■Trio Conception Recorded “Live” At Blue Note Berln (Philips)
今では普通に聴けるようになったヨーロッパ産のジャズアルバムも、1980年代までは活字による紹介、そして廃盤店の壁にミステリアスなプライスで飾られるという状況でした。
そしてバブル期の頃からは欧州盤ブームと連動した企画により、各レコード会社は本格的な復刻に力を入れ始めるのですが、そうした火付け役となった名作のひとつが、本日の1枚です。
ジャケ写からもご推察のように、これはピアノトリオによるライブ盤で、録音は1963年12月16&17日、当時の西ベルリンにあった「ブルーノート」という店でのセッションが収められています。
メンバーはヤン・ハイツ(p)、ピーター・トランク(b)、ジョー・ネイ(ds) という、我が国では一般的な紹介もされていなかった面々ですが、あえてヤン・ハイツ・トリオではなく、「トリオ・コンセプション」というバンド形態が存在するようなアルバムタイトルは、ジャズ者への味わい深い「くすぐり」でしょう。実際はジャケットに「The Jan Huydts / Peter Trunk / Joe Nay Trio」とクレジットされているわけですが、ピーター・トランクとジョー・ネイは店の専属リズム隊であり、ヤン・ハイツはオランダをメインに活動していた当時注目の新鋭! そしてこの時は単身ベルリンにやって来て「ブルーノート」に出演し、このトリオを組んでレコーディングに臨んだというわけです――
A-1 Autumn Leaves
ご存じ、モダンジャズではマイルス・デイビス(tp) の十八番であり、ピアノトリオではビル・エバンスやウイントン・ケリーの決定的な名演が残されて以降、星の数ほどジャズバージョンが誕生しているわけですから、安易な選曲とはいえ、ユルフンな演奏は許されません。
このトリオにしても、それは重々承知だったんでしょう、なんとイントロでは、あのモードの名曲「Milestones」みたいなアレンジを使っているところから期待が高まります。
そしてジョー・ネイのヘヴィなブラシ、ピーター・トランクのジコチュウなベースが上手く絡みあって、ヤン・ハイツは自在なメロディフェイクとツボを押さえたアドリブで空間を浮遊していくのです。
全体の快適なスイング感は言わずもがな、極限すればウイントン・ケリーとビル・エバンスの中間のようなピアノスタイルが、実にこの曲にはジャストミート♪ 完全なる確信犯でしょうねぇ~~♪ 本当に気持ちが良いほどの狙いがズバリ!
もちろん中盤からはジョー・ネイのハードなドラミングに煽られて、演奏はグイノリのハードバップと化していきます。
A-2 In A Mellow Tone
デューク・エリントンがジャズの真相をシンプルなメロディに託した名曲を、ここではベースのピーター・トランクが主役となって、なかなかディープな解釈で聞かせてくれます。
もちろん相棒のジョー・ネイも、どっしり構えてシャープなスティックが潔いですから、ヤン・ハイツも軽妙なスイング感で彩を添えます。
そしてピーター・トランクが秀逸なペースソロを披露すれば、これが当時最新のモダンジャズ! 西ベルリンからの発信は意味深かもしれませんが、これが我が国ならば、市川秀男がピアニスト時代のジョージ大塚トリオでしょうか。
A-3 When Lights Are Law
これもジャズでは有名曲ながら、このトリオは最初っから欧州色というか、なかなか幻想的なアレンジを用いて自由な演奏を心がけているようです。まさにタイトルどおり、「トリオのコンセプション」が全開♪
そしてスローで力強いビートに支えられ、ジワジワと本領の歌心優先主義を表出させていくヤン・ハイツの実力は流石だと思います。はっきりとテーマメロディが浮かび上がる瞬間の気持ち良さ、それに続く和みのスイングは絶妙としか言えません。
また最後まで安易に妥協しないピーター・トランクのペースワークも頑固で好感が持てます。エンディングの律儀なアレンジも微笑ましいですよ♪
A-4 Tune
これは勢い満点の短いトラックで、つまりはバンドテーマでしょうね。LP時代ならではのお楽しみでしょうか♪
B-1 I Could Write A Book
これまた軽妙なスイング感が楽しいスタンダードの歌物曲で、マイルス・デイビスのクインテットバージョンがあまりにも有名ですが、ピアノトリオならばジーン・ハリスのスリー・サウンズが決定版!
ですからここでのヤン・ハイツは、またまた確信犯を演じてウイントン・ケリーをやってしまうのですが、そこには如何にもというヨーロッパの味わいが滲みますから憎めません。
しかもピーター・トランクとジョー・ネイという重量級のコンビが頑固な自己主張に徹した強靭な4ビート! 煽られたヤン・ハイツがゴスペルっぽいグルーヴに変質していく瞬間まで楽しめます。
そして秀逸なピーター・トランクのペースソロに他の2人が絡みつつ、快適なハードバップを作り出す展開は、ピアノトリオの美味しいエッセンスだと思います。
B-2 Softly, As In A Morning Sunrise
ピーター・トランクのペースソロによるネクラな独白がヘヴィな4ビートに変化し、このグッと重心の低いグルーヴは、例えばソニー・クラークのトリオパージョンに近い感じですが、ピーター・トランクの執拗な絡みつきが、如何にも1963年という雰囲気を醸し出しています。
ヤン・ハイツのピアノにも必要以上の黒い感覚はなく、既に述べたようにビル・エバンスっぽい味わいが上手いところでしょう。まあ、これは結果論かもしれません。けっこうウイントン・ケリーの路線を狙っている気もしますから♪
その意味で個人的には、やや盛り上がりに欠ける雰囲気が悔しいところです。
B-3 Tune
これもアナログ盤ならでは趣向というラスト宣言!
ということで、どうもヨーロッパのピアノ物というと、なにかしら幻想的とかフリー感覚が先入観としてありますが、これはストレートに楽しめる名演集です。既に述べたように、マイルス・デイビスのバンドに在籍していた頃のウイントン・ケリーやビル・エバンスというスタイルが心地良く、トリオ3者のインタープレイも厭味の無い充実度!
ですから欧州盤プームを牽引したのもムベなるかな、某有名コレクターが主催した観賞会で初めて聴かせていただいた日から、私の心を捕らえて離さない幻の名盤となり、ついに15年ほど前に我が国でLPが復刻された時には速攻でゲットしています。
ちなみにその付属解説書によれば、なんとこのアルバムは1964年にも日本盤が出ていたとか! おそらく当時はかなり進歩的な作品として新鮮な衝撃を与えたと思われますが、それは今も全く古びていないと思います。録音のバランスも秀逸♪
もちろんCDでも復刻されているはずですから、選曲も良いですし、ピアノトリオ好きの皆様にはイチオシの名盤だと確信しております。