時の川-40年-
川底から
突然
たちのぼる
忘れていた
影たち
時の
断片が
目の前で
声となって
取り囲む
泥水に
ずぶぬれとなった
靴
その地と時を
踏みしめる
あの時
そこで
叫び声を
あげられず
立ちすくんでいた
素手の拳
鉄の
何重もの
いつわりで
塗り固められた
壁に
抗し
未来は
いま
にやけた
ふやけた
しめられた
首の
苦しささえ
わからなくなった
グローバルな民
眼を
眼を
5月に
5月の雨の中を
歩いた
大雨の日
慟哭の日
沈黙した日
ぬるい熱湯に徐々に
つかり始めた日
大雨に
景色が消え
大雨が
大声を上げている
変化は
見えないところから
忍び寄り
むしばんでいった
占められている
という意識は
大雨に
白く朦朧とし
大雨は
いつものことに
なり
ぼんやりと
この大雨に打たれて
考えることさえ
やめてしまった
命が
商品になってしまう
ことにももはや気が付かない
従属の民たち
大雨に打たれ
その冷たさで
目覚め
取り返せ
私たちの立っている地を
伝言
言葉が
おりてこないときには
お待ちください
言葉は
あなたのものではなく
かみが
あなたのくちを通して
つたえているのですから
あなたにつながるひとびとの
言葉たちなのですから
やむひと
やみびとは
病人ではなく
それぞれの中で
巣くう
闇
闇の中に
広がる大きな宇宙
宇宙で
ひかりが生まれ
生命に
連なる
何もなく
何でもある
闇
暗がりに
目を凝らし
耳を澄まして
読み取れ
やみびとは
闇の住人
闇にひそむ
無明のひと
糸巻き
ぐるぐるっと
巻いて
夢のかけら
われてしまった
ガラスを
集め
ぐるぐるっと
包帯で
覆い
破れた
障子
の穴
ぐるぐるっと
丸く
きりとり
星の形の
紙を
はりつけて
ぺたぺたっと
まわりを
のりづけ
身のおきどころなく
アピールする
口を
ふさぎ
動き回る
手足を
体ごと
ぐるぐるっと
巻き
かくしている
抱きしめて
このぐるぐる巻き
の自分
大丈夫
こころを
しばる
糸を
ゆるく
ゆっくりと
といて
歩き始めよう
ぐるぐる巻きの
糸巻き
くるくると
動き
すすむ
這う虫
去年のカレンダーが
初夏の風に揺れている
めくらないままの
7月が
部屋の中で
冬も来ず
春も通り過ぎ
もう
初夏がそこまでやってきた
真っ青な空は
かわらず
天にあり
小さな虫が
地面の
新しい緑の芽の間を
這っている
お墓のお掃除に
祖母と母に連れられて
行ったときにも
地面に
小さな虫が
ゆっくりと
緑の芽の間を
這っていたっけ・・・
いま
ふたりはいない
かんぷーの祖母と
パーマネントの母と
おかっぱのわたしと
時代が
虫のように
地面の上を
通り過ぎていく