OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

デトロイトはハードバップの街だった

2009-01-05 12:46:29 | Jazz

Motor City Scene (Bethlehem)

デトロイトは自動車と町であり、また今となってはアメリカ大衆音楽の供給地として認識されています。例えば1960年代に大ブレイクしたR&Bポップスの所謂モータウンサウンドは、デトロイトで設立された黒人経営のレコードレーベルで生み出されたものですし、それ以前には優れたジャズプレイヤーを多数、ニューヨークへ送り出しています。

そしてデトロイト周辺も含めて、その地域で活躍していたメンツを集めた企画演奏アルバムも、当然ながら何枚も作られていて、例えばサド・ジョーンズ(tp) をリーダーに据えた「Detroit New York Junction (Blue Note)」とか、新進気鋭の紹介を兼ねた目論見もあった「Jazzmen Detroit (Savoy)」あたりは、特に有名でしょう。

ただし前述のアルバムは、諸事情から参加メンバー全員がデトロイト出身者ではありませんでした。しかしようやく、その目論見が叶ったセッションが、本日の1枚です。

録音は1960年、メンバーとドナルド・バード(tp)、ペッパー・アダムス(bs)、トミー・フラナガン(p)、ケニー・バレル(g)、ポール・チェンバース(b)、ヘイ・ルイスことルイス・ヘイズ(ds) という純粋ハードバップの面々ですから、気心の知れた和みの快演が楽しめます。。

A-1 Stardust
 ホーギー・カーマイケルが書いた、誰もが知っている胸キュンのメロディを、ドナルド・バードが小細工無しに朗々と吹いてくれるのが、まずは嬉しい演奏です。
 そしてなりよりも盤に針を落とした瞬間にポーンと絶妙にエコーの効いたピアノの一音だけというイントロが、実に印象的! そしてすぐさま入ってくるドナルド・バードの艶やかなトランペットの鳴り、それをサポートするベースの寄り添い方も素晴らしいかぎりです。
 もちろんトミー・フラナガンの伴奏も最高ですから、ドナルド・バードも心置きなく原曲メロディのフェイクに勤しみ、じっくりと歌心を醸成させていきますが、これだけのスローテンポで10分を超える演奏時間ということで、ダレる寸前の危うさも否定出来ません。
 しかしそれがギリギリのところでスリルに繋がっているのも、また事実でしょう。それは秀逸なリズム隊によるところ、さらにドナルド・バードの真摯な演奏姿勢というのは、贔屓の引き倒しかもしれませんが……。正直、もう少し緊張感があれば、という気分にさせられますね。
 ちなみにこれはドナルド・バードのワンホーン演奏で、ケニー・バレルさえも休んでいますから、トミー・フラナガンの名人芸が尚更に眩しいのでした。

A-2 Philson
 ペッパー・アダムスが書いたオリジナルのブルースで、まずはポール・チェンバースのウォーキングベースがリードするイントロ、それに続く合奏で気分はグル~~ヴィ♪♪♪ 実際、このヘヴィなファンキー感覚は、かけがえのないリアルタイムのハードバップだと思います。
 そしてアドリブ先発のペッパー・アダムスが、これしかないのゴリ押しバリトンを熱く咆哮させれば、ケニー・バレルはグッとタメの効いたブルースフィーリングで対抗していくのです。あぁ、この雰囲気の良さは、たまりませんねぇ~♪ 重心の低いポール・チェンバースの4ビートウォーキングも最高です。
 またトミー・フラナガンの意図的に抑えたとしか思えないシブイ表現が味わい深く、ドナルド・バードのリラックスした好演を見事に引き出しす露払い♪♪
 ちょっと聴きには非常に地味なムードが全体を覆っていますが、こういうじっくりとしたグルーヴは、秀逸な録音とも密接に影響しあいながら、極上のハードバップを作り出していると思います。

B-1 Trio
 大衆派の名ピアニストとして人気者のエロル・ガーナーが書いたオリジナルですが、この当時はケニー・バレルの十八番としてライブバージョンも残されている楽しいリフ曲ですから、アップテンポで豪快にスイングしていくバンドの勢いが最高です。
 それはペッパー・アダムスのゴリゴリと突き進むバリトンサックスからケニー・バレルのスイングしまくったギターに受け継がれ、さらに溌剌としたドナルド・バードのトランペットからキラキラしたトミー・フラナガンのピアノへと、まさにハードバップの王道を堪能させてくれます。
 ルイス・ヘイズとポール・チェンバースのリズムコンビもハードエッジなリズムを作り出し、クライマックスではドラムスとのソロチェンジも流石ですが、ピアノとギターも含めたリズム隊がコードとビートをぶっつけ合ってゴッタ煮と化したハードなドライヴ感が唯一無二! う~ん、それにしてもルイス・ヘイズが痛快! またポール・チェンバースの唯我独尊も最高ですよっ! このあたりは録音の素晴らしさもあって、尚更にシビレがとまらないです。

B-2 Lebeccio
 ラテンビートと陽気なメロディが黒人感覚で煮詰められた、ニューオリンズのガンボという鍋物料理みたいな演奏です。もちろんその旨みは極上! ルイス・ヘイズのドラミングが同じデトロイト出身のエルビン・ジョーンズっぽいところも憎めません。
 各人のアドリブもコクがあって濃厚な味付けになっていますが、サビの4ビートの部分が全然リラックスしていないのは、凄いグルーヴだと思います。それはやっぱり名人揃いのリズム隊の実力なんでしょうねぇ~~♪

B-3 Bitty Ditty
 オーラスはサド・ジョーンズのオリジナルにして、今に至るもトミー・フラナガンの十八番となったシブイ名曲です。穏かでありながらフックの効いたメロディが、実にジャズ者の琴線を刺戟してくれます。
 そしてアドリブ先発は当然、トミー・フラナガンが薬籠中の名演です♪♪~♪ そのスインギーで奥深いメロディ感覚は本当に飽きません。またドナルド・バードも柔らかな歌心を企図しているようですが、ハードドライヴなベースとドラムスに煽られて戸惑ったり、ケニー・バレルが都会的なブルースフィーリングを漂わせるのは予定調和以上の楽しみでしょう。
 ただしペッパー・アダムスのアドリブソロが出ず、どうもテープ編集疑惑があるような……、

ということで、これは正直、名盤では無いですから、演目とメンツに期待を抱いていると些かハズレる部分も確かにあります。しかし私がこのアルバムを愛聴してしまうのは、その録音の素晴らしさ! ゴッタ煮の中に各楽器の独立した分離の良さ、それでいてガッツ~~ンとぶつかってくるような音の響きが最高にハードバップしていて、ついついボリュームを上げてしまいます。もちろん大音量ならば、なおさらにシビレるでしょう。

そうした観賞方法ではポール・チェンバースとルイス・ヘイズの存在感が強烈に素晴らしく、ウネリと剛直なモダンジャズビートの真髄が楽しめると思います。

ちなみにこのあたりはモノラル、ステレオ両ミックスとも違和感無く楽しめると思いますよ♪ CDは未聴ですが、元々が良いですから、ぜひとも「デトロイトの音」を楽しんでくださいませ。

コメント
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