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金融世界支配の歴史、現状 ③   文科系

2017年10月04日 10時24分31秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
④CDS
 こんなサブプライム・ローン組込証券に格付け会社によって破綻直前までトリプルAの信用が付いていた。それにはこんな保険商品も掛けられていて、これが大宣伝されたことも関わっている。クレディット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれた保険商品である。
『企業ばかりではない。国家もそうである。ギリシャの金融危機が深刻化したのはギリシャ国債の空売りに加えて、新契約の裸のCDSの掛け金がどんどん上がってギリシャ政府が発行する新国債の利子率が急騰したためである。ドイツなどはその裸のCDSの取引を禁じているのだが、そういう取引を歓迎する金融センターが世界中にたくさん残っている』(前掲書「金融が乗っ取る世界経済」)  
『保険法だったら、隣の家に黙ってその家に火災保険をかけることは禁じられている。全く当然だ。放火罪奨励はとんでもないことだからである。しかし社債のCDSの場合、国によっては、そのとんでもないことがまかり通る』(同上書)
 この「裸のCDS」ゆえにこんなことが起こる。A社の社債を持っていない人がこの社債に莫大な保険を掛け、安い掛け金のA社債を無数に買い集め始める。すると、その会社を潰すことになっていくのである。安い掛け率の保険が買い占められたら、新たな社債を発行しようにも利子率が高くないと誰もこれを買ってくれない。よってこの会社はもう、会社存続のための新たな借金もできなくなる理屈だ。CDSを「大量破壊兵器」と語ったのが有名な投資家ジョージ・ソロスだ。
『ゼネラル・モータースなどの倒産を考えよ。その社債の持ち主の多くにとって、GMの再編より、倒産した場合の儲けの方が大きかった。人の生命がかかった保険の持ち主に、同時にその人を打ちのめす免許を持たせるようなものだ』(前掲書)
「(会社再建よりも)打ちのめした方が儲かる」CDSの実際が、投資銀行リーマン・ブラザースの倒産でも示された。倒産時のリーマン社債発行残高は1559億ドル。その社債へのCDS発行銀行の債務総額は4000億ドルだった。

⑤金融は、国家さえ乗っ取る
 以下長く、岩波新書、進藤榮一著「アジア力の世紀」(2013年6月刊)を引用して、国際金融が諸国家、世界政治を動かすその凄まじいまでの大きさを示す。
『金融危機が海を越えて伝播する構造は、07年夏にフランス最大手銀行BNPパリバのローン凍結ショックが、米国サブプライム・ローン危機の発端となって、08年9月のリーマン・ショックにつながったことにも象徴される。
 BNPパリバは、傘下のファンドを通じて、米国金融機関の発行する低所得者向けサブプライム・ローンを大量に購入し、そのローンが支払不能に陥り、解約を凍結した。そのニュースが金融市場を駆け巡って市場は混乱し、08年9月15日、全米4位の投資銀行リーマンプラザーズ社が破綻、金融危機が勃発した。(中略)
 その間、欧州の金融機関が、米国製の証券化商品を大量に買い込んでいることが明らかになり、欧州金融機関の信認が揺らぎ始めたのだった。そして09年10月、ギリシャ政府の債務残高隠しの発覚をきっかけに、ユーロの信認が一挙に失われて、危機は欧州の大手金融機関に及んだ。
 EUは03年、ユーロ加盟の条件として、財政赤字がGDP比3%以内、政府債務残高がGDP比60%以内にあることを定めていた。ギリシャは、ユーロ圏に加盟するために、紛飾決算まがいの手法を使って、財政赤字も累積債務も実態より低く報告していたことが判明した。その報告書に、ゴールドマンサックス社が関与していた。かつて87年夏に始まるアジア通貨危機の陰で、米国のヘッジファンドが暗躍していたように、ギリシャ危機の背後に、米国のファンドと財務省が暗躍していると噂された。米国が金融危機回避のため、欧州に仕掛けた危機だとも、時に位置付けられる。 (中略)  
 米国発金融危機が、リーマン・ショックを経て欧州債務危機へと転形し拡大したのである。危機はギリシャからアイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアへ波及した。メディアはそれら諸国の頭文字を取って、豚を連想させる「PIIGS(ビッグス)」と呼び、EUとユーロの脆弱さを侮蔑気味に指摘して、EUの分裂・解体を予測した』
 このギリシャ危機をユーロ瓦解に繋げるべく、ここからさらにドイツマルクの空売りにまで折を見ては度々結びつけてきたゴールドマン、アメリカ財務省などの大仕掛け! その凄まじさには身震いが出る。そして著者は、この100年に1度のリーマンショックが、「1929年世界大恐慌から世界大戦へ」とならなかった今回の事情までをこう説明している。「大欧州」と「新興国市場」がショックアブソーバーとして働いたからだ、と。
 世界の賃金から小金や国家資金までを奪うことによって、世界の有効需要をとことん小さくしてきたのに、その分、物を作る供給の側を金融支配・その巨大化に任せることによって膨大にしたところに、現代世界の諸不幸の源があると言える。金融ギャンブル中心の世界とは、結局そういう暴力的世界なのだと。


 第2節 「100年に1度の経済危機」

 サブプライムローン組み込み証券問題が、誰の目にも明らかになったのは08年春のベア・スターンズ破綻だろう。ここが、アメリカ5大投資銀行のひとつだからだ。が、ここに至る徴候は既に1年以上前から現れていた。06年12月にはサブプライムローンを手がけていた米中小ローンの経営破綻が相次いでいたのだし、07年3月13日住宅ローン大手のニューセンチュリー・フィナンシャルが上場廃止になった。6月22日には、ベア・スターンズが傘下ヘッジファンド2社の救済に奔走したが果たせないという事件が起こった。
 そして08年9月15日に、5大投資銀行の第3位リーマン・ブラザースが破綻すると、その同じ日に、第4位のメリル・リンチをバンク・オブ・アメリカが買収すると発表された。翌16日には、AIGの倒産があった。アメリカ最大の保険会社であり、CDSなど金融商品の保険だけを扱ってきた会社であって、政府等が即座に8000億ドルの融資枠を設定したものだ。ただしこの額は1ヶ月で使い切ってしまい、以降も追加支援に走らざるを得なくなる。そして、これらの結末。1、2位の投資銀行も9月21日に銀行持ち株会社に転換するにいたった。ゴールドマンとモルガンがそれぞれの銀行に吸収されたのである。

 東洋経済新報社の「現代世界経済をとらえる VER5」では、5大投資銀行の破綻の後をこう書いている。
『リーマン・ブラザース破綻の翌日、保険最大手のAIGがアメリカ政府管理に置かれ救済されたのは、あまりにも膨大なCDSの破壊的影響への危惧からであった。一世を風靡したアメリカ型投資銀行ビジネスモデルの終焉が語られているが、健全に規制された金融モデルへの移行か、巻き返しのための変身なのか、ウォール街の戦略、西欧金融機関との競争を含めて、注視していく必要がある』
 政府に補償してもらって、「巻き返しのための変身」?新自由主義者たちが非難してきた社会主義政策だ!
 こういうものが爆発して、さて世界はどうなったか。前掲書「金融が乗っ取る世界経済」には、こう描かれている。約1000兆円の資産が世界から消え、どこが負債を抱えているかに相互不信に陥って、大不況が続いてきたと。そして、この後遺症は今はどうなっているのか。こんな重大なものが、数学者・藤原正彦氏も述べてきたように必ず大破綻すると証明されたも同様のそれが現実に破綻した時(第1章第2節の最後の引用を参照)、マスコミで世界的追跡調査や反省などが正しくなされたようには到底見えないのである。ネズミ講的自転車操業が途絶えたことによって世界無数のサブプライム家庭を殺した投資銀行幹部たちは、個人資産を速逃げさせたはず。対するに、たった一軒のローンが払えなくなった人々はその人生を殺されたにも等しいのである。


 第3節 破綻の構造

「100年に1度の危機」という破綻は、10年近く経った今初めて、その性質が一定分かってくるもの。何よりも世界10大銀行の移り変わりにこれが現れる。2010年と今とで、世界の10大銀行国籍がこう入れ替わった。英3米2の合わせて5行から各1の2行へと減った分、中国が0から3・5へと増えた(0・5とは、10大銀行に出たり入ったりしている所の意)。他は、フランス、日本の各2ほどと、ドイツの1行と、ほぼ変わらない。つまり、この数の順番で国に金があるということだ。こういった金がおこなう世界一般企業支配やデリバティブによる世界小金持ちからの搾取も、英米の現状を見れば既に限界と観るべきだろう。没落しつつある大国が金融によって対外収支を強引に改善しようと足掻いて来ただけとも見うるのである。その結末が、世界的な中産階級没落、失業者・不安定労働者の激増というその上に、世界の小金を奪い取って長期デフレを招いたというのでは、世界の人々の幸せを攪乱しただけと言える。現行株価などは、世界的なマイナス金利や公的資金投入で懸命に支え上げているに過ぎず、マネーゲームに費やされる莫大な金融資産に呼応する有効需要など、世界のどこにも見られなくなってしまった。であるならば、今の世界経済体制では、職などは増えようがないということだろう。「資本主義は終わった」というマクロ経済学者が増えているのは、こういう事情からである。


(あと2回ほどは続きます。全体の目次は以下の通り)


第1章  金融グローバリゼーションの生成と発展
第1節 その生成
第2節 民間資金の世界席巻と通貨危機
第3節 アジア通貨危機の発端、タイの例

第2章 金融グローバリぜーションの破綻
第1節 金融が世界を乗っ取った
①その一般企業支配
②デリバティブ、金融派生商品
③サブプライムローン組込証券
④CDS
⑤金融は、国家さえ乗っ取る
第2節 「100年に1度の経済危機」
第3節 破綻の構造

第3章 金融グローバリゼーションの改革
第1節 国際機関などの対応
第2節 各国などの対応や議論
第3節 平和に生きて行ける世界を目指して

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2 コメント

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この3日アクセス急増 (文科系)
2017-10-04 11:17:11
 今週に入ってこの3日間、アクセスが急増しています。3日間の合計が728。そして、これらの人々が読んだ画面数が、5,699とありました。
 上の論文はこのブログを始めて12年に勉強してきたことの言わば結晶をある本に載せたものです。何冊かの良い本を見つけ出すことが出来た結果の産物なのですが、現世界経済の基本を当然と観ずに批判的に見ると、こういうことが言えるという論文です。

 いつも言うことですが、現実は法律よりも先に進み、法律は後から追いかけていく。昔は15時間労働も合法でした。8時間労働制は後から出来たもの。
 日本の治安維持法だって合法でした。あれは人の行為を裁くものではなく、心を裁くものだから不法である、と批判したのは僕の尊敬する恩師。ある心の存否証明は本来不可能なものですからね。

 おかしな世界、法を人が肯定するなどは歴史上いつもあったことです。今の世界、日本は完全にそうなっていると思います。99%と1%の問題こそが今の大不況を作っているのに、株価だけ上がる景気になんの意味もありません。それも、日銀やGPIFの金をどんどんつぎ込んで。
 日米英などの金融立国を規制しなければ、失業者、不安定労働者は増えていくばかりです。のみならず、中小国家の小金がどんどん奪われていき、そこのインフラすら進まなくなる。
 こうして、中国が元の完全自由化に応じないのはある意味当然です。英米日が世界一のこの金をこそ狙っているのですから。今後もこの金を狙ったアメリカの中国嫌がらせはどんどんエスカレートしていくでしょう。北の問題などはその布石。こういう中国嫌がらせ包囲網狙いの一環だと観ています。
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で? (Unknown)
2017-10-05 02:41:40
 そうした課題を小池が解決すると言うわけですね。
 ほんとうですか?
 縷々述べ立てることと、実践的な選択とが全く異なっているのに、それに留意しないという二枚舌は観念論者の常ですね。
 ようするに、あなたは単なる「評論家」に過ぎなくて、実践的な面では、解散にオタついて小池の軍門に下る転向サヨクにすぎないのだ。
 希望へ走った前原が、街頭演説で「裏切り者!」というヤジを浴びているが、それは同時にあなたへの批判の言葉でもあることを噛みしめるべきだ。
 観念サヨクは、土壇場では常に裏切りるという見本そのもの。
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