OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ミスマッチ盤

2006-01-05 17:18:21 | Weblog

今日も雪が酷くなってきました。いったい、いつまで降り続くのか???です。よくもまあ、これだけの物が空中に浮かんでいるという、本当に不思議です。

という雪国からの1枚は――

My Point Of View / Herbie Hancock (Blue Note)

ハンコックほど保守本流から改革派、さらにフュージョンやラップの世界と、めまぐるしく音楽性を変化させながら、常に第一線で活躍したジャズメンはいないでしょう。しかもそれを同時多発的にやってきたのですから、これは驚異です。

そういう、悪く言えばいささか節操が無い部分は、すでにデビュー当時から滲み出ており、リーダー盤2作目にあたるこの作品には、後に開花する様々なネタが埋もれています。

メンバーはハービー・ハンコック(p)、ドナルド・バード(tp)、ハンク・モブレー(ts)、グレシャン・モンカー3世(tb)、グラント・グリーン(g)、チャック・イスラエル(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という、なんだかミスマッチのオンパレードみたいですが、そこにまず、面白味があるのです。ちなみに録音は1963年3月19日、つまりハンコックとトニー・ウィリアムスがマイルス・デイビスのバンドに抜擢される直前の演奏ということになります。

A面1曲目は当時のブルーノート・レベールがイチオシだったジャズロック路線の「Blind Man, Blind Man」で、これはハンコックが街角で演奏する盲目のブルースマンをイメージして作ったと告白しているからでしょうか、当然の如くグラント・グリーンの単音弾きギターが大活躍しています。それに続くハンク・モブレーも待ってましたのR&Bフレーズの連発です。

またここではホーン隊とハンコックのピアノによるバックのリフが心地良く、トニー・ウィリアムスもシャープなロックビートを叩き出していますが、チャック・イスラエルは、俺はほんとは、こんなのやりたくないんだよぉ~、というような、どうしていいのかわからない状態なのが笑えます。ちなみにこの人は当時、ビル・エバンスのトリオで繊細なベースを弾いていたのですからねぇ、分かるような気も致します。

しかしハンコックは容赦なくファンキービートのピアノソロを展開し、これにはラムゼイ・ルイスも吃驚でしょうね♪

そして2曲目が、これまた素晴らしい「A Tribute To Someone」です。曲調は完全にマイルス・デイビスのバンドで演じてもいいような豊かなハーモニーと優しいメロディが魅力的♪ まずドナルド・バードがリードする主旋律を芳醇に膨らませていくハンク・モブレーのセカンドテーマの処理が最高です。そしてアドリブパートに入ってはドナルド・バードが輝きながら飛翔し、ハンク・モブレーは独特の間合いの取り方で、誰にも真似の出来ない味を披露しています。

肝心のハンコックは、まずバッキングのコード弾きが完全にマイルス時代と同じです。もちろんトニー・ウィリアムスもそうです。チャック・イスラエルもこういう曲調では本領発揮で、今しもマイルスのトランペットが出てきそうなところが、嬉しいというか、今では皮肉な巡り合せになっています。

さらにB面1曲目の「King Cobra」は完全にマイルス・バンド状態! 複雑なハーモニー構造と刺激的なビートの嵐がトニー・ウィリアムスには最適です。しかしそれでフロント陣のドナルド・バードとハンク・モブレーという、いささか旧世代のメンバーが霞んでいるかと言えば、否! です。またここでは新世代のトロンボーン奏者としてメキメキ売り出していたグレシャン・モンカーの急進的なソロも聴かれますし、それに影響されたか、ハンコック
も過激にスイングしているというように、新旧入り乱れた快演だと思います。

そういう部分は、続くB面2曲目の「The Pleasure Is Mine」にも表出しており、ハンコックだけの豊かなハーモニー感覚が存分に楽しめる安らぎのナンバーです。もちろんピアノソロにはビル・エバンスの影響がはっきり出ていますが、そこは、ご愛嬌です。

そしてオーラスは、そういう諸々の思惑を爽快にブッ飛ばすゴスペルファンキーな「And What If I Don't」です。このルーズな雰囲気とタメのある黒人感覚、そしてどこかしら知的な風情が漂うミスマッチが、たまりません。

ソロオーダーも知的なハンコック、ファンキーなグラント・グリーン、ハードバップなドナルド・バード、まろやかで黒っぽいハンク・モブレーとお約束をしっかり守った一芸主義が見事です。これがジャズの魅力かもしれません♪

ということで、これはハービー・ハンコックの諸作の中では、一番纏まりが無いというか、散漫な仕上がりと評価されてしかるべきアルバムです。しかしその内容は、曲毎に充実したポイントがしっかり存在していますし、少なくとも「A Tribute To Someone」と「King Cobra」の2曲はマイルス・バンドのバージョンが聴きたくなる名曲だと思います。

告白すると個人的には愛聴していた時期が、確かにありました。

コメント (2)
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