OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

パット・マルティーノの初リーダー盤

2008-11-10 15:29:13 | Jazz

El Hombre / Mat Martino (Prestige)

一時、私はいろんなミュージャンの初リーダー物を集めた前科があります。というのも、誰が言ったか、「作家は処女作に収斂する」という事実に影響を受けたからで、これがなかなかに面白い収集でした。

当然、中には後年の巨匠がトホホを演じていたり、あるいはハッとするほど鮮烈なデビューだった新人が末路を誤っていたり……。人生の機微とは大袈裟かもしれませんが、ホロ苦くて喜びに満ちた生き様からは共感を覚えることが多いという意義もありました。

さて、本日の1枚は、超絶のテクニックと飽くなき自己探求というスーパーギタリストのパット・マルティーノが、1968年頃に出した初リーダーアルバムです。

録音は1967年5月1日、メンバーはパット・マルティーノ(g)、トゥルーディ・ピッツ(org)、ミッチ・ファイン(ds)、アブドゥー・ジョンソン(per)、ヴァンス・アンダーソン(per)、ダニー・ターナー(fl) いう些かシブイ面々です――

A-1 Waltz For Geri
 タイトルどおり、ワルツビートで演じられたパット・マルティーノのオリジナル曲で、まずはテンションの高い6/8を敲くミッチ・ファインのタイトなドラムスがたまりません。
 もちろんパット・マルティーノはミステリアスな味わいも深いテーマメロディから無限の広がりを描くアドリブソロが、単にジャズばかりではなくロック系のフレーズやソウルグルーヴまで感じさせる音使いで最高♪ 正統派ジャズギターの音色を大切にするピッキングの上手さも驚異的ですし、的確な運指のコンビネーションも鉄壁ですから、呆気にとられているうちに演奏は終わってしまうのですねぇ~。
 もちろんアドリブフレーズには同時期のジョージ・ペンソンと共通するところも確かにありますが、これは時代の要請と流れというものかと思います。

A-2 Once I Loved
 カルロス・ジョビン作曲の有名なメロディをボサロックに仕立てた、如何にもサイケおやじ好みの演奏で、甘さを含んだパット・マルティーノのギターの音色、そしてラウンジ色が強いトゥルーディ・ピッツのオルガンに和んでしまいます。
 もちろんパット・マルティーノのアドリブフレーズは歌心を増幅させる早弾きフレーズが心地良く、オクターブ奏法の使い方も琴線に触れまくり♪
 このあたりは当然ながらウェス・モンゴメリーの二番煎じではありますが、パット・マルティーノ本人はウェス・モンゴメリーを敬愛してやまず、またウェス・モンゴメリーもパット・マルティーノを可愛がっていたそうですから、さもありなんの帰結でしょうね。ですから実にハートウォームな演奏も納得出来ると思います。
 最後の最後で十八番の早弾きフレーズを出してしまうところには、思わずニンマリですよっ♪

A-3 El Hombre
 アルバムタイトル曲は、これもパット・マルティーノのオリジナルで、極めてロック色が強いワルツビートが印象的! そして演奏が進むにつれ、そこに4&8ビートまでもがゴッタ煮状態となって、凄すぎるギターのアドリブを強烈に煽りますから、激ヤバです。
 ミッチ・ファインとトゥルーディ・ピッツが作りだすグルーヴは本当に強烈ですねぇ~。ベースの不在がちっとも気になりませんから、これは本物でしょうねっ♪ ダニー・タナーのフルートソロが短いのは残念ですが。

A-4 Cisco
 一応は4ビートの演奏ですが、なんとなく疑似ジャズロックっぽいビートが好ましく、パット・マルティーノが書いたオリジナルのテーマメロディからアドリブの雰囲気は、何となく日活ニューアクションの劇伴サントラの世界が嬉しいところ♪ 、ダニー・ターナーのフルートも効果的です。 
 そしてパット・マルティーノのギターが激しくストレッチアウトすれば、ミッチ・ファインのドラムスが重いビートで応戦、トゥルーディ・ピッツのオルガンも刺激的な伴奏に終始しているのでした。

B-1 One For Rose
 これは正統派&新主流派というモダンジャズ演奏の決定版! 早い4ビートで演じられるテーマ合奏はフルートとギターのユニゾンも鮮やかで、そのまま突入するアドリブパートではダニー・ターナーのフルートが本領発揮♪ この人はあまり有名ではありませんが、カウント・ベイシー楽団のレギュラーも務めた実績があり、パット・マルティーノとはジャック・マクダフ(org) のバンドで共演もしている実力派です。
 そしてパット・マルティーノのギターが物凄いです! これでもかの早弾きフレーズとテンションの高いキメ、さらに鉄壁のリズム感から放出される嵐のようなアドリブは天下無敵といって過言ではありません。
 絶句して実に爽快! 

B-2 A Blues For Mickey-O
 パーカッションのチャカポコなビートが楽しいグルーヴに支えられ、バンドはジャズ&ブルースの世界を求めて彷徨いますが、これが実にインストを聴く喜びです、パット・マルティーノが黒っぽさよりはノリの良さを追求したフレーズで勝負すれば、ここで初めて本格的なアドリブソロを披露するトゥルーディ・ピッツは、当たりまえだのクラッカーのようなオルガンスイングのお手本を聞かせてくれます。
 ちなみにこの人は黒人女性オルガン奏者として、決してガイド本に登場するような名手ではありませんが、クールビューティなお姉さん系のルックスとは逆に、相当にエグイ音使いが得意♪ ですから隠れファンも多いんじゃないでしょうか? 私は大好きです。気になるルックスは賀川雪絵が黒人になった感じと思ってくださいませ♪
 
B-3 Just Friends
 オーラスはお馴染みのスタンダード曲がアップテンポで演じられるという「お約束」の中で、パット・マルティーノが持ち前のテクニックと歌心を存分に発揮した名演です。ただしギターのマシンガンフレーズは安らぎが無いと思う皆様もいらっしゃるでしょうねぇ。まあ、それほど息をもつかせぬアドリブソロだということなんですが……。
 トゥルーディ・ピッツも些か危なっかしいところをスリルに転換させる裏ワザがニクイほどですし、きちんとした4ビートをスマートに演じるバンドの潔さも大切と感じさせられます。

ということで、パット・マルティーノはこの初リーダー盤より以前にセッションメンバーとしてソウルジャズ系のレコーディングを行っていましたから、ここまでモダンジャズの正統に拘ったスタイルは本人の意向が強かったと思われます。

そして既に十八番のフレーズは完成されていますし、アドリブだけでなく、バックキングもなかなか上手く、またギターそのものの音色を大切するあたりは、相当なテクニシャンの証明でしょう。

もちろんパット・マルティーノには、これよりも凄いアルバムや演奏がどっさりありますから、何も「初リーダー作」に拘泥する必要もないのですが、やはり捨て難い魅力があると思います。

コメント
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