OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

快楽盤が何故悪い?

2007-07-23 17:37:41 | Weblog

昨日の話で申しわけありませんが、千秋楽の横綱・白鵬の無気力ぶりには絶句でした。横綱のプライドも、お客さんを楽しませようというプロ意識も感じられません。

白鵬には、猛反省を望みたいですねっ!

という、面白く無い気分をブッ飛ばすには、これしかありません――

Down With It / Blue Mitchell (Blue Note)

フリーやモードに侵されて、すっかり難しくなってしまった1960年代中頃からのジャズ界には、しかし、それに反撥する勢力が確かにありました。

ただし、ジャズ喫茶という文化がある我国では、ジャズは悩んで聴くものという風潮がありましたから、快楽的な演奏は下賎な……、という扱いがコアなジャズファンの気分でした。

というか、ジャズロックやブーガルー、あるいはR&Bインストに近い演奏なんか、ジャズ喫茶じゃ、お呼びで無いという感じでしょうか……。それゆえにリアルタイムのアメリカで量産されていたジャズロックやソウルジャズのアルバムは、1990年代に入ってからのレアグルーヴと称されたブームの中で再発見されるまで、ジャズファンの個人的な楽しみになっていたのが、本当のところでしょう。

つまりジャズ喫茶やジャズマスコミで認知されない領域には、素晴らしいアルバムがあっても、それは所詮、個人が自宅で密かに聴いていたというわけです。

このアルバムも恐らく、そうした中の1枚でしょう。

録音は1965年7月14日、メンバーはブルー・ミッチェル(tp)、ジュニア・クック(ts)、チック・コリア(p)、ジーン・テイラー(b)、アル・フォスター(ds) という、今となってはハッとするほどの意外性を含んでいますが、ミッチェル、クック、テイラーの3人はファンキー大王=ホレス・シルバー(p) のバンドから独立した者達ですから、演奏されているのは、あくまでも快楽主義に徹したものです――

A-1 Hi-Hell Sneakers
 R&B歌手のトミー・タッカーが自作自演して1964年にヒットさせた楽しい名曲ですから、ここでも強烈なジャズロックのビートを炸裂させた名演が楽しめます。
 そのキモは、もちろんリズム隊の弾けるビートの素晴らしさ♪ それゆえにジュニア・クックの分かり易くて迫力満点のテナーサックスは限りなくブローし続けて爽快です。またブルー・ミッチェルも難しいフレーズなんか、ひとつも吹いていない潔さ! 愉快な合の手を入れてくるジュニア・クックとグルになって快楽を追求してくれるのです。
 それとチック・コリアは、やっぱりネアカなんでしょうねぇ~。リズミックなコード弾き主体のアドリブからは、こういう演奏を出来る喜びが満ち溢れているようです。
 いやぁ~、実に楽しいですねぇ♪

A-2 Perception
 ブルー・ミッチェルとチック・コリアが共作した哀愁系の名曲です。もちろんラテンリズムの使用はお約束というか、ちょっと難しい方向に行きそうになるアドリブを、グッと楽しさに繫ぎ止める役目を果している感じです。
 そのアドリブパートでは、先発のブルー・ミッチェルが若干、アブナイ雰囲気ですが、続くジュニア・クックが脂っこい音色のテナーサックスで存分に自己主張してくれますし、チック・コリアは完全に俺に任せろ! ハードバップに止まらない新しい感覚のフレーズとノリは、既にして充分、個性的です。
 アル・フォスターのリムショットも、なかなかの「味」の世界!

A-3 Alone, Alone And Alone
 我国の日野晧正が書いた、畢生のオリジナル曲ですが、実はこの当時、日野晧正のバージョンはレコーディングされていなかったのが真相ですから、これがファーストレコーディングのバージョンというわけです。
 それはどうやら、このレコーディングの半年ほど前に来日したブルー・ミッチェルが日野晧正の演奏を聴いて気に入り、スコアを入手して、ここに録音されという事情があるようです。
 で、ここでの演奏は、日野晧正が書いた哀切のオリジナルメロディを大切にしたブルー・ミッチェルの吹奏に始り、情熱的な解釈を聞かせるジュニア・クックと新鮮な響きを感じさせるチック・コリアの名演に彩られた、やっぱり素敵な仕上がりになっています。
 ちなみに日野晧正の演奏は、やはりこの年の秋に出演したベルリンジャズ祭の直後に現地でスタジオレコーディングされた白木秀雄クインテットのバージョンがあって、聴き比べるのも一興でしょう。まあ、個人的には、その白木秀雄バージョンの方が好きですが♪

B-1 March On Selma
 B面に入っては、いきなり楽しいチック・コリアのピアノからゴスペル調のハードバップが展開されますから、たまりません。特にジュニア・クックはテーマ部分からバカノリ状態! そのまま突入するアドリブパートでも、ブルースフィーリングとハードバップ魂を存分に披露する快演です。背後から絡んでくるブルー・ミッチェルのリフも実に楽しい限り♪
 そのブルー・ミッチェルも、当然、楽しさ優先モードですし、背後でジュニア・クックが吹きまくるリフは、キャノンボール・アダレイの「自然発火」という曲からの引用という芸の細かさです。
 さらにチック・コリアがファンキーな雰囲気の中で、思う存分に自己主張するあたりが、痛快です。ゴスペルドラムに撤するアル・フォスターと地鳴りのように蠢くジーン・テイラーのベースも潔いですねぇ~♪ もちろんバックで炸裂するホーン陣のファンキーリフは文句無しの楽しさなのでした。

B-2 One Shirt
 アップテンポで、ちょっとモードになりかかったハードバップ曲ですから、チック・コリアが大ハッスル! アル・フォスターも実に斬新なドラミングを聞かせてくれますが、ブルー・ミッチェルはモダンジャズの王道を決して踏み外しません。幾分、細い音色のトランペットが、妙に心地良く聞こえてしまいます。
 しかし、それとは逆にパワー全開のジュニア・クックのテナーサックスは強烈で、かなり尖がったフレーズを駆使しての熱演は、先鋭的なリズム隊とバッチリ息の合った名演でしょう。そして前述したように、チック・コリアが最高です! アルバム全体がジャズロック指向なんで、見逃されがちですが、これもチック・コリアが最初期の隠れ名演じゃないでしょうか?
 クライマックスで展開されるホーン対ドラムスのバトルも熱戦です。

B-3 Samba De Stacy
 タイトルどおりに哀愁のボサロックで、何よりも痛快なアル・フォスターのリムショット、せつないテーマメロディ、さらにイナタイ感じが凄いというジーン・テイラーのベースがたまりません。
 ブルー・ミッチェルも泣きそうになるほど良いアドリブメロディを吹きまくりですし、ちょっと不思議な儚さが漂うノリなんか、他のトランペッターでは出せない味かと思います。
 またジュニア・クックが重厚な音色とグルーヴィな雰囲気を横溢させて、流石の存在感です。しかし、お目当てのチック・コリアはアドリブソロの持ち時間が短くて、残念無念……。それが不満とは贅沢でしょうか……。

ということで、快楽ジャズの1枚なんですが、実は何時聴いてもビシッとした魂を感じてしまうのは、私だけでしょうか? 繰り返しますが、ブルー・ミッチェルとジュニア・クックは、何時の時代も分かり易い演奏を心がけていたと思います。それがある意味では軽んじられるところかもしれません。

しかし聴き手を突き放したような演奏は、ジャズに限らず、時代を生き残ることが出来ないのは、自明の理でしょう。今日、ジャズは完全に伝統芸能の域に達していますが、その中で末永く聴き継がれるのは、このアルバムのような演奏だと思います。

コメント (4)
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