昨夜はオールナイトでDVDを鑑賞したので、ちょっと疲れていますが、気分は爽快です。やっぱり人間は好きな事をやるに限ります。
ということで、本日は――
■Dark Street / Zigmund, Berkerman & Richmond (Free Lance)
ジャズピアノの世界で決定的な影響力を持つ偉人のひとりが、ビル・エバンスです。それはピアノの演奏スタイルだけに止まらず、ピアノトリオで演じるジャズのありかたさえも変えてしまったところから、今日では所謂「エバンス派」と称して、すぐに納得してしまう分野になっているほどです。
当然、例えばジョン・コルトレーンがそうであったように、そのエッセンスどころか演奏スタイルやバンドの存在意義までもコピーしたレコードは、夥しく世に出ています。そして本日の1枚も、その中のひとつというわけです。
録音は1993年12月15日、メンバーは David Berkerman(p)、Mike Richmond(b)、Eliot Zigmund(ds) となっていますが、特に Eliot Zigmund は1970年代中頃のビル・エバンス・トリオではレギュラーでしたから、思わずニヤリの編成♪ 演目は3者のオリジナル主体ですが、如何にもという雰囲気が横溢した名曲・名演ばかりです――
01 Dark Street
ちょっと重いドラムスとメロディアスなピアノの対称が面白い展開です。そして間に入って蠢くベースの素晴らしさ!
David Berkerman のピアノは綺麗なタッチでビル・エバンスの奥儀に迫るべく奮闘していますし、本当にメロディアスで良いフレーズばっかり弾いてくれるんですねぇ~♪ もちろん力強さもあって、最高です。
もちろんそのあたりは、テンションの高いドラムスとベースの存在があっての事ですから、ミディアムテンポで自然体に盛り上げていくトリオとしての一体感が本当に見事だと思います。
02 Gradually I Inserted Myself Into The Conversation
抽象的で早いテンポの演奏なんですが、ある種の暗黙の了解が間違いなくありますから、ジャズ者にはスリル満点の演奏と理解されるでしょう。あぁ、これぞ「エバンス派」というよりも、キース・ジャレットかハービー・ハンコックに近いのかもしれません。
とにかくジャズを聴いているという気分になっちゃいますねっ♪ 特に唸りながら強靭なベースソロを聞かせてくれる Mike Richmond が凄いと思います。
03 Fragment
おぉ、これはキース・ジャレットか!? あの「ケルン」あたりで聞かせてくれた美メロ主義から生み出されたようなテーマの変奏が、抽象的ながらも素敵です。
確かにフリーなピート感に彩られていますが、自由度が高いようで、実は綿密な約束事があるようなベースとドラムスのアグレッシブな演奏が、実にジャズそのものだと思います。ここでも Mike Richmond が凄いですねぇ~~♪ それと Eliot Zigmund のブラシも強烈なのでした。
04 Blue In Green
はっはっはっ、ビル・エバンスであまりにも有名な曲ですからねぇ~♪ こういう選曲は嬉しいプレゼントです。もちろんストレートにテーマを演奏してくれると思わせて、自在のピアノソロを展開する David Berkerman は、分かっています♪
また Eliot Zigmund も良い感じ♪ というよりも、一時は毎日のようにビル・エバンスとこの曲をやっていたはずですから、本当に薬籠中の名演! それに支えられたトリオは、静謐な部分から躍動的な盛り上げまで、間然することの無いトラックに仕上げています。
05 Fairy Tale
単調なビート感で演じられる綺麗なメロディのテーマ解釈が、力強い面白さに溢れています。そしてそれがアドリブパートで微妙に変化していく部分を楽しめば良いのでしょうが、やや消化不良でしょうか……。
ただし Mike Richmond の凄さは相変わらずですし、David Berkerman も奮闘しているのですが、個人的には???です。
06 Brooklyn Song
これも非常に抽象的な曲ですが、ビル・エバンス~キース・ジャレットのラインで楽しむと理解出来るという、ちょっと意地悪な演奏です。第一、スローな展開で蠢き過ぎるベースとドラムスが???でしょう。
ただし妙にエネルギッシュなところは、ちょっと感動しても良いのでしょうか……。否、やっぱり私には???です。
07 Time Is Just
一転して爽快な演奏が、これです。Mike Richmond の正統派4ビートと Eliot Zigmund の繊細にして豪胆なドラムスが、まず最高♪ ですから David Berkerman も心置きなく自分の信じるところを弾きまくりです。あぁ、やっぱりハービー・ハンコックなんでしょうか、この人は!? それはそれとして、全く痛快なピアノトリオ演奏になっています♪ 普通に凄いとでも申しましょうか、ジャズ者には、こういう演奏が必要だと本当に思います。
08 When You Wish Upon A Star / 星に願いを
説明不要の有名スタンダードを素直に演奏してくれたのが、まず嬉しいところです。もちろんアドリブパートは、オリジナルのメロディを大切にしつつも絶妙の抽象性を出していくという、このトリオには一番合っている展開が流石だと思います。
09 Werner The Other
どこかで聞いたようなフレーズで作られた抽象的な曲です。そしてアドリブパートはフリーな様相も呈していますから、これも意地悪な演奏なんですが、それが「エバンス派」的な約束事の中で烈しい演奏に収斂していくあたりが、痛快です。
軽やかなステック捌きで躍動する Eliot Zigmund、ここでも唸る Mike Richmond のベースが、たまりません♪ あぁ、このベーシストのコンプリートを目指したい気分になりますねぇ。
10 Brooklyn Song (reprise)
オーラスは Eliot Zigmund のドラムスを主体とした短い演奏ですが、印象的なメロディを力強く弾く David Berkerman も強い印象を残しています。
ということで、「エバンス派」好きならば間違いなくシビれるCDなんですが、流石にあそこまでの耽美な感覚は表現出来ていません。しかし逆に力強さと抽象性のバランスが秀逸で、もちろんメロディが大切にされていますから、聴いていて疲れません。
全くイケてないジャケットがマイナスではありますが、機会があれば聴いてみて下さいませ。特に最後期ビル・エバンス・トリオがお気に入りの皆様には、オススメです。CDならではの曲順では「04」→「07」→「03」→「01」を愛聴しています。