OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ドナルド・バードの気楽な好盤

2008-11-29 11:56:04 | Jazz

Mustang / Donald Byrd (Blue Note)

これまたブルーノートの美女ジャケ有名盤ですが、中身は案外と聴かれていないというか、少なくとも1970年代ジャズ喫茶では無視されていたアルバムだと思います。

今にしてみれば、主役はドナルド・バード、共演者にはハンク・モブレーやマッコイ・タイナーと大物が揃っているので不思議だと思われるかもしれませんが、こんなの当時は普通を通り越してマンネリでした。しかもドナルド・バードはブラックファンクのシャリコマ路線、ハンク・モブレーは時代遅れの象徴というのが、1970年代のジャズ喫茶では常識でしたし、マッコイ・タイナーにしても強烈な意欲作を連発していた時期でしたから、なにも昔の「お仕事」っぽい演奏を聴かなくとも……、という雰囲気が濃厚だったのです。

しかし私は、こんな1960年代後半の大衆ジャズが大好きで、密かに自宅で愛聴し、今日に至っているというわけです。もちろん内容はご推察のようにジャズロックとリラックスしたハードバップ♪

録音は1966年6月24日、あらためてメンバーを記せば、ドナルド・バード(tp)、ソニー・レッド(as)、ハンク・モブレー(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ウォルダー・ブッカー(b)、フレディ・ウェイツ(ds) という派手さの中にもシブイ面々です――

A-1 Mustang
 アルバムタイトル曲はフレディ・ウェイツのメリハリの効いたドラムス、特にリムショットとバスドラのコンビネーションが楽しいジャズロック♪ 意外なほどにファンキーなマッコイ・タイナーを軸としたリズム隊のリフの作り方もイカシています。
 そしてアドリブパートではソニー・レッドの曲調を壊さないシンプルさが如何にもですし、ドナルド・バードも伸びやかなフレーズばかりなのが結果オーライ♪ こういう、ある種のノンビリムードが実に良い感じで、それゆえにリズム隊の楽しいリフと痛快なグルーヴには腰が浮きます。
 もちろんハンク・モブレーも、これしか無いの十八番の「節」ばっかり吹いてくれますから、まあ1970年代前半の我が国ジャズ喫茶では言わずもがなの扱いだったのが納得されるでしょう。
 しかしマッコイ・タイナーの気合いの入ったファンキーグルーヴは、けっこう説得力に満ちています。実はこの当時のマッコイ・タイナーはジョン・コルトレーンのバンドを辞めたばかりでしたが、途端に仕事が無くなっていたとか!? ですからこうしたスタジオセッションは貴重な収入源だったと言われています。

A-2 Fly Little Bird Fly
 そのマッコイ・タイナーが初っ端から大ハッスルしたのが、この「Giant Steps」みたいなモード曲です。アップテンポでバンドが全力疾走していく爽快感は、まさにマッコイ・タイナーの参加があればこそ!
 ソニー・レッドも新しめのフレーズを心おきなく吹いていますし、ドナルド・バードが持ち前の流麗なスタイルで綱渡り的な快演を披露すれば、ハンク・モブレーも珍しく前のめりっぽい熱血のアドリブです。
 このあたりはモード系ハードバップの真骨頂というか、ついにはマッコイ・タイナーの饒舌なアドリブ、そしてベースとドラムスの必死の追走が天国と地獄の往復となる、実に熱いクライマックスです。

A-3 I Got It Bad And That Ain't Good
 デューク・エリントン楽団の大ヒットを伸びやかに歌いあげるドナルド・バードの隠れ名演がこれです。じっくりと構えて力強いリズム隊では、マッコイ・タイナーが些か出しゃばった感もありますが、ハンク・モブレーが素晴らしい和みのテナーサックスを聞かせてくれますから、たまりません。

B-1 Dixie Lee
 B面のド頭も、「お約束」の楽しいジャズロックという大サービス♪ もちろんドナルド・バードのオリジナルですが、こういう曲調は当時としては当たりまえだのクラッカーですから、素直に楽しんでノー文句の演奏だと思います。
 その要になっているのはウォルター・ブッカーとフレディ・ウェイツという、私の大好きなタッグチームで、それはレイ・ブライアントの人気盤「Gotta Travel On (Cadet)」での活躍で惹きつけられて以来の事でしたから、告白すればこのアルバムも彼等目当てというのが半分の真相です。
 もちろんここでもヘヴィなベースにガサツでスカッとしたドラムスというコンビネーションが冴えまくりですが、しかし残念なのはヴァン・ゲルダーの録音がベースのエグイ音を捕らえきれておらず、些か鈍重な雰囲気になっている事です……。
 その意味で、この演奏がアーゴやカデットのスタジオで録られていたらなぁ……、なんて我儘な妄想が抑えきれないほど、ここでのグルーヴは強烈なんですねぇ~♪ そういう人達が存在すればの話ですが、おそらくジャズロックマニアの間では人気が高いんじゃないでしょうか。
 生真面目に新しさを追求するソニー・レッド、力まないドナルド・バード、さらに何の変哲もないハンク・モブレーの潔さ! マッコイ・タイナーのファンキー節も意想外の良さが滲み出た名演かもしれませんねっ♪ 

B-2 On The Trail
 元々はクラシックの曲らしいのですが、モダンジャズでもお馴染みのメロディを、ここではモード系のアレンジで演奏しています。テーマ部分でのリフやマッコイ・タイナーの伴奏は、もう完全にそれもんですから、ドナルド・バードは些か神妙ですが、逆にソニー・レッドが強烈な自己主張! マイルス・デイビスのバンドにいた頃のキャノンボール・アダレイを想起させられるような変形モードフレーズが痛快です。う~ん、そう思えば、ドナルド・バードがマイルス・デイビスっぽくなっているのにも納得でしょうか♪
 と、くればハンク・モブレーにとっても面目躍如のアドリブは当然至極の名演で、続くマッコイ・タイナーが十八番の展開を聞かせても、全く違和感の無い仕上がりです。
 このアルバムの中では最も正統派ジャズっぽい傑作トラックだと思います。 

B-3 I'm So Excited By You
 オーラスはドナルド・バードが書いた明朗快活なハードバップ! メロディアスなテーマから流麗なアドリブに入っていくドナルド・バードが、やはり薬籠中の名演を聞かせてくれますが、リズム隊の躍動的な頑張りも流石だと思います。
 そしてハンク・モブレーがハードバップのお手本を示せば、ソニー・レッドが負けじとハッスル! マッコイ・タイナーの軽やかなアドリブもたまりませんねぇ~♪

ということで、実に中身は楽しいアルバムなんですが、それゆえに軽く扱われるのも時代の表れという1枚です。これは後にハードバップのリバイバルがあっても変わることがなかった事実でしょう。

しかし例えばリー・モーガンが似たような演奏を残したアルバムは、けっこう人気盤とかレアグルーヴとか称されて今日でも聴かれているのですから、何故だ!? と思いますねぇ。リー・モーガンが悲劇的な早世だった所為もあるかもしれませんし、あるいは魅惑の美女ジャケットが反感を……???

まあ、それは結論の出ないところでもありますし、やっぱり聴いて楽しければOK♪ というのが、この種のアルバムの所期の目的かもしれませんね。

コメント
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