■Martians Come Back! / Shorty Rogers and His Giants (Atlantic)
ショーティ・ロジャースといえば、西海岸派のトランペッターとして、チェット・ベイカーとはちょっと違ったところで人気と実績を積み重ねた人でしょう。
あくまでも私見ですが、その作編曲能力の上手さに基づく「売れセン」狙いの的確さとジャズの伝統を大切にしたバランス感覚の良さは、なかなか好ましいと思います。もちろんシャリコマどっぷりの作品も作っていますし、ハリウッド音楽産業の中核を担った時期も含めて、必ずしもジャズばかりやっていたわけではありませんが、しかし例えば「His Giants」名義のアルバムは傑作が多く、本日ご紹介の1枚も充実しています。
録音は1955年10~12月、メンバーはショーティ・ロジャース(tp,flh,arr) 以下、ハリー・エジソン(tp)、コンテ&ピート・カンドリ(tp)、ドン・ファガーキスト(tp)、ボブ・エネボルゼン(tb)、バド・シャンク(as)、ジミー・ジェフリー(ts,cl,bs)、バーニー・セッセル(g)、ルー・レヴィー(p)、リロイ・ヴィネガー(b)、シェリー・マン(ds) 等々のスタアプレイヤーがセッション毎に入り乱れ、様々な編成による快適な演奏が楽しめます。
A-1 Martians Come Back (1955年10月26日録音)
なんともユルキャラのメロディというオトボケのブルースですが、リズム隊のビートがなかなかにテンションが高いという、ちょっとクセになりそうな演奏です。
曲タイトルの「帰ってきた火星人」というのは最初、意味不明だったんですが、ラジオのジャズ番組で油井正一先生が語られたところによれば、この演奏以前にショーティ・ロジャースは「Martians Go Home」というヒットを出していたそうで、つまりはその続篇という目論見がズバリと当たったわけです。
実際、グルーヴィなリズム隊をバックに気抜けのビールみたいなクラリネットを聞かせるジミー・ジェフリーは、逆説的な名演でしょう。ハスキーな音色も、たまりませんねぇ~♪
もちろん主役のショーティ・ロジャースはミュートでスラスラとしたフレーズの積み重ねが何時ものとおりの心地良さですし、不思議な心持ちにさせられるアレンジの妙は当時のハリウッド的最先端なのでしょうね。
そう思えばジャケ写でチープな宇宙ヘルメットみたいな扮装のショーティ・ロジャースにも得心がいきますが、こういうのって、ここで聞かれるように重心の低いリズム隊がなければ笑えないシャレで終わってしまう気がしていますから、流石というか……。
A-2 Astral Alley (1955年12月6日録音)
一転してシャープなトランペット隊の合奏が冴えまくりという演奏です。アップテンポでも一糸乱れぬアンサンブルと各トランペッターのアドリブ合戦が、実に爽快! アドリブソロの順番は原盤裏解説に載っていますが、特にソフトで流麗なドン・ファガーキストとミュートで迫るハリー・エジソンと続く終盤が熱いです。
ちなみにアール・グレイというピアニストは、ミエミエの変名らしいですが、前述した油井正一氏の見解ではルー・レヴィーらしいとの事です。しかし裏ジャケットには堂々とルー・レヴィーのクレジットが別に記載されているのですから???
まあ、それはそれとして、ここでもリズム隊が大ハッスルで、ショーティ・ロジャースの作編曲には、こうした強いビート感が欠かせないのかもしれません。
A-3 Lotus Bud (1955年11月3日録音)
ジミー・ジェフリーのクラリネットがリードするテーマメロディは、なかなかにソフトな幻想性が魅力的♪♪ 原盤裏解説によれば、タイトルどおり、バド・シャンクに捧げられた曲ということですが、何故か当事者は参加していないのがミソでしょうか……。
ショーティ・ロジャースのフルーゲルホルンも味わい深く、ルー・レヴィーのピアノも素敵な歌心を発揮していますが、ここでもやはりジミー・ジェフリーのクラリネットが強い印象を残しています。
A-4 Dickie's Dream (1955年12月16日録音)
カウント・ベイシー楽団が十八番のカッコ良~いジャズの名曲を、西海岸派ならではのスマートな感覚で焼き直した名演です。このウキウキしたテーマリフの合奏、躍動的なリズム隊のビシッとキマった存在感がたまりません。
ちなみにショーティ・ロジャースはカウント・ベイシーの崇拝者として、偉人に捧げるアルバムも作っているほどですから、もちろんそのキモになっているベイシー調は大切にされています。例えばピート・セラという、これもどうやら変名参加のピアニストが徹底的にベイシーライクなピアノを聞かせれば、バーニー・ケッセルのリズムギターはフレディ・グリーンを意識しているようです。
しかしアドリブに入れば、各人が自分の個性を極力大切にした熱演の連続で、バド・シャンクのアルトサックスは黒っぽくて粋なフィーリングが全開! またカウント・ベイシー楽団のスタアブレイヤーだったハリー・エジソン、負けじとハッスルしたショーティ・ロジャースも曲の基本となる泥臭い感覚が捨て難い魅力ですから、単なるパロディではない名演だと思います。
B-1 Papouche (1955年11月3日録音)
B面に入っては、いきなり迫力満点の西海岸ハードバップの快演です。明快なリズム隊のシャープなスイング感とバンドの纏まりが痛快ですねぇ~~♪ ショーティ・ロジャースがフルューゲルホルンで十八番のフレーズを吹きまくれば、ジミー・ジェフリーのバリトンサックスが独特の味わいを聞かせてくれますが、ルー・レヴィーのピアノが疑似ホレス・シルバーというか、強いタッチとシンコペーションの合体が冴えたアドリブに加えて、バンドアンサンブルの要としての活躍も聞き逃せません。
B-2 Serenade In Sweets (1955年12月6日録音)
タイトルどおり、ハーリー・スウィート・エジソンがミュートトランペットでリードするテーマからして、これもカウント・ベイシー調が濃厚な仕上がりです。アンサンブル部分のトランペット合奏が、本当に気持ち良いですよっ!
肝心のショーティ・ロジャースはソフトな歌心に徹しているようですが、ここでも参加したトランペッターのアドリブ合戦が理路整然と進行するあたりに、ウエストコーストジャズの真骨頂があると感じます。ちなみに気になるアドリブソロの順番は原盤裏ジャケットに記載されていますが、やはりハリー・エジソンの存在感が抜群なのでした。
B-3 Planetarium (1955年10月26日録音)
クインテットで演奏される典型的なウエストコーストジャズという、実に爽快な仕上がりが個人的には些か物足りないところ……。
もちろんリズム隊のハッスルしたノリは気持ち良いですし、スラスラと流れるように披露されるメンバーのアドリブも痛快至極! もちろんバンドアンサンブルも完璧なんですが、そうしたソツの無さに、かえって我儘を言いたくなるのが問題かも……。
B-4 Cahnt Of The Cosmos (1955年12月9日録音)
オーラスは、トロンボーンやフレンチホルンも入れた、所謂マイルス・デイビスの「クールの誕生」系の演奏ですが、バンドのノリそのものがカウント・ベイシー調という不思議な仕上がりになっています。
しかしジミー・ジェフリーのハスキーなクラリネットがプレス漏れみたいな禁断の裏ワザを聞かせたり、ノンビリしすぎたようなショーティ・ロジャースのミュートトランペットが遊び心を漂わせるあたり、やはりタダでは済まない雰囲気が流石です。
ちょっと聴きにはダレダレの演奏に感じるんですが、意外に奥が深いのかもしれません。
ということで、最後の2曲は些かイマイチの演奏かもしれませんが、全体としては西海岸派ジャズ全盛期の仕上がりだと思います。
ただしアナログ盤はオリジナルでも盤質そのもの、つまり使われた塩ビが良くないんでしょうか、私有盤に限ってかもしれませんが、音が良くありません。低音が歪んだり、カッティングレベルも薄いという……。このあたりがアトランティックという会社の問題点だと、私は常々思っているのですが、いかがなもんでしょう。
これはCDが出ているので、買ってからの比較も必要ですが、演奏そのものは素晴らしいので、素直に楽しむのが得策かもしれませんね。