■Ealy Art / Art Farmer (Prestige / New Jazz)
アート・ファーマーといえばベニー・ゴルソン(ts) と組んだジャズテット、そしてジェリー・マリガン(bs) の相手役を務めたピアノレスのカルテットを経て、ジム・ホール(g) との耽美秀麗なクインテットでの素晴らしい演奏がありますから、今ではソフトパップなトランペッター、あるいはフリューゲルホーンの名手というイメージが強く残っています。
しかし本来はバリバリのハードバッパーであり、もちろん独特の歌心も確立させていた1950年代の活動も、決して劣るものではありません。
このアルバムはハードバップ上昇期の1954年に吹き込まれた2枚の10インチ盤「Art Farmer (Prestige PRLP 177)」と「Art Farmer Quartet (Prestige PRLP 193)」をカップリングした12インチLPで、曲の流れも秀逸な構成が魅力の1枚です――
A-1 Autumn Nocturne (1954年11月9日録音)
A-2 Soft Shoe (1954年1月20日録音)
A-3 Confab In Tempo (1954年1月20日録音)
A-4 I'll Take Romance (1954年1月20日録音)
A-5 Wisteria (1954年1月20日録音)
B-1 I've Never Been In Love Before (1954年11月9日録音)
B-2 I Walk Alone (1954年11月9日録音)
B-3 Gone With The Wind (1954年11月9日録音)
B-4 Alone Together (1954年11月9日録音)
B-5 Preamp (1954年11月9日録音)
☆1954年1月20日録音:10インチ盤「Art Farmer (Prestige PRLP 177)」
メンバーはアート・ファーマー(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)、ホレス・シルバー(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(ds) というハードバップど真ん中のクインテット!
ウキウキするような「Soft Shoe」は暑苦しいまでに迫力のソニー・ロリンズに対し、軽妙な歌心が素敵なアート・ファーマーというコントラストが最高です。ホレス・シルバーも独特のシンコペーションが冴えまくりで、明らかにビバップからハードバップへと進化する名演じゃないでしょうか。
またアップテンポで勢いのある「Confab In Tempo」では迫力のグイノリというソニー・ロリンズ、負けじとツッコミで頑張るアート・ファーマーも素晴らしいと思いますが、強力なリズム隊も多いに魅力♪
そのあたりは有名な歌物スタンダードの「I'll Take Romance」でも顕著で、この曲はチェット・ベイカー(tp) の名演も残されているのですが、のびやかなアート・ファーマーのアドリブは決して劣るものではありませんし、そういう結果も力強いリズム隊のサポートがあればこそだと思います。ホレス・シルバー、最高! ピアノのアドリブからラストテーマでアート・ファーマーが出てくるところ、さらにラストのアンサンブルには、本当にグッときますねぇ~♪
そしてアート・ファーマーが如何にも「らしい」本領を発揮したのが「Wisteria」です。あぁ、このスローで歌いあげるテーマメロディの素晴らしさ♪ てっきりスタンダード曲かと思ったら、アート・ファーマーのオリジナルだったんですねぇ~~~♪ ホレス・シルバーも弱いと言われがちなバラード演奏では出色のアドリブで、完全に隠れ名演のひとつになっています。
☆1954年11月9日録音:10インチ盤「Art Farmer Quartet (Prestige PRLP 193)」
こちらのメンバーはアート・ファーマー(tp) 以下、ウイントン・ケリー(p)、アディソン・ファーマー(b)、ハービー・ラヴェル(ds) という些かシブイ人選ですが、ワンホーン編成ということで、これも充実したセッションになっています。
まずはアルバムのド頭に置かれた「Autumn Nocturne」が、もう曲タイトルどおりに今の季節にジャストミートという畢生の名演! もちろんクロード・ソーンヒル楽団によるお馴染みの甘美なメロディを、アート・ファーマーがその資質を全開させた感涙の吹奏です♪ LP再編集に、これをトップに置いたのが充分に納得されると思います。
こうした歌物の上手さは「I've Never Been In Love Before」の爽やかでスマートな表現、あるいは慎み深い「Alone Together」での深淵な歌心にも顕著ですが、これもハードバップのひとつの側面じゃないでしょうか? 黒人ジャズならではの粘っこいグルーヴが根底にあってこそのメロディ優先主義というか、ジャズって本当に良いですねぇ♪ 特に「Alone Together」ではウイントン・ケリーのアドリブにも「歌」がいっぱいで、短いのが本当に残念なほどです。
そのあたりは完全にシンミリモードの「I Walk Alone」、逆にド迫力な「Gone With The Wind」でも同じで、アート・ファーマーとウイントン・ケリーは常にメロディを大切にしつつも、力強い表現を忘れていません。どちらかと言えば、あまりスイングしないアディソン・ファーマーのペースも、このセッションでは結果オーライというか、重心の低いグルーヴの源になっているようです。
こうしてオーラスの「Preamp」に至れば、そこはファンキーなハードバップのブルース大会♪ 粘っこくスイングするウイントン・ケリーに導かれ、アート・ファーマーがカッコ良すぎるテーマリフ、そしてツボを押さえたアドリブを披露してくれます。もちろん幾分タテノリのリズム隊もハードな雰囲気で、バタバタしたハービー・ラヴェルのドラムスも良い感じ♪ ウイントン・ケリーも大ハッスルです。
ということで、どちらのセッションでもアート・ファーマーが絶好調! 特に11月のワンホーン演奏は秀逸だと思います。極限すればこのアルバムは、後に確立されるアート・ファーマーの魅力が既に完成されたトラックばかりですから、実は裏の最高傑作かもしれません。
サポートメンバーも全く手抜きの無い好演で、特にウイントン・ケリーは兵役を終えて第一線に復帰した直後とあって、あの飛び跳ねグルーヴを出しまくり♪ またホレス・シルバーも、これしかないの個性的なシンコペーションで、モダンジャズの新しい世界を開かんとしていますから、両ピアニストの熱演には、思わずハッとさせられる瞬間が多々あります。
10インチ盤LPの再収録ということからでしょうか、ほとんど名盤扱いもしてもらえないアルバムですが、なかなかの秀作として私は愛聴しています。