OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ピーターソンの普通の凄み

2007-07-03 18:11:55 | Weblog

最近、自分の書く文章が煮詰まっています。書くほどに、その傾向が強くなり、これはジャズのレコーディングで、テイクを重ねた末にアドリブが煮詰まっていくという三流の証と同じです。

やっぱり感性一発、思いのままに書くのがベストなんでしょうが、それじゃフリージャズになるのが、私のダメさかげんでもあります。

ということで、本日は煮詰まりながら――

The Way I Really Play / Oscar Peterson (MPS)

世の中には、あまりにも凄すぎて当たり前という事象があります。例えばオスカー・ピータソンの存在は、そのひとつでしょう。

神業とも思えるテクニック、驚異的なアドリブ能力、さらにはお客さん第一という手抜きしない真摯な姿勢は、プロ云々という段階を超えて、素直に尊敬するしかありません。

もちろんそこには平素の努力だってあるでしょう。しかしそれを感じさせない自然体も大きな魅力で、ライブの場はもちろんのこと、レコーディングセッションという「作り」の環境でさえも、心底、楽しさ優先で仕切ってしまう存在感は、膨大に残されているレコードやCDで、当たり前に楽しめるのですから、ある意味、罪が深いのかもしれません。

このアルバムは、そういう天才の当たり前さが、たっぷりと楽しめる1枚です。

録音は1968年4月、レーベルオーナーであるハンス・ブルナーシュワーの私設スタジオに少数の観客を入れたライブセッション形式で、メンバーはオスカー・ピーターソン(p)、サム・ジョーンズ(b)、ボビー・ダーハム(ds) という、一番ハードバップに近づいていた時期の演奏です――

A-1 Waltzing Is Hip
 いきなり豪快なピアノが鳴りまくる、まさにオスカー・ピーターソンの真髄がここにあります。グワ~ンという響きから繊細な音使い、さらにゴマカシの無いピアノタッチと烈しいアドリブの嵐は、もう独壇場の輝きでしょう。
 疾走する親分に必死で喰らいついて、ビシッとキメを入れるボビー・ダーハムのドラムスも素晴らしく、後半では白熱のドラムソロを聞かせてくれますし、サム・ジョーンズの堅実なサポートも、なくてはならないものです。
 アレンジ全体は、以前の所謂「黄金のトリオ」時代から引き続いた雰囲気ですが、そのノリには、より進化したハードバップのフィーリングが感じられます。

A-2 Satin Dool
 デューク・エリントの代表作にしてモダンジャズの人気曲なので、オスカー・ピーターソンも幾つかのバージョンを残していますが、決定版として評価が定まっているのが、この演奏です。
 緩やかにグルーヴィなノリで始めるオスカー・ピーターソンに対し、落ち着きのないサム・ジョーンズと迷い道のボビー・ダーハムが、少しずつベクトルを修整し、トリオが一体になっていくグルーヴの過程が、ジャズの面白さに満ち溢れています。
 肝心のオスカー・ピーターソンは、豊かな解釈と膨らみのある音使い、さらに小気味良いスイング感を全開させ、やはり素晴らしすぎる快演♪ 豪快なノリが、決して無謀ではないところに、この人の凄さがあります。もちろん当たり前の、です!
 あぁ、何度聴いても飽きる事が無く、素直に感動させられますねぇ~~~♪

A-3 Love Is Here To Stay
 これはビル・エバンス(p) の名演があるスタンダード曲ですが、オスカー・ピーターソンの手になると、一味どころか百味くらい違う凄さと楽しさが表現されます。
 特に最初から完全なピアノソロで演奏されるテーマ部分の解釈から、その変奏主体のアドリブまで、さり気なく絶妙な完璧さです。
 途中から入ってくるベースとドラムスも、リーダーの意図を完全に理解した助演で、グルーヴィな盛り上げは立派です。

B-1 Sandy's Blues
 オスカー・ピーターソンが書いたオリジナルのブルースで、奥深いソウルと黒い魂が全開となった強烈な演奏です。
 と言っても、決してコテコテバリバリではなく、最初は完全なソロピアノでブルースをジックリと醸造させながら、ベースとドラムスを呼び込んでからは、もうグルーヴィという他はない熱演です。
 こういう、ゆったりとした黒っぽい演奏は、ひとつ間違えると腹にモタれる事が多いのですが、流石はオスカー・ピーターソンと唸りながら、9分半近い演奏を最後まで聴いてしまう魅力! それも当たり前ですか!?
 特に中盤から倍テンポ気味にブロックコード弾きで盛り上げていくあたりの痛快さは、ド迫力♪ グイノリのベースとシャープなドラムスも素晴らしく、完全に指パッチンの世界です。
 アドリブフレーズと同じに出ている唸り声にも、驚嘆させられますねぇ。

B-2 Alice In Wonderland
 これもモダンジャズでは人気スタンダードですから、ワルツタイムで豪快にスイングさせていくオスカー・ピーターソンに、ヌカリはありません。
 指が動いて止まらない軽快なアドリブからは、原曲メロディよりも素晴らしいアドリブが出ますし、時に「手癖」と批判されるストックフレーズさえも、冴えわたっています。
 こっそりと執拗に絡んでいるサム・ジョーンズの頑張りも、良い感じ♪

B-3 Noreen's Nocturne
 アップテンポで演奏される愛らしい曲で、随所に仕掛けられたアレンジを容易く聞かせていくトリオの実力が存分に楽しめます。いやぁ、実に凄いですねぇ~♪
 オスカー・ピーターソンは、もちろんウルトラ級のバカノリですが、サム・ジョーンズが必死のウォーキングベースソロや、そのバックでのボビー・ダーハムのブラシとか、細かい聴き所も満載!
 あぁ、こんなピアノトリオが、あっていいんでしょうか……? という感想しか浮かびません。

ということで、全曲が楽しく、凄く、当たり前に演奏されすぎている名盤です。

録音の良さも特筆されていますが、個人的には片方に寄っているドラムスとベース、また対極に定位するピアノが、ちょっと泣き分かれでイマイチかと思います。しかし演奏の迫力によって、それがスピーカーから出た空間でひとつになる瞬間がたっぷりとありますから、やはり凄いです!

繰り返しますが、当たり前すぎて、ちょっと分からない名盤かもしれません。

コメント (2)
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