■Sal Salvador Quintet Quintet (Blue Note)
白人ギタリストには流麗なテクニシャンが多いジャズ界において、殊更に私が呆れてしまうほど凄いのがサル・サルヴァドールです。
この人は最初、スタジオでの仕事をメインにしていましたが、その腕前を買われてスタン・ケントン楽団のレギュラーとなり、一躍有名になったようです。そしてそこに在籍中か、もしく退団した直後にレコーディングされたのが本日ご紹介のアルバムで、これは10インチ盤です。
録音は1953年12月24日というクリスマスイヴ♪ メンバーはサル・サルヴァドール(g)、ジョニー・ウィリアムス(p)、ケニー・オブライエン(b)、ジミー・キャンベル(ds)、そしてフランク・ソコロウ(ts) が加わっています――
A-1 Gone With The Wind / Quintet
ジョニー・ウィリアムスのピアノが幾分ダークなイントロをつけた後、快適なミディアムテンポで和みのテーマが流れてくれば、気分は完全にモダンジャズ♪ メロディを華麗にリードするサル・サルヴァドールのギターに寄り添うフランク・ソコロウのテナーサックスというコンビネーションは、典型的な白人ジャズの美味しい部分かもしれません。
アドリブパートでは各人が自然体にソロを回しますが、もっさりしたスタン・ゲッツという印象のフランク・ソコロウが良い感じ♪ ピアノのジョニー・ウィリアムスは後年、そのスタン・ゲッツのバンドレギュラーとして大活躍するジョン・ウィリアムスと同一人物でしょうね。その躍動的で楽しく歌うスタイルは、やはり魅力的です。
肝心のサル・サルヴァドールは、難しいフレーズでも全く破綻しない抜群のテクニックを披露し、その安心感が和みに繋がるという名人芸です。
A-2 Get Happy / Quartet
これが呆れかえるほどに気持ちの良い演奏で、バンドが一丸となってアップテンポの全力疾走! 特にジョニー・ウィリアムスが完全に期待に応える素晴らしさです。ジミー・キャンベルのブラシも爽快ですし、サル・サルヴァドールのギターは細かい音使いもごまかしの無い潔さで、歌心も絶妙だと思います。
A-3 My Old Flame / Quintet
一転して有名スタンダードのスローな演奏は、サル・サルヴァドールの繊細にしてハートウォームな表現が絶品です。う~ん、これは抜群に上手いピッキングがあればこそでしょうねぇ~♪ 特に後半のアドリブからラストテーマへの繋げ方にはシビレる他はありません。
けっこうダイナミックなジョニー・ウィリアムスも好演です。
B-1 This Can't Be Love / Quintet
さて、B面に入るとバンドはますます絶好調! これもお馴染みのスタンダード曲を猛烈なスピードで料理した名演で、テーマのアンサンブルからして爽快感がいっぱいに広がります♪
安定して痛快なジミー・キャンベルのブラシに乗せられるアドリブパートでは、ジョニー・ウィリアムスが躍動的にスイングしまくり、またサル・サルヴァドールは決してスケールに逃げない早弾きを完全披露! きちんと歌になっているそのフレーズ構成は圧巻です。
そして相当にハードバップっぽいフランク・ソコロウのテナーサックスも、時間が短いのが残念なほどですが、ビシッとキメるラストテーマの合奏で全ては許されるのでした。
B-2 Too Marvelous For Words / Quintet
これも幾分早めのテンポで演じられるスタンダード曲で、まずはフランク・ソコロウが素晴らしい歌心とグルーヴィなノリで最高! もっさりとした持ち味が逆に愛おしいほどですねぇ~♪
するとサル・サルヴァドールが歌心満点のスマートなフレーズを巧みに繋げながらのアドリブは、これって本当にアドリブかっ!? 全く唖然とするほどの名演を披露してくれます。そして続くジョニー・ウィリアムスもウキウキするようなジャズピアノの本質を聞かせてくれるのでした。
B-3 After You've Gone / Quintet
オーラスは、これまたスマートな白人ジャズの典型的な快演♪ 楽しいテーマメロディを最初っから巧みにフェイクしつつ、それでも軽く吹いてしまうフランク・ソコロウの上手さはニクイほどです。そしてサル・サルヴァドールの流麗にして華麗なフレーズと繊細な音色の妙は、ジャズギターの素敵なエッセンスをさらに凝縮したものでしょう。
またジョニー・ウィリアムスの弾みまくった伴奏とメリハリの効いたアドリブソロが、流石に絶品♪ バンドの纏まりも最高ですし、一聴して、やはりジャズって楽しいもんだと実感されるんじゃないでしょうか。
ということで、一般的にイメージされる「ブルーノート」という名門レーベルの色合いからすれば、かなり浮いた作品かもしれませんが、そこはアルフレッド・ライオンが直々に出馬してのセッションですから、充実度は保証付きでしょう。
ちなみにこれは多分、サル・サルヴァドールの初リーダー盤だと思われますが、実は同時期に親分だったスタン・ケントンがプロデュースしたキャピトル盤もあって、聴き比べるのも一興でしょう。
ただしギタリストとしてのサル・サルヴァドールの本質は、常に変わっていないと思います。その流麗にして繊細なスタイルは、レス・ポールとチャーリー・クリスチャンの良いとこ取りかもしれませんし、もちろん自らのスマートな感性があってこその自己確立だと思います。
これは、例えばダイナミックなタル・ファーロゥや職人的上手さのマンデル・ロウあたりと比較することさえ不粋ではありますが、そういう問答の面白さもジャズの魅力かもしれません。サル・サルヴァドールには他にベツレヘムにもリーダー盤があって、そこではタル・ファーロゥの相方だったエディ・コスタ(p,vib) との共演作もありますから、一層に興味深いのです。
またスタジオ出身で繊細華麗なテクニシャンといえば、フュージョン期に注目されたりー・リトナーが有名ですが、なんとなくサル・サルヴァドールの再来と思ったのは私だけでしょうか? ちなみにその頃のサル・サルヴァドールは指導者的な活動をしていたそうですが、なんと1970年代末頃から現役に復帰して、ハードバップっぽいアルバムを出してくれたのは、嬉しいプレゼントでした。
私有は再発の10インチアナログ盤ですが、CD化は未確認ながら、これもギター好きには欠かせないアルバムだと思います。