OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ギル・エバンスの個人主義は魔法?

2008-11-18 13:40:12 | Jazz

The Individualism Of Gil Evans (Verve)

マイルス・デイビスとのコラボレーションが成功したことでジャズの歴史に名を刻んだアレンジャーのギル・エバンスは、その幽玄で幅広い音楽性を感じさせる編曲がソフトロックやフュージョンの源流にも繋がり、「音の魔術師」とまで形容されました。

もちろんリーダー盤も寡作ながら幾枚か出しており、しかし個人的には、なかなか自発的には聴けない作品群ばかりです。それは独特のモヤモヤしたサウンドが煮え切らず、また参加ミュージシャンの存在感があまり感じられず、スカッとしたリズム的な興奮もイマイチという思い込みです。

ただし、それでも一端、何かの機会に聴いてしまうと、やはりグッと惹き込まれるのが本音でもあります。例えばマイルス・デイビスの「Porgy And Bess (Columbia)」とか、ヘレン・メリルの歌伴物とか♪ ケニー・バレルの「Guitar Forms (Verve)」も良かったですね。

さて、このアルバムは1962~1964年に何度か行われたセッション音源で作られた代表作! この異例ともいえる長期間のレコーディングが実現したのも、当時のプロデューサーだったクリード・テイラーの尽力があったと言われています。

しかも参加メンバーは超豪華! ジョニー・コールズ(tp)、ジミー・クリーヴランド(tb)、スティーヴ・レイシー(ss)、エリック・ドルフィー(as,fl)、ウェイン・ショーター(ts)、ケニー・バレル(g)、ボール・チェンバース(b)、ロン・カーター(b)、ゲイリー・ピーコック(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) なんていうのは氷山の一角です。もちろん、あのモヤモヤしたサウンドを具象化するためにフレンチホルンやオーボェ、フルートといった通常のジャズではあまり使われない楽器が大胆に導入されています――

A-1 The Barbara Song (1964年7月9日録音)
 ツンツンツンツンというベースの響きはマイルス・デイビスの「いつか王子様」というイントロから、ギル・エバンスが特有のモヤモヤして厳かなテーマメロディ、それを膨らみのあるハーモニーで彩るという十八番のアレンジが聞かれます。
 ちなみにここでのペースはゲイリー・ピーコックと言われていますし、これでいいのかというほどに訥弁スタイルのピアノは、もちろんギル・エバンス本人が弾いているのですが……。
 この勿体ぶった雰囲気を切り裂くように、突如として入ってくる衝撃的なブラスのキメとか、静謐で如何にもというウェイン・ショーターのテナーサックスが妙な説得力です。
 そして次は何かなぁ~、と期待させられるんですねぇ~、この演奏の展開には! こんな煮え切らない曲だというのに!!

A-2 Las Vegas Tango (1964年4月6日録音)
 おそらくギル・エバンスのオリジナルでは最も知られた曲じゃないでしょうか? 確かキース・ジャレットやゲイリー・バートンもカバーしているはずです。う~ん、スパニッシュな変形マイナーブルースのテーマ、豊かな音色のアレンジと内側からこみあげてくるような複合リズム♪ 聞かず嫌いだった私も、これには完全KOされます。
 アドリブパートではジミー・クリーヴランドのトロンボーンが温もりと秘めた情熱の好演♪ さらに中盤からの過激なパートではケニー・バレルの熱血ギター! 土台を揺るぎないものにするポール・チェンバースと粘っこい馬力で盛り上げるエルビン・ジョーンズにも、グッと惹きつけられます。

B-1 Flute Song ~ Hotel Me (1963年秋&1964年4月6日録音)
 前半はタイトルどおり、フルートをメインに使った導入部ですが、それに続く「Hotel Me」のパートはエルビン・ジョーンズのヘヴィなドラミングと地殻の変動を思わせるグイノリスローなグルーヴに身体が揺れます。これは確か、後年の「Jelly Rolls」と同じ曲でしょうか?
 ギル・エバンス自身の楽団では定番の演目になっていますが、ここでのバージョンは、実は何回かの演奏を編集したものという説もあるほど、様々な楽器が複合的に重ねられた混濁の色模様♪ 黒人音楽としてのブルース&ソウル、ゴスペルに西洋音階の極北的ハーモニーを強引に交配させんとした目論見が見事に成功していると思います。
 明確なアドリブパートはありませんが、各人が好き放題に演じることも出来ているようですし、ギル・エバンスのヘタウマなピアノも良い感じ♪ けっこう過激なんですよ、これがっ!

B-2 El Toreador (1963年9月録音)
 ギル・エバンスのセッションでは常連のトランペッターというジョニー・コールズが主役ですから、この疑似マイルスな演奏はサービスというところでしょうか。しかしそれにしても良く出来た、出来すぎといって過言ではない名演だと思います。
 3分ちょっとの短い演奏ですが、このアルバムの中では一番親しみやすいトラックかもしれません。

ということで、一応はビックバンドの演奏なんですが、決してスカっと派手な作品ではありません。ジワジワと効いてくるというか、内側からこみあげてくるような感動が、まさに情念の名演集でしょう。LP片面を聴くと、裏を返さずにもう一度、同じ面に針を落としたくなるんですねぇ。これぞ不思議なギル・エバンスの魔法かもしれません。

ちなみにこのアルバムセッションは長期間に行われため、当然ながらアウトテイクも多数残され、1970年代初め頃に「Gil Evans, Kenny Burrell & Phil Woods (Verve 8838)」という発掘盤も出たほどですが、もちろんそれはラフスケッチやリハーサルセッションのような音源も入ったマニア向けの内容でした。

それがCD時代に入って、このアルバムと抱き合わせに再編集されたそうですが、残念ながら未聴です。しかし私のような者は、このアナログ盤だけで満足していますし、前述の未発表曲集も、それなりに聴いて楽しんでいます。

そしてギル・エバンスのアルバムを自主的に集めはじめたのは、このLPを聴いてからですが、個人的には一番好きなのが「Plays Jim Hendrix (RCA)」、という本音を吐露しておきます。

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