■Cookin' / Booker Ervin (Savoy)
例えばラーメンにも、あっさり味からギトギトのコテコテ系があるように、モダンジャズのテナーサックスではブッカー・アーヴィンあたりは、背脂がいっぱい入った太麺の大盛りって感じでしょうか。
ちょうどアルバムタイトルも、それに因んだような人気盤が、これです。
ご存じのように、ブッカー・アーヴィンは所謂テキサステナーの正統を受け継ぎながらも、コルトレーン&ロリンズの両派からの深い影響が感じられる個性的な存在ですから、その特徴的な投げっ放しのバックドロップみたいなスタイルは好き嫌いがあるでしょう。
しかし一度虜になると、中毒症状も覚悟せねばならない魅力があります。そしいてもちろん、そういう個性派ですから、誰かのバンドに雇われるというよりも、自分のリーダーセッションで実力を発揮出来るタイプでしょう。実際、ブッカー・アーヴィンを雇って、きちんと役割を与えていたのは、チャールズ・ミンガスという怖い親分ぐらいでした。
さて、このアルバムはブッカー・アーヴィンのリーダー盤としては、多分2枚目となる人気作♪ 録音は1960年11月26日、メンバーはリチャード・ウィリアムス(tp)、ブッカー・アーヴィン(ts)、ホレス・パーラン(p)、ジョージ・タッカー(b)、ダニー・リッチモンド(ds) という重量級の面々です――
A-1 Dee Da Do
ブッカー・アーヴィンのオリジナルながら、この重たいビートはジャズメッセンジャーズの「Blues March」を作り返したようでもあり、ここに参加のピアニストであるホレス・パーランが主導したような、あの世界です♪
つまりギトギトで真っ黒なハードバップのブルース大会なんですねぇ~♪ もちろんゴスペルムードも濃すぎるほどですから、まずはガンガンに足踏みしたようなリズム隊に気分が高揚してしまいます。
ブッカー・アーヴィンもグイノリに吹きまくるフレーズはクドイ! その一言が全てですし、リチャード・ウィリアムスはリー・モーガンのパロディみたいなツッコミが多くて、思わずニンマリ♪
そしてやっぱり、リズム隊の重量感が凄いですねぇ~。闇夜を揺るがすようなジョージ・タッカーのペースはアドリブソロも怖さがいっぱいですし、ホレス・パーランのひねくれたようなゴスペルムード、どっしり構えてグサリとオカズをいれてくるダニー・リッチモンド!
こんなグドイ世界もモダンジャズに必要だと、嬉しくなってしまう演奏です。
A-2 Mr. Wiggles
そしてこれがまた強烈に突進しまくった演奏です。
テーマはシンプルなリフだけなんですが、ダニー・リッチモンドのドラミングに凄い勢いがあり、ジョージ・タッカーも容赦無い煽りのウォーキングを響かせますから、ブッカー・アーヴィンも直線的に全力疾走するしかありません。
このあたりは同時期に雇われていたチャールズ・ミンガスのバンドでは、連日のようにやっていた展開でしょうが、途中で仕掛けが無い分だけストレートな表現に徹したここでのバンドは、単純な興奮度が高くて潔い感じです。
もちろんポレス・パーランやリチャード・ウィリアムスも手抜き無し! さらにダニー・リッチモンドがシンバルとハイハットの至芸、そしてゴリ押しドラミングの真髄を聞かせてくれます。
A-3 You Don't Know What Love Is
一転して有名なスタンダード曲のダークな名演♪
ソニー・ロリンズやジョン・コルトレーンの決定的な名演が残されているがゆえに、ここでのブッカー・アーヴィンも神妙ですが、決して臆することのない自分なりの表現に徹したテナーサックスは、なかなかに魅力的です。
ハードな音色の低音域と上滑りしたようなヒステリックなフレーズの混合は、正直いって好き嫌いが十人十色でしょうが、このバラード演奏に関しては、ハードボイルドな雰囲気が高くて、私は好きです。
濁ったような気だるさを醸し出すリズム隊の助演も見事ですが、思わずエリック・ドルフィーが登場しそうな雰囲気も、それは言わないのが「お約束」でしょうね♪ ゴリゴリしたジョージ・タッカーのペースにも惹かれます。
B-1 Down In The Dumps
まるっきりキャノンボール・アダレイのバンドが演じそうな、ゴスペルファンキーなムードがたまりません。ゴリ押しのリズム隊が、それに拍車をかけているようです。
ブッカー・アーヴィンも、そのあたりを察したような熱いアドリブで、ダニー・リッチモンドの煽りにも当然の如く応じて、結果オーライ♪ するとホレス・パーランがボビー・ティモンズを演じてしまうんですねぇ~。これで良いのか!? 良いんでしょうねぇ~♪ リチャード・ウィリアムスが誰かさんに似てしまうのも、許せますよ。
B-2 Well, Well
ドロドロにスローなブルースの世界で、ウスターソースの澱のような濃厚で辛味のキツイ演奏です。初っ端から蠢くリズム隊のグルーヴには、本当に胸やけしそう……。しかしこれが、ホレス・パーランの真骨頂! あぁ、思わずイエェェェ~~、と歓喜悶絶です。
肝心のブッカー・アーヴィンも粘っこいフレーズの積み重ねとヒステリックな泣き叫び、そして未練を残したような表現が秀逸ですし、思わせぶりなドライファンキーというリチャード・ウィリアムスも流石の輝き♪ 要所で鋭いツッコミを入れるジョージ・タッカーにも、グッときます。
B-3 Autumn Leaves / 枯葉
オーラスは、まるでサービスのような嬉しい名曲の、こってりバージョン♪ 中華メロディみたいなイントロのアンサンブルからガサツなテーマの演奏が、なんとも言えないジャズっぽさです。
アドリブパート先発のリチャード・ウィリアムスは当然のようにミュートですが、決してマイルス・デイビスみたいな繊細な感覚ではなく、あくまでもハードバップの勢いを大切にした潔さが良い感じ♪
またブッカー・アーヴィンも歌心よりは、その場の熱気を重んじた直截的な表現に徹し、ガツガツと煽りまくるリズム隊との共犯関係を鮮明にしています。
う~ん、それにしてもダニー・リッチモンドのガサツな雰囲気のドラミングは、ブッカー・アーヴィンにはジャストミートですねぇ~~♪ アップテンポで、これだけ荒っぽい雰囲気になっているのに、破綻した展開にならないのは流石だと思います。
ということで、思いっきりアクが強い演奏ばかりですから、夏場には敬遠気味でしょうが、寒さに近い涼しい今の季節には美味しいんじゃないでしょうか。哀愁とかセンチメンタルな気分とは程遠い、頑固一徹な雰囲気も濃厚ですが、それも親分のチャールズ・ミンガスから受け継いだ伝統の味かもしれませんね。