個人でも団体などでも、ある策をなす場合「今とここ」しか見えぬ策を愚かという。逆は「長い時間を見つつ、できるだけ広い空間に目を配る」のが賢い策の条件。
トランプが、報復関税をしなかった国には90日間関税執行を停止すると打って出たが、これは逆を言えばこういうことだろう。
「報復関税をすると言い返してきた国がこれだけ出るとは!(驚いたもんだ!)」
先ず、お隣のカナダ、次いでEU27か国、そして中国。
この光景を見て驚く。おべっかと恫喝で商売してきたこの男は、相手が高飛車に返してくる経験が少なかったのだろう。これだけの国が報復関税をかければ、アメリカの輸出は総体としてどうなってしまうのか。お得意の兵器も売れなくなるだろうし。
そもそもトランプは、この関税策を説明する時に「各国別対米輸出入、アメリカの赤字表」を掲げて「赤字が多い国に関税を多くする」という説得に出て、いかにも自信ありげであった。これは「アメリカ対各国」、1対1の説得視点なのである。こういう説得には、「全体を観る視点」が全く欠けている。「この米貿易赤字国が全体で報復関税をしたら、アメリカの輸出がどれだけ少なくなるか」などはほとんど考えていないのだろう。それを見始めた時にあわててやったのがこれ、「報復関税をしない国は優遇しましょう」。
また、長い時で見ればこんなこともある。世界の消費よりも供給が多くなりすぎるのが、資本主義経済。すると定期的にものが売れず、デフレ気味になる。そのときに出て来たのが貿易保護主義とかブロック経済で、これは世界恐慌などたいへんな不況を招いて、二つの世界戦争に繋がってきたという歴史がある。戦争の前には、世界中の株価が暴落するのだが、トランプは果たして、その身勝手な関税政策が直ぐに株価暴落を招くと、計算していただろうか。現在の新自由主義経済の主流貿易の中には、金融の貿易(海外投資)もあるのだし、米海外投資はどうなるだろうかと言う問題意識である。
僕にはトランプが、以上のようなことを考えてきたとは到底思えないのである。4日のここにエントリーしたが、ノーベル経済学賞を受けたポール・クルーグマンが「トランプは狂っている」と述べたが、以上のようなことも含まれているに違いない。というと直ぐにこんな反論が出るだろう。「トランプの周りには、賢い人もいるはずだ」。こう語る向きには、同じクルーグマンのこういう言葉を返しておこう。
「トランプの周りは、イエスマンばかり」
裸の王様と「そう指摘しない周囲」という光景なのである。