OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

若き日のペッパーの勢い

2009-01-26 12:08:40 | Jazz

The Late Show / Art Pepper (Xnadu)

自惚れや若気の至りとは違うところで、人間には誰しも怖いもの知らずの時期が必ずあるんじゃないでしょうか。今では怖いものがいっぱいというサイケおやじにしても、そんな頃がありました。

本日の主役、アート・ペッパーにしても、歴史に名を残す天才アルトサックス奏者ですが、その人生は波乱万丈……。芸術的なアドリブの才能を悪いクスリによって自滅させていったところから、復帰後の賛否両論の活動まで、常に多くのファンに支持されていたとはいえ、やはり1950年代の鮮烈な演奏に勝るものはないと思います。

それは同時に、アート・ペッパーが麻薬に深入りしていた事実をも容認することであり、しかし本人は怖いもの知らずの勢いというか、それゆえの天才性の発揮していたというのは、贔屓の引き倒しでしょうか……。

このアルバムはスタン・ケントン楽団から独立して結成したカルテットの、公式初リーダーセッション直前のライヴを発掘した貴重な1枚で、まさに全盛期真っ只中の演奏が楽しめます。

録音は1952年2月12日、メンバーはアート・ペッパー(as)、ハンプトン・ホーズ(p)、ジョー・モンドラゴン(b)、ラリー・バンカー(ds,vib) という凄いバンドですが、この時の録音からはもう1枚、「Th Ealy Show」というアルバムが出ていて、どちらも同等の素晴らしさ♪♪~♪

ちなみにこれを録ったのは、ポブ・アンドリュースという熱心なマニアだったそうですが、1970年代にレコード化されるにあたり、丁寧に音質の補正が行われ、余計な拍手等も削られていますので、その良し悪しは別としても素直に演奏そのものを楽しめます。

A-1 A Night In Tunesia
 モダンジャズの定番曲で、アルトサックスの演奏としてはチャーリー・パーカーの歴史的な名演が残されていますから、それをアート・ペッパーが演じるというだけでワクワクしてきますねぇ~♪ アルバムの初っ端に置かれたのもムベなるかなです。
 そして結果は、やはり名演!
 躍動的なリズム隊が作りだすエキゾチックなビートのリフと浮遊感が素晴らしいアート・ペッパーのテーマ演奏から、チャーリー・パーカーが有名にした、めくるめくようなブレイクを逆手にとったアドリブの入り方には独特の愁いが漂い、ここだけで完全に酔わされます。
 さらに続くアドリブパートの胸キュン感と熱いエモーションの、良い意味でひねくれた解釈は聴くほどに絶品ですし、ハンプトン・ホーズとの協調関係も抜群なのでした。

A-2 Spiked Punch
 アート・ペッパーのオリジナルで、ちょっと怠惰でせつないブルース感覚が最高の演奏になっています。ユルユルなのにビートの芯を失っていないバンド全体のグルーヴも凄いですねぇ~♪
 アート・ペッパーも決してそれに甘えない鋭さは流石ですし、ハンプトン・ホーズの意外にも白っぽい演奏が結果オーライというか、ほどよいファンキーさは曲想を大切にした証だと思います。

A-3 The Way You Look Tonigh
 これは定石どおり、アップテンポでブッ飛ばしたスタンダード曲の痛快演奏! 些か上滑りしたようなテーマアンサンブルから一転、アドリブパートは「ペッパーフレーズ」が出まくった大サービス♪♪~♪
 リズム隊はちょっと単調ですが、これでいいんでしょうねぇ~。

A-4 Minor Yours
 これもアート・ペッパーのオリジナル曲で、凝ったテーマアンサンブルとダークなメロディ、快適なテンポとメリハリを狙ったアレンジが、それなりに上手くいっています。
 ただしそんな目論見は、アート・ペッパーのアドリブフレーズには太刀打ち出来ていないようです。テキパキとしたハンプトン・ホーズも、なかなかの力演なんですが……。

A-5 Suzy The Poodle
 アート・ペッパー初期の名演として翌年にはスタジオバージョンも残された名曲の、それに先出す白熱のライブバージョンです。
 スピードのついたテーマアンサンブルをリードし、さらに舞い踊るが如きアドリブフレーズの乱れ打ちとなりますから、そこにはジャズを聴く喜びがいっぱい♪♪~♪
 ハンプトン・ホーズの力演からアート・ペッパーが絡んでいく後半の展開も強烈ですし、まさに怖いもの知らずの勢いが、ここにあります。

B-1 Easy Steppin'
 これまたアート・ペッパーのオリジナル曲ですが、実に秀逸なアドリブ構成と絶妙なリズム感に支えられたアドリブが芸術の名演です。
 ミディアムテンポで微妙に粘っこいリズム隊も素晴らしく、それゆえにアート・ペッパーが天才性を存分に発揮出来たのでしょう。もちろんハンプトン・ホーズも、これしか無いの得意技を完全に披露しています。

B-2 Chili Pepper
 これも初期アート・ペッパーを語る上では外せない曲のライブバージョン♪♪~♪ 浮き立つようなラテンビートと楽しいメロディが印象的ですが、ここではラリー・バンカーが、あえてヴァイブラフォンを演奏し、テーマアンサンブルでは絶妙の彩を添え、またアドリブパートも歌心がいっぱい♪♪~♪
 そしてアート・ペッパーが続く瞬間にはドラムスの席に戻り、快適なブラシのサポートですから、流石です。もちろんアート・ペッパーも出来すぎのアドリブソロで期待に応えますし、ドラムス抜きでも強靭なビートを生み出すピアノとベースの存在も実に強力だと思います。
 カチッと纏まったスタジオバージョンよりも、個人的はこちらが好きなほどで、特にアート・ペッパーのフワフワして鋭いアドリブソロは、隠れ名演の決定版じゃないでしょうか。ハンプトン・ホーズも好演です。

B-3 Lamjhp
 アート・ペッパーのオリジナル曲とされていますが、そのテーマメロディは明らかに自身のアドリブフレーズそのものというクールな佇まいが素敵!
 ですから、本番のアドリブパートでも唯一無二の「ペッパーフレーズ」が出まくりですよっ! しかしそれが、何故かリー・コニッツに近づいているのも興味深いところ……。
 それとハンプトン・ホーズがグイノリの快演で、個人的には、この当時が全盛期かもしれないと思うほどです。 

B-4 Everything Happens To Me
 マット・デニスが書いた、私の大好きな歌物スタンダードで、この時期のアート・ペッパーにとっても十八番にしていた曲ですから、いきなりのメロディフェイクから、もう泣きそうになりますよ。
 あぁ、この消え入りそうに弱気の表現♪♪~♪
 ただ、それだけの演奏にして、ファンには絶対の価値があると思います。

B-5 Move
 ビバップ時代からアップテンポで演じられる定番曲を、尚更に猛烈なスピードで吹きまくるアート・ペッパーの素晴らしさっ! その綱渡り的なスリルと絶対のリズム感は抜群のコントラストで、聴く者をゾクゾクさせます。
 ハンプトン・ホーズも懸命の熱演ですし、後半のソロチェイスの鮮やかさ!

ということで、全てが名演であり、「お宝」です。

しかもライブの現場とあって、スタジオ録音では感じることの出来ない一発勝負のスリルと緊張感、さらに気取らないリラックスした演奏姿勢が、ここでは完全に良い結果となっているのでしょう。

自伝や評伝でも公になっているように、この頃から悪いクスリに浸りきっていたアート・ペッパーやハンプトン・ホーズにしても、これだけの演奏が出来てしまえば、ウシロメタサ、なんてものは無かったのかもしれません。

ファンとしては、それゆえに以降の演奏活動が制限され、結果的に素晴らしい瞬間の多くが失われてしまったのは残念としか言えませんし、ここで聴かれる至福の桃源郷を、そんな愚行の賜物なんて思いたくもありません……。

ただ、怖いもの知らずの若さの勢いというのは、やはり素晴らしい結果に繋がることが多いという証だけは、間違いなくあるでしょう。

純粋にジャズ的な見地からすれば、ここに残された演奏は世界遺産だと思います。それを素直に楽しむことは、決して罪悪ではないのです。

コメント
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