■A Profile Of Gerry Mulligan (Mercury)
チェット・ベイカー(tp) とのバンドが有名なので、ジェリー・マリガンは西海岸の人だと長い間思っていたら、実は東海岸出身だと知ったのは、かなり後の事でした。
つまりそれほど作編曲が緻密でスマートなウエスト系にどっぷりの印象ですが、それも思えばマイルス・デイビスが例の「クールの誕生」で打ち出したスタイルの後追いであり、その成り立ちにはジェリー・マリガンが大きな役割を果たしていたという歴史的事実があるのですから、さもありなんと納得する他はありません。
さて、このアルバムはジェリー・マリガンがチェット・ベイカーとのコンビを解消し、ニューヨークへと戻って組んだレギュラーバンドによる幾つかの吹き込みから作られた1枚ですが、レギュラーといってもメンツ構成は流動的だったようです。しかしジェリー・マリガンの優れたリーダーシップと巧みな作編曲によって、見事に纏まった演奏はスジが通った気持良さが楽しめます。
録音は1955年9月から翌年の9月にかけて、約1年の間に行われた3回のセッションから、メンバーはジェリー・マリガン(bs,p,arr) 以下、ポブ・ブルック・マイヤー(v-tb)、ズート・シムズ(ts)、ジョン・アードレイ(tp)、ドン・フェララ(tp)、ペック・モリソン(b)、ビル・クロウ(b)、デイヴ・ベイリー(ds) が入り乱れて参加しています。
A-1 Makin' Whoope (1956年9月26日録音)
チェット・ベイカーとのコンビでヒットさせたスタンダード曲の再演ですが、ここではドン・フェララ、ポブ・ブルック・マイヤー、ズート・シムズを加えての6人編成バンドというのがミソでしょうか。
しかしオリジナルのピアノレスカルテットが持っていた軽妙洒脱な魅力を、そのまんま受け継ぎ、単にアドリブパートが増えているだけという雰囲気が否定出来ません。
厳しいことを言えば、セクステットにした効果があまり感じられないというか、それだけチェット・ベイカーとの演奏が魅力的な完成度だったという証にもなるんでしょうか。
バンドアンサンブルではハーモニーの妙とかも聞かれるのですが……。
あえてこの演奏をアルバムのド頭に持ってきたのは、やはり「再演」というウリだったんでしょうかねぇ……。
A-2 Demanton (1955年10月31日録音)
というモヤモヤをブッ飛ばすのが、この痛快なアップテンポの演奏です。
カチッと纏まったバンドアンサンブルは小型オーケストラ的な、如何にもジェリー・マリガンが十八番のスタイルですから、リーダー自らがバリトンサックスで奔放に歌いまくり、ドライヴしまくって最高です。それを彩るバックのリフやハーモニーも素晴らしく、またハードバップ系のドラムスとベースが作るグルーヴも力強いですねぇ~♪
ジョン・アードレイのトランペットもツッコミ鋭く、後半で聴かれる集団アドリブやドラムスとのソロチェンジには、本当にウキウキさせられるのでした。
A-3 Duke Elington Madley (1955年9月21日録音)
これまたジェリー・マリガンの冴えたアレンジとバンドの演奏能力の高さが堪能出来る名演です。
曲はタイトルどおり、デューク・エリントンの代表作「Moon Mist」から「In A Sentimental Mood」へと続きますが、我が国ではそれほど馴染みのない「Moon Mist」の和みのメロディ感覚を再認識させられる上手いアレンジには脱帽♪♪~♪
そのホノボノとしてゆったりとした展開は後半の「In A Sentimental Mood」でさらに深まり、ジェリー・マリガンのバリトンサックスが最高級のメロディフェイクを聞かせてくれます。その音色の深みと力強くてまろやかなムードは、本当に素敵ですね。
B-1 Westward Walk (1955年9月22日録音)
この曲は以前に10人編成のハンドによるバージョンも残されていますが、ここでは6人編成ということで、よりアドリブが全面に出た仕上がりになっています。
中でもズート・シムズがやはり素晴らしく、続くジェリー・マリガンもハッスルせざる得ませんから、後半の盛り上がりは楽しい限り♪♪~♪
B-2 La Plus Que Lente (1956年9月26日録音)
ジェリー・マリガンのオリジナル曲ながら、どっかで聞いたことがあるような、些か煮え切らない演奏です。3分半ほどの短めな構成でアレンジの妙を聞かせる趣向なんでしょうが、明確なアドリブパートも無いに等しく、???
B-3 Blues (1955年9月22日録音)
という鬱憤を消し去ってくれるのが、オーラスのブルース大会♪
とはいっても、ハードバップ的な熱血演奏ではなく、各人のアドリブはモダンスイングから西海岸系のホンワカムードなんですが、それゆえに実に和みます♪♪~♪
ジェリー・マリガンのピアノにも決して隠し芸ではない個性的なグルーヴがありますし、ズート・シムズやボブ・ブルックマイヤーの我が道を行くアドリブも流石だと思います。
それを支えるペック・モリソンとデイヴ・ベイリーというコンビも存在感満点ですし、こういう味わいの深さは地味ですが、ジャズ者にとっては「お宝」かもしれません。
ということで、これは名盤ではありませんが、ある日突然に聴きたくなるような、どこか素敵なムードが捨て難い1枚です。それは例えば宴会疲れの怠惰な休日の朝とか♪♪~♪
あ~ぁ、昨夜の宴会はつまんなかったなぁ……。なんていうボヤキも、このアルバムの演奏には見事に吸収されてしまうのでした。