■Cleveland Style / Jimmy Cleveland (EmArcy)
ジミー・クリーヴランドはビックバンドの一員、あるいはスタジオでの仕事で多くのアルバムにクレジットされている名前ですが、しかしそのトロンボーンの実力を存分に発揮するリーダー盤は極めて少ないのが残念な名手です。そして、その何れもが隠れ名盤だと私は思っています。
本日ご紹介の1枚は、おそらく2枚目の正式リーダー盤でしょう。
録音は1957年12月12&15日、メンバーはジミー・クリーヴランド(tb) 以下、アート・ファーマー(tp)、ペニー・ゴルソン(ts)、ウイントン・ケリー(p)、エディ・ジョーンズ(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という疑似ジャズテット♪ しかもドン・バターフィールドとジェイ・マクァリスターというチューバ奏者がセッション毎に加わった7人編成で、アレンジはもちろんベニー・ゴルソン、さらにお馴染みのアーニー・ウィルキンスが担当しているのですから、これだけでゾクゾクしてきますねぇ~♪ ちなみにジャケットには、このバンドを「his orchestra」なんて堂々とクレジットする稚気も憎めません――
A-1 Out Of This World (1957年12月12日録音/ Ernie Wilkins arr.)
日活映画のオープニングテーマみたいな彩豊かでハードボイルドなイントロのテーマアンサンブル、そして一転、快適なハードバップの合奏というコントラスが最初っから描かれたニクイ演奏です。
アドリブパートはアート・ファーマーのジェントルにして痛快なトランペット、それに続くジミー・クリーヴランドがバカテク系の滑らかトロンボーンという素晴らしさですし、背後には常に凝ったアンサンブルが配されています。
そして最後に登場するベニー・ゴルソンが、あのハスキーでモゴモゴした音色と温故知新のフレーズで、なんと中近東音楽みたいなアドリブを! ここは好き嫌いがあるかもしれませんし、私はどうも……、なんですが、ここから冒頭に提示されていたアンサンブルに戻していく仕掛けは、通常のハードバップとは一味違った感じで賛否両論でしょうねぇ……。
しかし力強いリズム隊のスイング感は強烈で、特にチャーリー・パーシップのシンバルは「嵐を呼ぶ男」です。
A-2 All This And Heaven Too (1957年12月12日録音/ Benny Golson arr.)
我が国ではあまり知られていないスタンダード曲ですが、その甘いメロディを活かしたベニー・ゴルソンの秀逸なアレンジ、またソフトに歌うジミー・クリーヴランドのトロンボーンには最初から感涙させられます。
もちろんアドリブパートでもベニー・ゴルソンが十八番のサブトーンを完全披露すれば、アート・ファーマーのトランペットは内気な片思い、そしてジミー・クリーヴランドは驚異的なテクニックで忌憚のない心情吐露♪ さらにウイントン・ケリーが胸キュンの粘っこいスイングですから、もらい泣きするしかありません。
チューバの参加も最高に効果的なハーモニーを生み出していますし、ユルくてグルーヴィなビートを弾き出すリズム隊も存在感を示していますから、ちょっと中毒症状が怖い名演だと思います。つまり完全なジャズテット前奏曲なのでした。
A-3 Posterlty (1957年12月15日録音/ Ernie Wilkins arr.)
冒頭からチューバを効果的に使ったメリハリの効いたアレンジ、それに続くテーマ合奏とリズム隊の凝ったアレンジ、特にウイントン・ケリーが実にシブイです。
そのあたりはアート・ファーマーのアドリブへの入り方とミュートの妙技、ベニー・ゴルソンの口ごもってハスキーなテナーサックス、ソフトな音色で驚きのフレーズを綴るジミー・クリーヴランドと、全員が歌心を大切にした名演へと結実しています。
こうした小型オーケストラ的な演奏は、まさに「his orchestra」の証明かもしれません。
B-1 Long Ago And Far Away (1957年12月15日録音/ Ernie Wilkins arr.)
良く知られたテーマメロディのスタンダード曲ですから、凝ったアレンジでのバンドアンサンブルとアドリブの妙技というコントラストが聞きどころでしょうか。安定したバンドの力量は見事ですが、それにしてもジミー・クリーヴランドのトロンポーンは圧倒的ですし、ウイントン・ケリーはスイングしまくって痛快です。
また演奏が進むにつれて熱くなっていくリズム隊と全体の雰囲気もハードバップど真ん中! アート・ファーマーがスリル満点のブレイクを聞かせれば、ベニー・ゴルソンはモリモリと突進するのですから、所期の目的というよりは結果オーライの仕上がりだったのかもしれませんねっ♪ このグイノリが凝ったアレンジをブッ飛ばしたというか♪
B-2 A Jazz Ballad (1957年12月15日録音/ Ernie Wilkins arr.)
そのものズバリの曲タイトルはアーニー・ウィルキンスのオリジナルですが、なんとなく映画のサントラ音源のような……。まあジミー・クリーヴランドにしても、そんな仕事も多かった人ですが、アンサンブルの中から浮かびあがってくるアドリブの素晴らしさは、やはり絶品です。
ウイントン・ケリーも弾みまくった胸キュンアドリブが冴えていて、短いのが勿体無いほどですが、もう少し全体の雰囲気が良かったらと悔やまれるかも……。
B-3 Jimmyie's Tune (1957年12月15日録音/ Ernie Wilkins arr.)
これまた何の芸もない曲タイトル、しかし冒頭からアップテンポで繰り広げられるトロンボーン対チューバの低音域バトルにメリハリの効いたリズムアレンジ、さらにスマートな合奏、そして豪快なアドリブパートへと至ってみれば、その場は完全にハードバップの桃源郷! ジミー・クリーヴランドからベニー・ゴルソン、さらにアート・ファーマーへと続くあアドリブのゾクゾク感は、まさにモダンジャズの醍醐味だと思います。
そしてウイントン・ケリーの颯爽としたピアノとリズム隊のハードエッジなドライブ感も、唯一無二の黄金時代なのでした。
B-4 Goodbye Ebbets Field (1957年12月12日録音/ Ernie Wilkins arr.)
オーラスはネクラなチューバの響き、さらに陰鬱なバンドアンサンブルという全く楽しくない雰囲気から一転、これぞっ、ハードボイルドというカッコ良いテーマメロディの合奏が、またしても映画のサントラ音源のような演奏です。
う~ん、それにしても力強いリズム隊の素晴らしさ! 特に基本に忠実なエディ・ジョーンズのウォーキングベースは、この演奏だけでなく、アルバム全体をがっちりと支えた縁の下の力持ちでしょうねぇ~。
ですからベニー・ゴルソンもアート・ファーマーも、思いっきりハードバップに専心して最高ですし、ウイントン・ケリーの粘っこいファンキー節は言わずもがな、ジミー・クリーヴランドの静かな闘志が抑えきれない興奮を呼ぶのでした。
ということで、これは明らかに疑似ジャズテットだと思いますが、実はこのセッションの直前には、ここでのバンドと良く似たメンツによるベニー・ゴルソンのリーダー盤「New York Scene (Contemporary)」が吹き込まれており、これはその兄弟アルバムという真相もあろうかと思います。
それは当時、この一派が目論んでいたハードバップのひとつの形態だったのでしょう。ちなみにここに参加のメンバーは、ほとんどがディジー・ガレスピーやライオネル・ハンプトンの楽団では同時期にレギュラーを務めていた盟友でした。
ガンガンとツッコミの激しいハードバップを期待すると些か肩透かしとなりますが、ジャズテット系のソフトバップがお好みの皆様には絶対のアイテムとなるでしょう。特に「All This And Heaven Too」は一聴して虜になること請け合いの名演だと思います。
その意味でベニー・ゴルソンのアレンジが、これ1曲だけなのは残念というご意見もあろうかと思います。しかし全体のムードはソフトパップの真髄というか、基本的にソフトな音色で驚愕のフレーズを吹きまくるジミー・クリーヴランドには、アーニー・ウイルキンスの凝り過ぎアレンジでも、それが自然にゴルソンハーモニーとなるんですからねぇ♪
そしてハードボイルドなカッコ良さも秘められていますから、私はこの先も愛聴していく所存です。