OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

コルトレーンの過激に貫け!

2008-11-21 14:01:53 | Jazz

John Coltrane Live At The Village Vanguard (Impules!)

ジョン・コルトレーンが一番過激だったのは何時頃でしょう?

一般的には集団でドシャメシャをやった「Ascension (Impulse!)」、あるいはバンド演奏の極北を演じた「Transition (Impulse!)」や「Sun Ship (Impulse!)」あたりでしょうか? それとも新しい地平に挑んだ「Giant Steps (Atlantic)」……?

と、まあ様々な作品が浮かんでくるわけですが、私はエリック・ドルフィーと組んでいた1961年後半の演奏に一番の凄味を感じています。

そしてその最初の公式記録が本日の1枚で、タイトルどおりに今では聖地となったニューヨークのクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのライブ盤! 自分のバンドを結成し、信じる道を邁進していたジョン・コルトレーンのさらなる挑戦が厳しい姿勢で残された傑作です! と断言する他はありません。

メンバーはジョン・コルトレーン(ts,ss)、マッコイ・タイナー(p)、レジー・ワークマン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds)、そしてエリック・ドルフィー(as,bcl) とされていますが、実は後に明らかにされた、その驚くべき全貌によれば、録音は1961年11月1~5日に行われ、参加メンバーも多彩に入り乱れていたのです。それは追々、別の機会に譲りますが、このアルバムはその音源から抜粋された3曲のみで構成され、ジミー・ギャリソン(b) も参加しています――

A-1 Spiritual (1961年11月3日録音)
 タイトルどおり、厳かな雰囲気に充ち溢れたジョン・コルトレーンのオリジナル曲ですが、ここでの演奏は低音域で蠢くエリック・ドルフィーのバスクラリネット、そしてドロロロロロォ~~と下地を作るエルビン・ジョーンズのドラムスがオドロのムードを醸し出すテーマ部分で、気分は高揚します。もう、ほとんどここだけで、演奏全体が決まってしまった感まであるんですねぇ~♪
 もちろんコルトレーンの真摯な吹奏も素晴らしく、テーマメロディをこれ以上ないほどディープに変奏していく前半のテナーサックスの響きは、以降の演奏からすれば地味なほどですが、ひとつひとつの音を大切にして自己の熱い心情を吐露していくジンワリした表現は圧巻だと思います。
 またそれをサポートするレジー・ワークマンの重厚にして挑戦的なペースワークも侮れず、エルビン・ジョンーズのポリリズムも冴えまくり♪
 ですからエリック・ドルフィーは、それとは対極的なエキセントリックでネクラなアドリブに終始して、特に最初のフレーズは衝撃的ですから、続くマッコイ・タイナーも十八番の饒舌な暗さが全開♪
 当然ながら、このアルバムはジャズ喫茶の定番になっていますが、この演奏のダークな情熱は暗い「昭和のジャズ喫茶」にはジャストミートですし、もうひとつ、あくまでも個人的な想いですが、1960年代中頃からのドラッグ系サイケロックの味わいまでも含んでいると感じます。というか、例えばサンフランシスコで活動していた多くのサイケロックバンドは、相当にジョン・コルトレーンの演奏を好んでいたそうですから、さもありなんですね。
 演奏は後半に入ってジョン・コルトレーンがソプラノサックスに持ち替え、短いアドリブを演じた後には、再び重厚なテーマアンサンブルで盛り上がります。あぁ、やっぱり私はシビレが止まらないのでした。 

A-2 Softly As In A Morning Sunrise (1961年11月2日録音)
 マッコイ・タイナーのスイングしまくったピアノからスタートするスタンダード曲の演奏で、これも名演の中の大名演だと思います。エルビン・ジョーンズの粘っこいブラシもたまりませんし、レジー・ワークマンの地鳴りのようなベースも基本に忠実ですから、マッコイ・タイナーも音符過多なスタイルの中に歌心も満点♪
 そしていよいよ登場するジョン・コルトレーンはソプラノサックスで強烈なアドリブの乱れ打ち! エルビン・ジョーンズもスティックに持ち替えて煽りも一層に苛烈となり、バンドとしての一体感も申し分ありません。
 暴虐の中から浮かんでは霧散していく歌心は、特にジョン・コルトレーンの持ち味のひとつですが、それが最良のパターンとしてラストテーマの吹奏は最高に好きです。テーマメロディがサビのところでハラホレヒラヒラと裏返っていく瞬間には、歓喜悶絶しかありませんねっ♪
 ちなみにエリック・ドルフィーは登場しませんが、結果オーライだと思います。

B-1 Chasin' The Trane (1961年11月2日録音)
 さてこれが、問題と言うか、熾烈なブルースのコルトレーン的解釈は極北! マッコイ・タイナーは参加しておらず、ベースもジミー・ギャリソンに交替していると後年のデータでは明らかになっていますが、そんな事は関係ないほどにジョン・コルトレーンはどこまでも暴走していきます。
 一説によると、この時のライブレコーディングには担当のヴァン・ゲルダーがステージ前のテーブルに機材を設置し、激しいアクションで吹きまくるジョン・コルトレーンのテナーサックスをスタンドマイクを竿のように腕で持ちながら追いかけたというほどですから、その勢いと熱気は完全降伏して当然でしょうねっ!
 エルビン・ジョーンズも必死のドラミングですし、ジミー・ギャリソンの余裕の無さが逆に熱いものに変化して、まさにジャズが最良の時代を追体験出来ると思います。
 しかしリアルタイムの現実は、これほど凄いジョン・コルトレーンのバンドに対して辛辣な評価が多く、レコードは売れないし、クラブ主体の巡業にしても一部のスノッブなファンにしかウケないという状況だったようです。つまり明らかに浮いていたんですねぇ……。まあ、今となっては時代に先んじていたのですが。
 それでもジョン・コルトレーンは常に前向きで、このライブレコーディングも最初の企画では一晩だけの予定だったものが、セッションの前に様々な新趣向を持ち込むジョン・コルトレーンの情熱に感銘を受けたプロデューサーのボブ・シールは、ついに連続しての録音に踏み切ったと言われています。
 ただし後に公となった音源は、明らかに当時としては斬新過ぎたようで、まずはこのアルバムの3曲だけが世に出たのです。
 そのあたりの事情は、コンプリートの音源集で尚更にはっきりしますが、このアルバムにしても、何時までも古びない新鮮な演奏ばっかりですし、エリック・ドルフィーという、やはり当時の過激分子を加えてのバンドは熱すぎて危ない雰囲気が濃厚すぎます。
 もちろん前述した後年の作品群も激烈ですが、それは時代が許していたところが無きにしもあらずかと思います。まあ「Giant Steps」に関しては別格でしょうが、それだってこの時期への助走という意味合いが強いのではないでしょうか。
 ちなみにエリック・ドルフィーは、この演奏ではラストテーマの最後の最後に、一瞬だけ絡みに出るだけというのも味わい深いと思います。

ということで、既に述べたように残り音源を聴いてしまうと、このアルバムは無難な演奏しか収められていないような気も致しますが、それは錯覚でしょうねぇ。当時としたら、こんな危険極まりない、ある意味では醜悪とまで貶された作品だったとか……。

ですから以降のジョン・コルトレーンは歌物バラード集を出したり、ステージでも激しい演奏から和みのスタンダード曲を予定調和っぽくやるしかない状況になるのです。

しかしその限られた中に燃え上がる意欲と熱血は確かに存在し、例えばこのアルバムと同じセッションからは「Impressions (Impulse!)」と「The Other Village Vanguard Tapes (Impulse!)」いうアナログ盤のLPが、後年に発売されました。

それは時代が追いついたというよりも、ジョン・コルトレーンの信念と行動が時代を作ったというのは今更、確認する必要も無いと思います。

やっぱりジョン・コルトレーンの過激な部分も、私は好きです。

コメント (2)
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