最近、暑さの所為か、やたらに空腹感を覚えます。
と言っても、食事はそんなに大量に食えませんからねぇ……。
ということで、本日は――
■Bob Brookmeyer And Friends (Colubia)
ジャズでは珍しくもないオールスタア・セッションも、ここまで来ると流石に唸るという1枚です。
リーダーは一応、ボブ・ブルックマイヤーになっていますが、相方が当時、ボサノバで人気絶頂だったスタン・ゲッツですから、たまりません。しかも、この2人は1953年頃にはレギュラーのバンドを組んでいた仲であり、それが解散となった後にも、ひとたび顔を合わせれば絶妙のコンビネーションを聞かせてくれるという名コンビ♪ 実質は2人の双頭リーダー盤だと思います。
録音は1965年5月、メンバーはボブ・ブルックマイヤー(v-tb)、スタン・ゲッツ(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ゲイリー・バートン(vib)、ロン・カーター(b)、そしてエルビン・ジョーンズ(ds) という、絶句するような豪華布陣! 発売されたのは1966年です――
A-1 Jive Hoot (1965年5月26日)
ボブ・ブルックマイヤーが書いたウキウキするほどに爽やかな名曲てす。エルビン・ジョーンズの小刻みなドラミングが、ややミスマッチの妙を感じさせますが、覚え易いテーマメロディのノリの楽しさは最高ですねぇ~♪ 一緒に口ずさんでも、全然、OKです。
温か味が魅力のボブ・ブルックマイヤーに対してクールなスタン・ゲッツとゲイリー・バートンが素晴らしく、各人ともに歌心を大切にしていますから、好感が持てます♪ 煮え切らないリズムも、妙に引っ掛かりがあって飽きません。
そしてハービー・ハンコックの尖がった姿勢がエルビン・ジョーンズに火をつけたような展開も、流石だと思います。
A-2 Misty (1965年5月27日)
エロル・ガーナーが書いた有名なメロディは、ジャズの世界を超えて、今や世界のスタンダードになっていますが、ここでは初っ端からクールにキメまくるスタン・ゲッツのテーマ吹奏が素晴らしいがぎり! 静謐でブルーな吐息というか、透明感溢れる表現には感動させられます。
またボブ・ブルックマイヤー以下の面々が脇役に徹しているあたりも、逆に凄いと思います。ですから、スタン・ゲッツはアドリブパートに入っても本領発揮の大名演♪ 本当に涼やかな演奏で、夏の夜にはぴったりですね。
もちろんボブ・ブルックマイヤーも、短いながら歌心全開のソロを聞かせてくれますが、ここはあくまでもスタン・ゲッツにシビレて異議なしだと思います。
A-3 The Wrinkle (1965年5月26日)
一転して黒くて力強いハードバップ! 作曲はボブ・ブルックマイヤーですが、エルビン・ジョーンズとロン・カーターの頑張りが目立ちます。
アドリブパートでは、まずゲイリー・バートンがクールで流麗な得意技を存分に聞かせてくれます。う~ん、ビル・エバンス(p) の流儀を用いている感じでしょうか、流石ですねぇ♪
また続くスタン・ゲッツも十八番のフレーズを出しまくりというノリの良さですし、ハービー・ハンコックはファンキー味までも滲ませた快演です。
そしてボブ・ブルックマイヤーは、幾分もっさりした味わいながら、歌心優先のフレーズしか吹きませんから、やっぱり最高です!
A-4 Bracket (1965年5月25日)
これもボブ・ブルックマイヤーのオリジナルで、エルビン・ジョーンズのアクが強いドラムスを活かしたモダンジャズです。
もちろんアドリブパートにも激しさがあって、ボブ・ブルックマイヤーのウダウダと繋がる不思議なフレーズ展開が快感としか言えません。それはスタン・ゲッツとても同じことで、流麗な「ゲッツ節」に思い切った音使いを混ぜ込んだ大熱演! 背後で嬉々として煽るエルビン・ジョーンズも強烈な存在感です。
そしてハービー・ハンコックもバカノリ寸前ですが、クライマックスはホーン対エルビン・ジョーンズ! まさに大団円が、熱いです。
B-1 Skylark (1965年5月27日)
B面は、これもお馴染みのスタンダードですが、もちろんこういう曲調になれば、スタン・ゲッツが面目躍如のクール節をたっぷり聞かせてくれます。スローな展開における溜息のような思わせぶりが最高です。涼しいですねぇ~~~♪
また歌心がいっぱいのボブ・ブルックマイヤーは、トロンボーンの音色を活かしきった演奏ですし、ゲイリー・バートンの淡々としたところも憎めません。エルビン・ジョーンズの粘っこいブラシも良い感じです。
しかし、ここはやっぱりスタン・ゲッツでしょう。
さらに途中でキレた様な伴奏に走るハービー・ハンコックは、どうしたんでしょう? これもジャズの醍醐味でしょうか……。
B-2 Sometime Ago (1965年5月25日)
これも個人的に大好きな名曲の所為か、知らず知らずのうちに和んでしまう演奏だと思います。テーマ部分から鮮やかなボブ&ゲッツの穏やかなスイング感には、本当に脱帽です。
しかしリズム隊は容赦無い雰囲気で、特にエルビン・ジョーンズは鬼気迫るドラミングですから、油断なりません。刺激されたスタン・ゲッツがアドリブパートで熱くなってしまうのは、ご愛嬌!? クライマックスでの2管の絡みも、短いのが残念なほどに秀逸だと思います。
B-3 I've Grown Accustomed To Her Face (1965年5月27日)
テーマメロディをスローで聞かせるボブ・ブルックマイヤーのジャズ魂が素晴らしい演奏です。もちろん絶妙の存在感を示すスタン・ゲッツも最高ですねぇ♪ ほんとうに心がジンワリとしてくる仕上がりだと思います。
スタン・ゲッツのクールな歌心も嫌味になっていませんし、余計な手出しをしないリズム隊も、分かっている感じです。
当に白人ジャズの真髄に迫った出来なんでしょうが、リズム隊が黒人というあたりが、キモかもしれません。やっぱりジャズは、良いですねぇ♪
B-4 Who Cares (1965年5月27日)
オーラスはスタンダード曲を素材に、楽しく陽気に盛り上がる演奏を披露してくれます。そしてこういう場面では、ハービー・ハンコックが実に味の伴奏で、たまりません。エルビン・ジョーンズの力感溢れるドラミングも最高♪
ですからスタン・ゲッツも絶好調、と書きたいところなんですが、実はリズム隊に押しまくられているという、ちょっと珍しい雰囲気になっています。と言うか、エルビン・ジョーンズが凄すぎるんですねぇ~。ほとんどドラムソロ状態のバッキングなんです。
するとボブ・ブルックマイヤーは初めっから諦めているような感じながら、実は周到に「読み」を働かせたアドリブ構成で、思わず唸ります。う~ん、これにはエルビン・ジョーンズも熱くなったか、ますます激烈に叩きまくるポリリズムの恐ろしさ!
ということで、如何にも大手レコード会社らしい企画というか、本音は人気絶頂だったスタン・ゲッツを録音したかったのかもしれません。というのは、当時のスタン・ゲッツはヴァーヴレコードと契約中でしたから……。
しかし、そういう思惑を超えたところで、あえてボサノバを避けた純ジャズのセッションを敢行したのは流石だと思います。おそらくスタン・ゲッツ本人にしても、そろそろボサノバから脱して次の展開へと、暗中模索していた時期だったのかもしれません。強靭なリズム隊の存在に、思わず嬉々として吹きまくった感があります。
ただし、このアルバムの弱点は、録音の貧弱さとでも申しましょうか、リバーサイドやブルーノートのような如何にも力感溢れるジャズの音になっていないのが、勿体無いところ……。まあ、これはこれで、良く纏まった音作りなんですが、個人的にはインパルスあたりの音だったらなぁ……、と聴く度に思います。
もちろん、それだからと言って、演奏そのものがダメということはありません。ジャズ喫茶の大音量でも、自宅での鑑賞でも、はたまた洒落たカフェで流れていても、ちゃ~んとその場を空気をジャズにしてしまう、粋な迫力がある名盤でしょう。