OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

マクリーンの未完の青春

2008-11-19 11:48:43 | Jazz

Lights Out! / Jackie McLean (Prestige)

すっかり長寿社会になった現代では妙に老成した若者も散見されますが、そういう私も若い頃から古い物にしか興味を示さない若年寄指向でした。

しかし反面、何時までたっても青春の情熱を失わない人も確かに存在しているわけで、例えばジャズ界ではジャッキー・マクリーンは、その代表選手かもしれません。もちろん既に故人ですが、今でもどこかで、あの激情のアルトサックスを吹きまくっている気さえするのです。

さて、このアルバムは多分、2作目のリーダーアルバムだと思います。

録音は1956年1月27日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、エルモ・ホープ(p)、ダグ・ワトキンス(b)、アート・テイラー(ds) という、今では夢のクインテット――

A-1 Lights Out
 ハードエッジなダグ・ワトキンスのウォーキングベース、釘打ちのリムショットと強靭なシンバルの響きが至芸のアート・テイラーが、じっくりとした4ビートを刻んで場面の設定♪ まずこれが実にハードバップの雰囲気にどっぷりです。
 そしてエルモ・ホープのジンワリしたピアノから、ジャッキー・マクリーンのギスギスしたアルトサックスが鳴り響けば、もう気分は狂おしいブルース&モダンジャズの世界なんですねぇ~~♪ もちろん王道の「マクリーン節」が惜しげもなく溢れる展開ですが、その随所には、かなり思い切ったフレーズや感情激白の音使いが強烈な印象で、当時23歳だったジャッキー・マクリーンの若気の至りとは決して言えない熱さが、もう最高です。
 続くドナルド・バードは、ミュートをあえて使ったような挑発的な姿勢が潔く、それはディジー・ガレスピーやマイルス・デイビスという元祖モダンジャズの先輩へ果敢に挑んだところでしょうか。実際、内に秘めた闘志が良い感じですし、何もかも飲み込んだリズム隊のグルーヴも素晴らしいですねぇ。
 その要となるエルモ・ホープも地味な印象ながら、ツボを外さないキメのフレーズと穏やかなピアノタッチは、リアルなモダンジャズのエッセンスを抽出した無駄の無いものと感じます。そして時折使う、けっこうエキセントリックな音もイヤミがないんですねぇ。
 演奏はこの後、トランペットとアルトサックスの掛け合いが絶妙の絡みになって大団円へ突入し、もちろんリズム隊のグルーヴィなサポートも強引なところが良い方向へ作用した熱演となっていくのでした。

A-2 Up
 タイトルどおりにアップテンポのハードバップで、2管の無伴奏ユニゾンからジャッキー・マクリーンの熱血ブレイク、そして豪快なアート・テイラーのドラミングに導かれたテーマ部分だけで、もうワクワクさせられます。
 そしてアドリブパートではドナルド・バードが曲想を活かした滑らかなフレーズを連発♪ ジャッキー・マクリーンも激しいツッコミで続きますが、ともに危なっかしいところが逆にスリルになっているという魅力が、まさにハードバップ上昇期の勢いというところでしょうか。
 またエルモ・ホープのピアノスタイルが、ジャッキー・マクリーンとドナルド・バードを一緒に雇っていたジョージ・ウォーリントンのように聞こえるのも、なかなか意味深です。
 しかしそんな思いも一瞬、豪放無頼なアート・テイラーのドラムソロにブッ飛ばされるのですが♪

A-3 Lorraine
 ドナルド・バードが自身のメロディ指向を全開させたオリジナル曲で、どこまでがテーマかアドリブが判別しかねるほど素晴らしい歌心のトランペットは至福のひととき♪ 適度な「泣き」とホロ苦い青春の思い出が滲み出た隠れ名曲、そして名演だと思います。
 もちろんジャッキー・マクリーンも、こういったムードは俺にまかせろっ! 琴線を直撃するような音色と激情のキメ、さらに泣きじゃくりのフレーズを嬉々として使う、実に憎めない奴を演じています。
 またリズム隊が、ここでも絶妙のサポートで、特にダグ・ワトキンスの強靭なビートは、こうした曲が甘さに流れない秘密かもしれませんし、エルモ・ホープの弾力のあるピアノ伴奏も秀逸だと思います。
 
B-1 A Foggy Day
 ジャッキー・マクリーンの代名詞ともなった有名スタンダード曲のハードバップ的解釈♪ その決定版のひとつが、この演奏です。とにかくギスギスした特有の音色で鳴りまくるアルトサックスは、ジャッキー・マクリーンの大きな武器でしょうねぇ~。メリハリの効いたキメを多用するリズム隊もカッコイイとしか言えません。
 ドナルド・バードもミュートで好演ですし、続くエルモ・ホープが、これぞっ! という快演でスカッとします。
 ちなみにジャッキー・マクリーンは、このセッションの直後、チャールズ・ミンガスのバンドで、この曲のもうひとつの傑作バージョンを吹きこんで、それは「直立猿人 (Atlantic)」という名盤に入っていますので、聴き比べも楽しいところですね。

B-2 Kerplunk
 ドナルド・バードのオリジナル曲で、なかなかビバップの味わいが上手く残されていますから、初っ端からエルモ・ホープがパド・パウエルに捧げたような素敵なピアノで絶好調のアドリブを披露♪ いゃ~、実に良い雰囲気ですねぇ~♪ これがモダンジャズという香りが爽快に広がっていきます。
 そしてドナルド・バードのアドリブが、これまた歌心と熱気の努力賞! 続くジャッキー・マクリーンもチャーリー・パーカー直伝の「のけぞりフレーズ」をイヤミ無く多用した熱演が、リアルな若さの証明でしょうねっ♪
 終盤で繰り広げられるバード対マクリーンのアドリブ合戦は、これもハードバップの醍醐味です。

B-3 Inding
 オーラスは、これも激しいアップテンポのハードバップで、導入部からの熱気に満ちたリズム隊の快演が強い印象を残しますから、ドナルド・バードもいきなりのブッ飛ばし! アート・テイラーのドラミングも怖さを増していきます。
 ジョージ・ウォーリントンとは似て非なるエルモ・ホープのビバップなピアノも好調ながら、ジャッキー・マクリーンのハッスルぶりは微笑ましいかぎりで、ついつい音量を上げてしまいますねぇ~~♪ 聴きながら、思わず「イイねぇ~」と言葉を発してしまうほどですよっ♪
 エキセントリックなラストテーマのアンサンブルは、ご愛敬!?

ということで、これがハードバップだっ! という快演盤です。

もちろん随所に荒っぽいところは散見されますが、力強いペースとドラムスのコンビネーションは唯一無二ですし、エルモ・ホープの硬軟巧みなピアノというリズム隊の充実度は素晴らしいと思います。

そしてジャッキー・マクリーンとドナルド・バードは、この後も数多い傑作を残す名コンビですが、その最も初期のこの時期から既に阿吽の呼吸が出来上がっています。しかしそれは、決して老成したものではなく、どこかしら未完成の魅力があって、それは彼等が現役で演奏を続けた最後まで完結しなかったものでしょう。

それが特にジャッキー・マクリーンには顕著だったように、私は思います。

コメント
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