OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

カークとバイアード

2007-07-29 17:18:28 | Weblog

今日は選挙! 国民の義務として私も投票してきました。

いろいろと国に文句を言う前に、まず選挙に参加しなければ始りません。

しかし投票したい人物が居なかったら、どうするか……?

白票も良いんじゃないでしょうか。棄権するよりは、ずっと!

ということで、本日は――

The Jaki Byard Experience (Prestige)

ジャッキー・バイアードはジャズ界きってのマルチプレイヤーで、一応、主楽器はピアノなんでしょうが、サックスは上手いし、トランペットや各種打楽器、管楽器を巧みに操っては、リスナーをケムに巻く様な活動をしていました。

もちろん音楽性も幅広く、例えばピアノでは元祖モダンピアノというアール・ハインズ~ビバップを創成したバド・パウエルのスタイルを完全吸収し、さらにデューク・エリントンやエロル・ガーナーあたりの洒脱な部分も取り入れて、全く正体を見せません。もちろんフリーは十八番の展開です。

つまりジャッキー・バイアードの作り出す音楽は、刺激的に楽しく、ジャズの伝統と革新をひとりでやってしまったようなゴッタ煮感覚が、たまらないのです。

そのあたりが高く評価されたのか、あのガンコ親分のチャールズ・ミンガス(b) が自分のバンドへ特に懇願して入団させた伝説が残されているほどです。

さて、このアルバムは、そのチャールズ・ミンガスのバンドでは同僚だったローランド・カークと組んだ、所謂ワンホーン物ですが、ご存知のようにローランド・カークもジャズに留まらない幅広い音楽性を自然体で身につけていた奇特な天才でしたから、ここでのコラボレーションもバッチリという傑作になっています。

録音は1968年9月17日、メンバーはローランド・カーク(ts,cl,manzello,etc)、ジャッキー・バイアード(p)、リチャード・デイビス(b)、アラン・ドウソン(ds) という硬派な面々です――

A-1 Parisian Thoroughfare
 バド・パウエルが書いたエキセントリックなビバップ曲なんですが、クリフォード・ブラウンが小粋なアレンジを用いてハードバップ化した演奏が有名でしょう。
 ここではローランド・カークが複数のホーンを用いたり、ジャッキー・バイアードがフリー寸前の錯乱ピアノを聞かせたり、アラン・ドウソンがやけっぱちドラムスを敲いたりする曲の導入部で、パリの街の狂騒を上手く表現して流石です。これはクリフォード・ブラウンのアレンジを、一層、進化させた鮮やかさです♪
 で、それが終わってからは痛快なモダンジャズに転換し、ローランド・カークがマンゼロというソプラノサックスの音色に近い楽器で、一気に吹きまくり! ジャッキー・バイアード以下の伴奏陣も烈しい自己主張と協調性のバランスを求めて止まないノリが見事ですし、ローランド・カークは途中からテナーサックスに吹き代えての熱演も、一瞬で虚しくなってしまうジャッキー・バイアードの突撃ピアノソロを聴けば納得でしょう。
 あぁ、フリーもラグタイムもゴッタ煮でありながら、間違いなくモダンジャズのピアノになっている恐ろしさ! また、それに全く怯むことの無いリチャード・デイビスのベースも流石ですし、大技・小技で対抗するアラン・ドウソンは、あのトニー・ウィリアムスが目標としていたドラマーだけあって、抜群の存在感を示しているのでした。
 とにかく、これ1曲だけで、このアルバムの全貌が濃縮された名演だと思います。

A-2 Hazy Eve
 ジャッキー・パイアードのオリジナル曲で、なんとなくデューク・エリントンが書きそうな雰囲気が滲んでいます。そしてここではピアノとベースのデュオという演奏が、心に滲みますねぇ……。
 前曲がド派手だったんで、これが同一のバンドか? と思わずにはいられません。このあたりが、ジャッキー・バイアードの真骨頂かと思います。

A-3 Shine On Me
 これは古いゴスペル曲ですから、ジャッキー・バイアードが初っ端から楽しく軽いピアノを披露すれば、ローランド・カークはクラリネットで明るい哀愁を追求していきます。
 ドラムスとベースはジャズロック調のグルーヴで、ますます楽しく、ニューオリンズのセカンドラインまでも敲くアラン・ドウソンが実に素晴らしいです。ドタバタした雰囲気を引き締めるリチャード・デイビスのベースも良いですねぇ♪
 肝心のジャッキー・バイアードは、ゴスペル本流の高揚感とチープスリルな音色を上手く表現したピアノが本当に見事で、全く唯一無二の自己主張が痛快です。
 それとローランド・カークが中盤で聞かせる豪放なテナーサックスのアドリブは、分かり易いフレーズが逆に凄みを感じさせるというルーツ志向が好ましい限り! これがジャズです!
 
B-1 Evidence
 さてB面は、セロニアス・モンク(p) の代表作にチャレンジするバンドの意気込みが強烈な名演になったトラックでスタートします。
 まずローランド・カークがダーティな音色のテナーサックスで吹奏するテーマメロディの背後では、ジャッキー・バイアードが大暴れ! それはアドリブパートに入っても続きますから、あたりはもう、最初っから地獄の様相です。
 そしてローランド・カークが長~い息使いでウダウダバリバリ吹きまくり! あぁ、心底、驚愕するほかはありません。
 するとジャッキー・バイアードがセロニアス・モンクのスタイルをさらに過激にしたようなフリー寸前のアドリブを披露するのですが、我関せずのりチャード・デイビスとアラン・ドウソンの伴奏がありますから、普通に聞こえてしまうのが、これまた恐いところ!
 最後の最後まで気を抜けない濃密さに疲れますが、それは心地良いものです♪

B-2 Memories Of You
 一転して信じられないような和みに満たされる演奏です!
 曲はベニー・グッドマンで有名な優しいスタンダードで、聴けば納得のメロディなんですが、ローランド・カークが幾分力んだテナーサックスでストレートに吹奏するバックでは、ジャッキー・バイアードが、これまた楽しいラグタイム調の伴奏をつけるんですから、たまりません。
 こうして文章にしているのが虚しくなるほどに、楽しく、せつなくなってしまう演奏としか書けませんが、ローランド・カークの歌心の素晴らしさと表現力は驚異的だと思います。特に終盤の息継ぎ無しの一気吹きには、愕くしかないでしょう。
 ちなみにこの演奏はテナーサックスとピアノのデュオなんですが、ジャッキー・バイアードの強烈なビート感も素晴らしく、アドリブパートでのハチャメチャさも痛快! もちろんそれは、やはり歌心に裏打ちされたものですから、一聴、虜になること間違い無しです。

B-3 Teach Me Tonight
 オーラスも、凝った演奏ながら、実は泣きたくなるほどに楽しい仕上がりになっています。
 曲はスタンダードなんですが、こんなに愛らしくて楽しい解釈は珍しいのではないでしょうか? 全く正統派のテナーサックスを聞かせるローランド・カークはもちろんのこと、リズム隊のアグレッシブで分かっている伴奏なんか、相等に自信が無いと出来ない力技もあって、流石です。
 あぁ、ジャズの素晴らしさに酔わされてしまいますねぇ~~~♪

ということで、これはコワモテのメンツが徹底的にジャズの楽しさを聞かせた名盤です。

人気者のローランド・カークは、何時も以上に歌心を大切にした名演を披露していますし、攻撃的な部分もきちんと発揮していますから、最高です。

またアラン・ドウソンの硬軟取り混ぜたドラミングの凄さ、リチャード・デイビスのマイペースな自己主張も個性的ですから、全体として、一部の隙もありません。

それでいて疲れないのは、ジャッキー・バイアードの幅広い音楽性が、わざとらしさに繋がっていないことだと思います。つまり作り上げた部分でさえ、自分の心に素直に演じたということでしょうか?

個人的には非常に偏愛している1枚です。機会があれば、ぜひとも聴いてみて下さいませ。目からウロコというよりも、なんでもありという、ジャズの楽しさに素直に浸れると思います。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« クセが無いのも良い感じ | トップ | 待ち望んだ復刻盤 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Weblog」カテゴリの最新記事