■Jam Session (EmArcy)
何事も「場」の雰囲気が大切というのは、どこの世界も変わらぬ真実だと思います。実際、最近では「空気読めない」とか、かなりサイケおやじにはキツイ言い方もあるほどです。
で、「場」の雰囲気によっては、日頃は冷静な者が我知らずに熱くなったり、思わぬ失態を演じたり、あるいは寡黙だと思われていた野暮天が熱血を見せたりして、これだから世の中は侮れませんね。
さて、このアルバムは、そんなこんなを痛切に感じさせてくれる1枚でしょう。もちろんタイトルどおり、腕に覚えのツワモノが集まってのアドリブ合戦というジャズの醍醐味が楽しめるのですが……。
録音は1954年8月14日、メンバーはクリフォード・ブラウン(tp)、クラーク・テリー(tp)、メイナード・ファーガソン(tp)、ハーブ・ゲラー(as)、ハロルド・ランド(ts)、ジュニア・マンス(p)、リッチー・パウエル(p)、ジョージ・モロウ(b)、キーター・ベッツ(b)、マックス・ローチ(ds)、そしてダイナ・ワシントン(vo) という超豪華!
もちろんその中核は当時、西海岸で旗揚げし、本格的なスタジオレコーディングを始めたばかりのブラウン&ローチ・クインテットですから、たまりません。当然ながらここでのプロデュースも、彼等を担当していたボブ・シャッドであり、同じく契約のあった所属のスタアを参集させ、特別にお客さんも入れたスタジオライブ仕立の熱い演奏になっています――
A-1 What Is This Thing Called Love
短いメンバー紹介から始まるのが、この有名スタンダード曲の熱血ハードバップ演奏で、もちろんジャムセッションならではの丁々発止が強烈です。ちなみにメンバー中にはベース奏者が2人いることになっていますが、ここではキーター・ベッツだけが参加しているようです。
そしてマックス・ローチの躍動的なドラムスに導かれた快適な4ビートでの合奏が心地良く、最初に登場するトランペットがクラーク・テリーでしょう。ただしあまり持ち味が出ていないのは残念です。
しかし続くハロルド・ランドが灰色のトーンでハートウォームな好演♪ バックで煽るマックス・ローチとのコンビネーションも最高ですねぇ~。確かに地味なところもありますが、それも持ち味でしょう。
こうしていよいよ登場するのがクリフォード・ブラウン! もちろん華麗なフレーズとエキサイティングなノリを聞かせてくれます、と書きたいところなんですが、なんと珍しくも力みが目立ちます。う~ん、はっきり言って日頃は正統派のクリフォード・ブラウンがラフファイトをやってしまったというか……。ハイノートや長いフレーズでは息継ぎに苦しんだり、まあ、こういうところが人間的といえば、それまでなんですが……。
それに続くハーブ・ゲラーは大ハッスルで、チャーリー・パーカーの白人的解釈としては最高級のアドリブを聞かせてくれます。
演奏はこの後、ベースソロを経てメイナード・ファーガソンが十八番のハイノートを駆使した強烈なアドリブで存在感を示します。あぁ、あまりの凄さに眩暈がしそうな、いや、頭が痛くなりそうです。おまけにマックス・ローチがビートの芸術ともいうべきポリリズムのドラムソロで盛り上げてしまうんですから、一瞬の緩みもありません。スタジオに集まった観客からも大拍手♪
さらに続けてリッチー・パウエルとジュニア・マンスのピアノ対決が用意されていて、完全に興奮させられますが、モノラルミックスということもあり、どっちがどっちなのか分からないのが悔しくもあり、そんなの関係ねぇ~! というハードバップ天国でもあるのでした。
A-2 Darn That Dream
前曲の興奮を一転して心地良い余韻に変える和みの歌と演奏♪
ここで登場するダイナ・ワシントンはジャズボーカリストというよりは、R&Bやスタンダード、そしてブルースも非常に上手い女性歌手で、当時の黒人大衆音楽の世界ではトップをとっていました。そしてその素晴らしい歌い回しは、後年のエスター・フィリップスやアレサ・フランクリンにも多大な影響を与えているほどです。
また前半で活躍するハロルド・ランドのテナーサックスも味わい深く、ベースは恐らくキーター・ベッツでしょう。
B-1 Move
B面最初もビバップの聖典曲を素材にしたハードバップのジャム大会♪ 激しいアップテンポで火花を散らすテーマ部分では、なんとマイルス・デイビスが「クールの誕生」で使っていたアレンジが部分的に流用されていますが、そういえばマックス・ローチはそのマイルス・デイビスのバージョンで敲いていましたからねぇ~。と、ひとりで納得しています。
肝心のアドリブ合戦は、クラーク・テリーがいきなりの全力駆け足で、あのマーブルチョコレートのフレーズも出しまくった熱演ですが、つんのめったような勢いが微笑ましいというか、ベテランらしかぬ暴走にはニンマリしてしまいます。
しかしハロルド・ランドは、常日頃からブラウン&ローチのバンドでこうしたテンポには慣れているのでしょうか、見事な纏まりですし、もちろんクリフォード・ブラウンは火の出るようなツッコミです。しかも途中でバランスを崩して失速し、誰かにイェ~、なんて煽られるという失態まで演じてくれるんですから、妙に嬉しくなってしまいますねぇ~♪
ちなみにここでのペースはジョージ・モロウでしょうか、その熱血のペースソロからハーブ・ゲラーのアドリブに繋げていくところは、マックス・ローチの上手いサポートも流石だと思います。
そしてメイナード・ファーガソンが猛烈なアップテンポにも臆することのない、ある意味では支離滅裂なトランペットで大奮戦! マックス・ローチの煽りも過激さを増し、ド迫力の爆裂ドラムソロが激ヤバですから、観客からはまたまたの拍手喝采! やっぱりドラマーはカッコイ「嵐を呼ぶ男」なんですねぇ~~~♪
そしてこの後には、お待ちかねのピアノ対決がありますが、それにしてもリッチ・パウエルとジュニア・マンスはスタイルが酷似していますねぇ~。このあたりは素直に熱くなるのが得策でしょう、と逃げておきます♪
B-2 Medley
My Funny Valentine
Don't Warry 'Bout Me
Bess, You Is My Woman Now
It Might As Well Be Spring / 春の如く
これはJATPあたりでもお馴染みのバラードメドレー♪
「My Funny Valentine」はピアノトリオの演奏で、主役はジュニア・マンスでしょうか、オリジナルのメロディを大切にしながらも、ゴスペル味があったりして粋な感じです。
続く「Don't Warry 'Bout Me」はクラーク・テリーが歌詞の意味を大切にしながら、笑いも取った名演で、持ち味を存分に発揮しています。クライマックスのハイノートは「お約束」でしょうね。
そして「Bess, You Is My Woman Now」が、これまた素晴らしく、ハーブ・ゲラーの甘くて情熱的な、本当にカッコ良いアルトサックスにシビレます。歌心も最高ですねっ♪
しかしさらに輝かしいのはクリフォード・ブラウンが十八番の「It Might As Well Be Spring」です。繊細にして優しさに満ちた歌心、丁寧に心情を綴るアドリブフレーズと音色の素晴らしさ♪ この曲はパリでの隠れセッションバージョンが有名ですが、ここでの演奏も必聴の大名演じゃないでしょうか。
ということで、個人的に一番の聴きどころが、やはりクリフォード・ブラウンの、それも珍しいラフファイトと締め括りの面目躍如です。特に「春の如く」は何時聴いても最高♪ やっぱりブラウニーは最高過ぎますねっ! 観客の口笛ビュービュー、大拍手も至極当然なのでした。
ちなみにこの時のセッションからは、ダイナ・ワシントンを主役にした「Dinah Jams」という、これも楽しく凄い名盤が作られていますから、これとセットで聴きたくなりますよ。うん、私もこれから出しますね。