今日で仕事からリタイアする人がいます。
わりと地味な存在でしたが、私は頼りにしていましたし、人望もありました。
つまり惜しまれて辞めていくわけです。
そういえば飯島愛も、惜しまれて引退するようですが、私も隠居する前には、そうありたいと、シミジミ思う今日この頃です。
ということで、本日は――
■Star Bright / Dizzy Reece (Blue Note)
やっぱりジャズは本場アメリカはニューヨークで活動してこそ、一流の証明かもしれません。
本日の主役、ディジー・リースはジャマイカ出身ながら1940年後半にイギリスへ渡り、欧州全域で活躍していたトランペッターという履歴がありながら、結局、我国で知られるようになったのは、アメリカの名門レーベル=ブルーノートへの吹き込みがあったからでしょう。
もちろん大変な実力者という評判はアメリカにも届いていたらしく、欧州吹き込みの音源がブルーノートに買い取られて発売されたアルバムもあるほどです。
そして各方面からの要請で、ついに渡米したディジー・リースが、その実力を遺憾なく発揮したのが、この作品というわけです。
録音は1959年11月9日、メンバーはディジー・リース(tp) 以下、ハンク・モブレー(ts)、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds) という、当時最強のハードバッパーが顔を揃えています――
A-1 The Rake
強靭なポール・チェンバースのベースにリードされ、ファンキーで幾何学的なテーマが始まった瞬間から、もう、気分はハードバップそのまんまです♪
アドリブパートで先発するのは、もちろんディジー・リースですが、しかしそのスタイルはハードバップばかりではなく、ちょっと古いスタイルの歌心というのは、昔から指摘されているところですが、これが、良いんです♪
そして、その古さが独自のエモーションに繋がっているのは、リズム隊のグルーヴィな煽りだと思います。実際、アート・テイラーの的確な伴奏とウイントン・ケリーの絶妙なオカズ&コード付けあたりは、聴くほどにシビレます。
もちろん、それに感応して粘っこく、マイルドなフレーズを吹きまくるハンク・モブレーも素晴らしいですよ♪ ここでアルバム全体の雰囲気が決定されたという感じでしょうか。
A-2 I'll Close My Eyes
モダンジャズではブルー・ミッチェル(tp) の快演があまりにも有名なスタンダード曲ですが、同じトランペッターとしてディジー・リースも負けていませんし、両方のセッションでピアノを担当したのがウイントン・ケリーという因縁が、絶妙のアクセントになっています。
まず、いきなりテーマを吹くディジー・リースの温か味が、たまりません♪
伴奏のウイントン・ケリーの弾け方も良いですねぇ~♪
するとアドリブ先発のハンク・モブレーが大ハッスルのブレイクから絶好調の「モブレー節」を連発してくれますから、ハードバップ最高の瞬間が現出されるのです。
そしてディジー・リース! 全てが「歌」というアドリブはブルー・ミッチェルとの擬似バトルというか、実際、聴き比べて軍配を上げるのが困難というのが本音です。
もちろん、その影の立役者がウイントン・ケリーというのは言わずもがな! 本当に聴いていて泣きそうになるほどです! するとポール・チェンバースが硬派なベースソロでハードバップ本来のドライな面を聞かせてくれるのでした。
A-3 Groovesville
A面最後はディジー・リース作曲になっていますが、当時お約束の即興的なハードバップのブルースで、こういう曲調になるとウイントン・ケリーを中心としたリズム隊がノリまくりです♪ あぁ、ハードバップ万歳!
そしてディジー・リースの押えた表現がディープなモダンジャズ魂という感じで好ましく、本当に良いフレーズの金太郎飴状態♪ 当然、ハンク・モブレーも楽しい自己表現に撤して、これぞハードバップという存在感を示してくれます。
それとアート・テイラーの小刻みなオカズと太いビート感のコントラストも強烈ですねっ♪ 気心の知れたリズム隊のグルーヴは、やはり天下一品です。
B-1 The Rebound
これもディジー・リースのオリジナル曲で、叩きつけるような強烈なハードバップに仕上がっています。
特にリズム隊のグルーヴは怖ろしいほどで、グイノリのポール・チェンバースに弾けるウィントン・ケリー、そして爆裂のアート・テイラー! しかも要所でグルになったビートのアクセントを付けてくるんですから、油断なりません。
当然、ディジー・リースもハンク・モブレーも、本当に気持ちの良いフレーズを綴ります。これはジャズ者にとって、至福の時間でしょうねぇ♪
B-2 I Wished On The Moon
これは古いスタンダードなので、ウィントン・ケリーもそれ風のイントロをつけていますが、ディジー・リースは本領発揮の歌心を披露してくれます。
それは既に述べたように、やや中間派っぽいフレージングの妙とでも申しましょうか、和みと温か味に満ちたディジー・リースならではの持ち味でしょう。ハンク・モブレーも、そのあたりは百も承知というか、やはり独自のタメとモタレを活かした展開で、モブレーマニアは思わずニヤリ♪ ホンワカ系の音色も素敵です。
またウイントン・ケリーが物分りの良い雰囲気で、これもOKです。
B-3 A Variation On Monk
アルバムのラストを飾るのは、ディジー・リースの書いた刺激的なハードバップですが、タイトルにある「Monk」はあまり感じません。
なにしろイントロからウイントン・ケリーが颯爽と飛ばしまくり、息の合った痛快なテーマからハンク・モブレーが、俺に任せろ! これぞ「モブレー節」というアドリブを披露してくれます。リズム隊の煽りもハードバッブそのものという強烈さ!
ですからディジー・リースも柔らかさの中に芯の強いフレーズで対抗していますし、ウイントン・ケリーが、これまた、たまらないノリです。と言うか、リズム隊が凄すぎますねぇ~♪
しかし終盤にテープ編集疑惑があるのは??? まあ、それもアート・テイラーのドラムソロで帳消しですが……。
ということで、これはガイド本にもあまり紹介される事が無いであろう、隠れ名演盤だと、言い切ってしまいます。
主役のディジー・リースは、もちろん素晴らしく、相方に起用されたハンク・モブレーも絶好調なんですが、特筆すべきはリズム隊の凄さでしょう。とにかく3人の息がぴったり合ったグルーヴィな伴奏は、当にハードバップの真髄を抉り出していると思います。
しかし、こんな名演を残したディジー・リースは、1960年代に入ると、結局はイギリスに戻っていきました。まあ、本場の水が合わなかったのか、ちょっと不明ですが、ここで共演したハンク・モブレーとはウマがあったようで、ハンク・モブレーが欧州巡業に来た時には共演していたそうです。
つまりここでの快演は、同じ資質を持った者どおしの共感があってのことかもしれません。個人的には愛聴盤のひとつになっています。