お中元にいただいた水羊羹を食いすぎて、ちょっと胸焼け状態……。
そこで軽快なアルバムを出してみました――
■Tenors Head-On / Bill Perkins & Richie Kamuca (Pacific Jazz)
ジャズの世界の名物企画、バトル物の1枚です。
演じているのはビル・パーキンスとリッチー・カミューカという西海岸派の白人テナーサックス奏者ですから、そのスタイルはれスター・ヤングを源流とする流麗なノリと歌心を信条とした柔らかなもの♪ しかし基本は2人の対決を主軸としていますから、似た者同志の熱気があります。
もちろん素晴らしい協調性もあって、このあたりはアル・コーンとズート・シムズのコンビと良い勝負でしょう。ちなみにビル&リッチーの2人はスタジオの仕事も多かったので、実際のライブ活動はどの程度やっていたのかは不明ですが、それゆえに、このアルバムでは「作り上げた」という雰囲気が良い方向に作用した傑作だと思います。
ただし欠点はモノラル仕様なので、どっちが誰!? と聴いていてイライラするところでしょうか。まあ、そんな事には拘らずに演奏そのものを楽しめばいいんでしょうが、否、そこに拘るのがジャズ者の哀しいサガということで――
フワフワに柔らかい音色がビル・パーキンス、ちょっと硬めでドライブ感が強いのがリッチー・カミューカと、私は判別しておりますが、それでも分からない部分がいっぱいあります。一応、曲毎にソロの順番を記してみましたが、あやふやなのが本音です。
録音は1956年7月、メンバーはビル・パーキンス(ts)、リッチー・カミューカ(ts)、ピート・ジョリー(p)、レッド・ミッチェル(b)、スタン・リーヴィ(ds) という白人5人組です――
A-1 Cotton Tail
デューク・エリントンが書いた曲にしては単純な循環コード曲なので、アドリブの競演にはうってつけの素材です。まあ、元々のオリジナルからして、ベン・ウェブスターを吹きまくらせるための目論見でしたから、必然的に熱くなるように作られた名曲というわけです。
で、ここでもアップテンポで景気良く演奏されています。そのリズム隊の凄さにド肝を抜かれるでしょう。ピート・ジョリーはホレス・シルバーのようでもあり、デューク・エリントンのようでもあります!
気になるテナーサックスのソロオーダーは、先発がリッチー・カミューカ、ベースソロを挟んで登場するのがビル・パーキンスかと思いますが、いかがなもんでしょう? いずれも素晴らしい好演です♪
A-2 I Want A Little Girl
あまり有名でないスタンダード曲ですが、実に和んでしまう演奏です。ゆったりした雰囲気で絡み合う2本のテナーサックスには色気があって男気もあるという素晴らしさです。サブトーンを多用するのがビル・パーキンスでしょうか?
アドリブの順番もビル・パーキンスが先発かと思います。そして続くリッチー・カミューカの素敵な歌心にはゾクゾクしてしまいまうねぇ~♪ そのまんま2人の絡みになるラストテーマの吹奏は、ジャズの真髄かもしれません。
A-3 Blues For Two
レッド・ミッチェルのオリジナル曲なので、必然的にベースが目立つ雰囲気ですが、ファンキーさをモロ出しにするピアノと抑えた感情表現のテナーサックスが面白い効果になっています。
アドリブパートでは、まずリッチー・カミューカが柔らかな中にも芯のあるドライブ感が素晴らしく、続くビル・パーキンスは足が地についていないようなところが魅力で、この手のレスター派が好きなファンには、たまらないところ♪
A-4 Indian Summer
スタン・ゲッツの名演が残されていますから、同系のビル&リッチーも負けられないと気合が入ったのかもしれません。この和みの魅惑曲を軽快に、そしてグルーヴィに演奏してくれます。
アドリブ先発はビル・パーキンスでしょう。ややモタレつつ柔らかにスイングした後には、リッチー・カミューカがドライブ感を強調して続きます。
またピート・ジョリーとレッド・ミッチェルが短いながらも素晴らしいアドリブを披露すれば、スタン・リーヴィは強力なシンバルとスキッとしたドラムブレイクで、強い印象を残すのでした。
B-1 Don't Be That Way
ベニー・グッドマンの演奏が歴史的に有名なスイング曲なので、ここでも痛快な演奏になっています。
ただし、そのキモはリズム隊の豪快なノリであって、肝心のビル&リッチーは、やや精彩がありません。と言うよりも、リズム隊が凄すぎるんでしょうねぇ~♪ ピート・ジョリーは完全にホレス・シルバー化していますし、ベースとドラムスの黒いノリには驚愕させられます。
気になるテナーサックスのソロ順は、ビル・パーキンス~リッチー・カミューカだと思います。そして後半の2人の絡みは、アドリブの不調をブッ飛ばす爽快さがあって、面目躍如の一撃になっています。
B-2 Oh! Look At Me Now
今度はトミー・ドーシー楽団の十八番を取上げてくれました。と言っても、メロディの歌わせ方はフランク・シナトラのバージョンに近いような感じです。つまりセンスが良いんです♪
アドリブの先発はリッチー・カミューカだと思いますが、これは自信がありません。ただし、いずれのアドリブも最高級なんですねぇ~♪ 緩やかなテンポの中で、歌心とソフトなスイング感が絶品です♪ ラストテーマの変奏には、思わず泣けてきます。
B-3 Spain
もちろんチック・コリアの曲ではありません。一応スタンダードなんでしょうが、これが実にソフトな情感溢れる名曲です。
アドリブ先発はビル・パーキンスで、背後から絡んでくるリッチー・カミューカが最高です。もちろんリッチー・カミューカのパートでは、それが逆になってビル・パーキンスの絡みが素敵という趣向です♪
B-4 Pick A Dilly
オーラスはアル&ズートのアル・コーンが書いた痛快曲ですから、ビル&リッチーとしてはメンツに懸けても負けられないところでしょう。
ところが気合が空回りしたのか、やや???の仕上がりだと思います。アドリブの先発はリッチー・カミューカでしょうが、ちょっと勿体無いところでした……。
ということで、ちょっと評価が分かれる作品かもしれません。個人的には、じっくり演奏されるスローバラードがあっても良いかなぁ……、と昔っから思っているのですが、如何にも西海岸派という軽快なノリを楽しむ分には文句なしです。
それとジャケットが、良いんです。男2人の歌心に酔っているのか、素敵な美女が真ん中で♪ それとも、意外なしつっこさに辟易しているんでしょうか……? 耳を塞いでいるようにも見える、ちょいと気になる彼女の表情が意味深です。