OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

デイヴ・ベイリーの魂の宝庫

2009-01-18 10:31:38 | Jazz

One Foot In The Gutter / Dave Bailey (Epic)

世の中には自然体でいながら人望があるという、本当にうらやましい人が確かにいます。人望とは求めて得られるものではないんでしょうが、やはり欲しいものには違いなく、それが欲しくてカッコつけてしまうことが度々というサイケおやじには、このアルバムのリーダーとなったデイヴ・ベイリーの存在感が眩しくもあるのです。

決して歴史的に云々されるドラマーではなかったデイヴ・ベイリーは、しかし参加したセッションでは必ずや演奏を心底、スイングさせる名手です。それも特に派手なケレンやスタンドプレーも演じることがない、極めてナチュラルなグルーヴを作りだす縁の下の力持ち的な存在であり、加えてその場のメンバーからは絶大な信用を勝ち得てしまうという人柄の良さ! そうしたものが、残された演奏を聴いていると、ヒシヒシと伝わってくるわけですが、このアルバムは恐らく初リーダー盤にして、それが最も感じられる作品だと思います。

録音は1960年7月19&20日、メンバーはクラーク・テリー(tp,flh)、カーティス・フラー(tb)、ジュニア・クック(ts)、ホレス・パーラン(p)、ペック・モリソン(b)、そしてデイヴ・ベイリー(ds) という真性ハードバップな面々♪♪~♪ しかもスタジオにお客さんを入れての一発録りセッションということで、最高に心温まる演奏が展開されています。

A-1 One Foot In The Gutter
 クラーク・テリーのオリジナルというグルーヴィでホノボノとしたゴスペルハードバップの快演ですが、まずはデイヴ・ベイリー自身による短い曲の紹介があって、さらにリーダー自身のカウントからジワッと曲が始まるまでの「間」の雰囲気の良さ♪♪~♪ 実にハートウォームなシブさが感じられます。
 そしてネバリとスイング感が絶妙に融合したテーマ合奏の味わい深さ、そこから軽い駆け足スタイルでアドリブに入っていくクラーク・テリーの匠の技には、思わずグッと惹きつけられるのです。もちろんそれに続くソロの構成も秀逸で、オトポケファンキーにコントロールされ音色の楽しさも、実にたまりません。
 ですからジュニア・クックが分かり易いフレーズで黒っぽいテナーサックスを鳴らしまくれば、カーティス・フラーは十八番の春風トロンポーンを吹き流し♪♪~♪ ホレス・パーランの何時もは煮詰まっていくゴスペル系のピアノも、ここでは大らかな感じが結果オーライでしょう。
 肝心のリーダーであるデイヴ・ベイリーはドラムソロを演じることもなく、堅実なサポートに徹していますが、随所で発揮されるシャープな小技とタイトなシンバルワーク、さらにベースとの相性の良さは抜群で、演奏をジンワリと熱くしています。

A-2 Well You Needn't
 セロニアス・モンクのオリジナル曲ですから、エキセントリックな演奏かと思いきや、これもグルーヴィなテンポを優先させたコクのあるハードバップになっています。デイヴ・ベイリー自身が曲紹介で「自分の大好きな」と言っているのが、さもありなんですね。
 このあたりは作者本人が幾つか残している演奏、あるいはマイルス・デイビスが演じたバージョンのギスギスしてハイテンションな結果と比較して、尚更にはっきりするでしょう。実際、ここで展開されるハートウォームにスイングした仕上がりは、地味ながら飽きないジャズの本質があるように感じます。
 それは得意技の「マーブルチョコレートのメロディ」も披露するクラーク・テリーのサービス精神、ダークな黒人ハードバップの本質に迫るジュニア・クック、ノビノビと闊達に吹きまくるカーティス・フラーの明朗な魅力が全開というアドリブパートの楽しさで証明されるでしょう。
 しかもリズム隊が相当にハードエッジな雰囲気で、ビートの芯が強いですから、地味なテンポなのにガンガンイケイケの姿勢なんですよ。それも極めて自然体に! このあたりは文章にするよりも、まずは聴いて感じるものでしょうねっ♪♪~♪
 ホレス・パーランのピアノはガツンガツンに鳴っていますが、決して脂っこくないスッキリした印象ですし、演奏全体のほどよい緊張感は、このメンバーならではの結果だと思います。

B-1 Sandu
 それがますます顕著になったのが、このB面全部を使った長尺の演奏です。
 まずはデイヴ・ベイリーのメンバー紹介が良い感じで、いざ演奏を始めようとすると他のメンバーから、「ドラムスはどーしたんぁ~~」なんて声がかかり、リーダーがちょっとテレ笑いで自己紹介するあたりが憎めません♪♪
 そして「こんな感じでねっ」なんて言いながらテンポを決めてスタートするのが、クリフォード・ブラウンでお馴染みのグルーヴィなブルースですから、たまりません♪♪~♪ グイノリの4ビートをリードするペック・モリソンのウォーキングベース、健実なバックピートで共謀するデイヴ・ベイリーのドラムスというコンビネーションは、マックス・ローチがオリジナルバージョンで演じていたハードなドライヴ感よりも、むしろリラックスした黒っぽさがストライクゾーンのど真ん中でしょう。
 それゆえにカーティス・フラーのハスキーなトロンボーンがソウルフルに歌い、ばっちりのタイミングで入って来るバックリフとの掛け合いも気分は最高ですし、こういうセッションでは常套手段という途中での倍テンポの煽りも「お約束」を見事に成し遂げています。
 そしてクラーク・テリーのエンタメ系のアドリブ、逆に生真面目にハードバップを体現するジュニア・クック、歯切れの良いピアノタッチでギリギリにエグイところまで行くホレス・パーランというソロ回しは、当たり前すぎるほどに充実しています。
 しかもお客さんがその場にいるのに、決して媚びたり、派手なブローなんかやらないんですねぇ~。例に出して申し訳ありませんが、JATPみたいなタガが外れそうな狂熱プレイは出ないのです。しかし、それでいてジンワリと温まっていくその場の雰囲気♪♪~♪

ということで、一聴すれば地味でありきたりなハードバップという印象ですから、決して入門者向けではありませんし、つまらないと言えば、確かにマンネリな雰囲気は否めないかもしれません。

しかしハードバップが爛熟していたセッション当時の濃厚なムードが、デイヴ・ベイリーという極めてシンプルなスイングに徹したドラマーによって、あくまでも自然体に楽しめるのはジャズ者の幸せのひとつじゃないでしょうか。

極限すればBGMでも良いと思いますし、実際、雑誌でも読みながらジャズ喫茶に屯しているムードにはジャストミートかもしれません。しかしそれも、ジャズを楽しむ方法のひとつとして、私は好んでいるのでした。

ちなみにデイヴ・ベイリーは、この手のリーダー盤がお得意で、特に「Listen!」と裏書された「Bash (Jazzline)」は名盤扱いですが、このアルバムでもジャケットに堂々と記載された「A Treasury Of Soul」が全てを物語っていると思います。

コメント
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