■Norman Granz' Jam Session #1 (Mercury / Verve)
ジャズは多士済々の個人芸がウリでもありますから、いろんな名手達の演奏を聴いてみたいのは言わずもがな、しかし先立つものが無いという苦しさよ……。そこで幕の内弁当の如く、様々な味が楽しめるジャムセッション物に手を出していた時期が、私にはありました。
本日の1枚は、そうした制作姿勢が十八番のノーマン・グランツがプロデュースした名作で、ご存じJATPと称されたジャムセッション興行をスタジオで再現した企画アルバムです。
もちろんこれはセッション当時に実用化されていたレコードのLP化という、長時間録音の技術があればこそ! 参加した名手達が存分に披露するアドリブを、がっちりと記録出来るのですから、これほどぴったりの企画はありませんねっ♪
メンバーはチャーリー・シェイヴァース(tp)、ベニー・カーター(as)、ジョニー・ホッジス(as)、チャーリー・パーカー(as)、フリップ・フィリップス(ts)、ベン・ウェブスター(ts)、オスカー・ピーターソン(p)、バーニー・ケッセル(g)、レイ・ブラウン(b)、J.C.ハード(ds) という超豪華! ちなみに録音年月日には諸説があり、1952年6月5日、あるいは7月17~22日の間ではないかとされていますが、いずれにせよ、これだけのメンツが集合しているのですから、おそらくはJATP巡業のある日だったのではないでしょうか――
A-1 Jam Blues
即興的に常套手段のブルースリフをテーマに用いたアップテンポのブルース大会で、特筆すべきはリズム隊がモダンな所為もあるでしょうが、全体のノリがオフビート感覚に変化していることです。これは1940年代後半から始まり、ここまで続いてきたJATPの録音を聴けば尚更に明白で、個人的にはそれゆえにスイング派のミュージシャンも違和感無く楽しめたのだと思っています。
そして何と言っても目玉はチャーリー・パーカーの参加でしょう。モダンジャズを創成した天才でありながら、その全盛期と言われる1940年代後半はレコーディング技術の問題から、得意のアドリブが短い時間でしか残されなかったスタジオセッションも、ここではLPという新企画で解消されたのは嬉しいプレゼントです。
さて、肝心の演奏はオスカー・ピーターソンの歯切れの良いイントロからワクワクするような合奏、そしてまずはレスター派のフリップ・フィリップスが流麗にしてグルーヴィなアドリブで全体の雰囲気を決めつけます。また同時に、背後に控える面々がつけるリフも、完全にその場を盛り上げていきます。
続くアルトサックスは大ベテランのペニー・カーターですが、なかなかモダンなスタイルでカッコ良いですねぇ~♪ するとオスカー・ピーターソンが煌びやかな指使いで冴えわたりのアドリブがこれまた楽しく、いよいよ登場するチャーリー・パーカーへの見事にモダンな橋渡しです。
そしてもちろんチャーリー・パーカーは十八番のフレーズと独壇場のハードドライブでその場を圧倒! 他のベテラン達に比べると小節毎の区切りが自在というアドリブフレーズのノリには、本当にゾクゾクさせられます。J.C.ハードのドラミングも、当然ながらビシバシ度数が上がっての感度良好♪
演奏はこの後、バーニー・ケッセルのギターソロがチャーリー・クリスチャン直伝のスタイルで楽しい限りですが、真空管アンプならではの音の歪みとピッキングの微妙な関係が、個人的にはたまりません。
さらに力んだベン・ウェブスターの豪放にして下品なテナーサックスも、ジャムセッションならではの楽しみですし、対照的に持ち前のソフトな音色で品格が漂うジョニー・ホッジスのブルース感覚は、これを初めて聞いた私を夢中にさせたものです。
こうして最後に登場するのが大ハッスルのチャーリー・シェイヴァースですが、個人的には些か古臭く聞こえて……。ちょっとトリにはなぁ、という感じですが、これもジャムセッションならでは結果論でしょうね。全体的には楽しくて熱い演奏になっているのでした。
B-1 Ballad Medley
a) All The Things You Are / Barney Kessel
b) Dearly Beloves / Charlie Parker
c) The Nearness Of Youe / Ben Webster
d) I'll Get By / Jonny Hodges
e) Evrything Happens To Me / Oscar Peterson
f) The Man I Love / Ray Brown
g) What's New / Flip Phillips
h) Somemone To Watch Over Me / Charlie Shavers
i) Isn't It Romantic / Benny Carter
さて、B面はJATPのライブ興業ではウリになっていた、参加メンバー各人が腕比べというバラードメドレーです。こういう趣向は誰が思いついたのかわかりませんが、このアイディアは実に秀逸だと思います。なにしろジャズの世界では、スローバラードに説得力があって一人前という掟がありますからねぇ~。
気になるここでの仕上がりは、やはりベン・ウェブスターの繊細にしてハートウォームな表現が流石ですし、彩豊かな思わせぶりを演じるジョニー・ホッジス、忍び泣きの真髄というフリップ・フィリップス、艶やかに歌いあげるチャーリー・シェイヴァース、さらに素直な大人の表現が潔いペニー・カーターというベテラン勢が見事です。
そして気になるチャーリー・パーカーはハードボイルドにダークな心情吐露ですが、些か生硬な感じがしています。まあ、これは他のメンバーの年季と貫禄に気圧されたのかと思えば微笑ましくもありますが……。
全体の演奏では、やはりオスカー・ピーターソンを要としたリズム隊の上手すぎる伴奏が素晴らしく、要所で他の管楽器奏者がつけるハーモニーも味わい深いところ♪ 本当に良い雰囲気で纏まっています。ちなみに、ある個所では誰かがグラスを落としたような音が入っていますから、これは聴いてのお楽しみとさせていただきます。
ということで、たっぶりと聴きごたえがある1枚です。
ちなみに、この頃のノーマン・グランツは自分で企画制作した原盤を他社、例えばマーキュリー等に貸し出してリリースする方法をとっていたようです。これはインディーズの宿命というか、レコードプレスは現金決済、配給システムからの利益は後払いというアメリカの業界では常識がありましたので、後に自分のレーベルを起こしてからはヴァーヴで再発することになります。
しかしマーキュリーという会社は自前でプレス工場を持っており、また録音技術も傍系のエマーシーで明らかなように、相当に明るくてパンチのある音作りが特徴的でしたから、このジャムセッション盤の好感度も高いと思います。
今となっては、やはりチャーリー・パーカーの参加が目玉かもしれませんが、リアルタイムの現状ではジョニー・ホッジスやベン・ウェブスターがバリバリの大スタアでしたから、果たしてノーマン・グランツは何を目論んでいたのか、そんな推察も楽しいアルバムだと思います。
もちろんそれは、聴けば納得じゃないでしょうか♪