ゆうぞらはれて秋風のふく
風が
幼い頃の
光景を一瞬運んできて消えた
秋の始まりの風
ひかりがだんだんやわらかくなり
かぜがやさしくひたいをいきすぎた
運動会の
帰りの
夕方の風
もくまおうの葉を
揺らしている
すすきはまだあおい
まっくろな顔のわたし
母の笑顔
みんないた
元気でいた
もう外に出ないよ
杖に頼っているから
そうだね
あの頃いなかった子どもたちが
もうおとなになり
運動会の準備をする
その子どもたちは
ありあまるものをもっていて
手渡したお土産には眼もくれない
大人びて
ありがとう
とお礼を言うだけで
目新しいものは
ない
ものがあふれ
めずらしくもない
なにもなかったあの頃
破壊しつくされた瓦礫の上に
有り余るものが
乗っかって
過去がなかったものになっている
寂しい秋風の中に
昔のにおいがある