキラと脂とコゲ目に はさまれて、溶けかかりながら光っている。

ほおばる程 でっっかい塊を急いで口に押し込む。
まだ、あたたかい……。
ワラの香りが鼻から抜け、カツオのストレートな骨太の味が……。
そこに、塩が 味の輪郭をクッキリとダイナミックにふちどる! 

うまい!ウマイ!美味い!旨い!
これが、本場の『 カツオの塩たたき 』

鮮烈にして、パワフル!
粗野ではあるが、決して下品ではない。舌の上の微妙さなんて問題外。
胃の底から、ガツンと揺さぶられた衝撃のカツオ。いまだに 食べたカツオの中でザ・ベスト。


もちろん、酒がすすんだ事は言わずもがな。
高知の夜は 長かった。


お酒は ハタチになってから。です。