■The Marty Paich Quartet featuring Art Pepper (Tampa)
説明不要、ジャズ史に厳然と屹立する大名盤ですねっ、これは!
ですから、我が国でもアナログ時代から再発盤が出ていましたので、私も入手した瞬間から、毎日のように聴いていた1枚です。そしてCD時代になっても早い時期から店頭に並んでいたはずですが、もちろん残念ながら、オリジナルに比べると「音」的に物足りなかったのは言わずもがなです。
しかし当然、オリジナル盤は入手が非常に困難ですから、私はじっと我慢の子でした……。それが昨夜、フラフラと入ったCD屋で紙ジャケ仕様のリマスター再発盤を発見し、結局は買ってしまったのですが、これがまあまあの仕上がりでした。
録音は1956年というアート・ペッパー(as) の全盛期♪ 他にマーティ・ペイチ(p)、バディ・クラーク(b)、フランク・キャップ(ds) という素晴らしいリズム隊が参加しています。しかし実はこれ、マーティ・ペイチのリーダー盤なんですよね。なんか申し訳ないような気分ですが、ついついニンマリです――
01 (A-1) What's Right For You
一応は職業作家が書いたスタンダード曲みたいですが、なかなかグルーヴィなリズム隊とアート・ペッパーのハードボイルドなアルトサックスがズバリと急所を刺激してくる名演です。気の利いたヘッドアレンジはマーティ・ペイチによるものでしょうか、なかなか良い感じですねぇ~♪
ただひとつ贅沢を言わせてもらえば、ペッパーのひとり舞台に終始して、フェードアウトして終わることでしょうか……。しかし名作アルバム全体の導入部としては、結果オーライかもしれません。
02 (A-2) You And Night And The Music / あなたと夜と音楽と
そして始まる名曲名演の決定版! もう、これしかないのアレンジが素敵なイントロからアート・ペッパーでしかありえないという、絶妙に歌いまわされたテーマメロディの快感は唯一無二ですねぇ~~~♪ この浮遊感、このメロディフェイク、そして思わせぶりに泣きじゃくるアドリブ♪ まさに聴かずに死ねるか! ですよ。
またテキパキとしたマーティ・ペイチのピアノ、タイトなドラムスとベースのコンビネーションも素晴らしく、白人ジャズの典型にして完成形でしょうね。
03 (A-3) Sidewinder
もちろんリー・モーガンの大ヒットとは同名異曲というスマートなノリとメロディの妙が、まさにアート・ペッパーの世界として存分に楽しめます。アップテンポでタイトにスイングしていくリズム隊と紆余曲折も快感に繋げていく「ペッパー節」は、演奏時間の短さが残念至極です。
04 (A-4) Abstrct
前曲のムードを継承したようなスピーディで「泣き」の入ったテーマメロディから流麗な「ペッパー節」に繋がるという黄金律の名演が、たまりません♪
これも短い演奏ですが、充分な説得力は最高ですねっ♪
05 (A-5) Over The Rainbow
これまたアート・ペッパーの名演として極みつきの演奏です。曲はもちろん、誰もが知っている素敵なメロディですが、アート・ペッパーの思わせぶりなフェイクに酔わされ、ツボを押さえたマーティ・ペイチのアレンジもイヤミではなく、素直な気持ちでジャズを聴く喜びに溢れていると思います。
ちなみにこのリマスター盤でも、このトラックでは随所にマスターテープの傷みが出ていますが、過去の再発盤の中では上手く処理された方かと思います。これに立腹していたら、バチがあたるんじゃないでしょうか。
06 (B-1) All The Things You Are
有名スタンダードのビバップ的解釈としてモダンジャズでは定番ですが、このバージョンも名演のひとつでしょう。躍動的なイントロから絶妙の歌いましを聞かせるアート・ペッパー♪ もう心が踊って腰が浮きます。
思わせぶりの極北ともいうべきブレイクから展開されるアドリブパートも無駄な音やフレーズはひとつもない、まさに宝石箱ですし、揺るぎないスイング感を弾き出すリズム隊の素晴らしさも特筆ものでしょう。
ちなみにドラマーのフランク・キャップは当時から1970年代まで、スタジオセッションでもトップをとっていた名手ですから、このセッションでの力演も当たり前ですが、それにしても躍動的でメリハリの効いたドラミングは流石だと思います。
07 (B-2) Pitfall
これも躍動的な白人モダンジャズの真髄ともいうべき名演で、テーマメロディもアドリブも全てが「ペッパー節」の大洪水です♪ 仄かなラテンビートが潜む4ビートのグルーヴも心地良く、ゾクゾクするようなブレイクからトキメキのアドリブを展開するアート・ペッパーには完全降伏するしかありません。
またここでもフランク・キャップのドラミングが冴えまくり! ワザとらしいファンキーフレーズを用いるマーティ・ペイチにも微笑むしかないでしょうね。
08 (B-3) Melancholy Madeline
ほとんど有名でないスタンダード曲らしいですが、まるっきりアート・ペッパーのために書かれたようなセンチメンタルなメロディ、それを幾分ネクラな雰囲気でフェイクしていくアート・ペッパーの素晴らしさっ♪♪~♪
ミディアムテンポで力強いリズム隊のグルーヴも申し分なく、本当に、なんという演奏だと感動する他はありません。全篇、「泣き」と「煌めき」ばかりの、アート・ペッパーの隠れ名演のひとつだと思います。
09 (B-4) Marty's Blues
オーラスはタイトルどおりに、なんとも白人ジャズのブルース大会ですからファンキー味は期待薄なんですが、アート・ペッパーが吹いてこその素晴らしさが横溢しています。
マーティ・ペイチも健闘していますが、やはり主役はアート・ペッパーという締め括りに相応しい演奏なのでした。
ということで、内容は全くノー文句の名演集です。気になるリマスターも既に述べたようになかなか秀逸で、日本プレスのアナログ盤のような「音のぼやけ」も解消され、またこれまでのCDよりはマスターテープのヒスノイズや傷みが上手く処理されていると感じます。
このあたりはオリジナル盤を所有していないので、仔細な検証は無理ですから、あくまでも私個人の感想ではありますが、それにしても私は何枚、この再発盤を買えば気が済むのでしょうか……。
まあ、それはそれとして、アート・ペッパー全盛期の演奏には素直に酔わされてしまいますね。ジャズが好きになって良かったと思えるアルバムのひとつだと思います。