OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

当たり前の名盤

2006-01-03 17:57:33 | Weblog

今年のお正月は、久々に家族団らんというか、最後には鬱陶しくなったと皆で笑いながら過ごしました。明日から仕事なのはもちろんですが、こういう平和は大切にしたいものです。それは当たり前なんですが、案外この「当たり前」に気づかないのが、終りなき日常というやつです。

で、自戒の意味をこめて、本日は「当たり前」の大名盤を――

Blue Trombone / J.J.Johnson (Sony)

名盤、間違いなく大名盤ですが、これほど人気の無い名盤もないと思われます。

もちろんJ.J.ジョンソンはトロンボーンの大名人ですし、共演者もトミー・フラナガン(p)、ポール・チェンバース(b)、マックス・ローチ(ds) という豪華な顔ぶれなんですが……。

どうやら出来すぎというか、あまりのソツのなさがいけないのかもしれません。

それとこの作品には、いかにもジャズファン好みというオリジナル曲がありません。例えばビル・エバンスの「ワルツ・フォー・デビー」とか、コルトレーンの「インプレッションズ」とか、これが出ないと収まらないというようなヒット曲がないんですねぇ……。

しかし冒頭、A面1曲目の有名スタンダード「Hillo, Young Lovers」は快演です。トミー・フラナガンの上手すぎるイントロに導かれて快調にテーマを吹き綴るJ.J.ジョンソンは、そのまんま流れるようなアドリブ・パートに突入していきます。それはかなりメカニカルなフレーズを使った名人芸ですが、聴き手に必死になっていることを気取られない凄さがあります。

もちろんリズム隊との連携も鮮やか♪ 特にマックス・ローチとのコンビネーションはバッチリですし、フラナガンのアドリブ・ソロも冴えています。う~ん、それにしてもマックス・ローチ! ステックにブラシに八面六臂の大活躍で、個人的にはフラナガン、チェンバース&ローチというトリオでアルバムを残して欲しかったところです。

その素晴らしい部分は2曲目の「Kev」のイントロのドラム・ソロでも完璧で、曲そのものはテーマも無い、全くのアドリブの集合体なので、抜群のスパイスになっています。主役のJ.J.ジョンソンも負けじとバリバリ吹きまくり♪

そして3曲目が、これも人気スタンダードの「What's New」を、極上のスロー・バージョンで聞かせてくれます。ここでのJ.J.ジョンソンはミュートを使っていますが、それほど情に流されることのないクールな佇まいで歌心を披露、続くフラナガンも十八番の展開とあって、完全な素晴さです。

さてA面ラストは、アルバムタイトル曲の「Blue Trombone」ですが、何故かこれが「Part-1」ということで、結論から言うと完成された1曲を2つに分断し、「Part-2」をB面冒頭に収録してあるのです。

で、その曲調は、特にテーマは無いものの、快適なブルースで、その出来は最高! それだけに途中でフェードアウトしてしまうのは勿体無いと、誰もが感じる大名演です。

そしてB面は、その「Part-2」がフェードインしてスタートしますが、ここではリズム隊が大暴れ! 特に何の淀みも無くポリ・リズムでソロを演じるマックス・ローチは怖ろしいほどに凄まじい! 流石のJ.J.ジョンソンもこれには怯えたか、続くソロ・パートではオトボケ・フレーズで逃げる場面さえあります。

しかし次の「Gone With The Wind」では安らぎが提供されます。ここでのJ.J.ジョンソンは再びミュートを使い、軽妙に楽しく演奏しているので、聴いているうちにウキウキしてきます。もしかしたら、こういう味こそがJ.J.ジョンソンの本質かもしれません。もちろんトミー・フラナガンは歌心全開です。

と、一息つくのも束の間のこと、オーラスの「100 Proof」がまたまた大暴風という演奏です。これは一応J.J.ジョンソンのオリジナルということになっていますが、ここでもまた、テーマ・メロディが出ずに、いきなりアドリブの応酬に突入していくのです。もちろんそれは強烈なジャズの醍醐味を満喫させてくれますが、アルバム全体を通して、こういうアドリブ重視の作りが、その出来栄えに反比例して、この作品を人気の無いものにしていると思います。

ちなみに、このアルバムの録音は1957年4月と5月に行われていますが、実は美味しいスタンダード曲がかなり一緒に演奏されており、それは「first Place」という別なアルバムに仕立てられているのです。当然、それは素晴らしい出来栄えですが、何故か名盤扱いにはなっておらず、知る人ぞ知るウラ名盤というのが真相で、全くもって勿体無いかぎりです。

そのあたりに怒りを感じていたら、演奏はいつしか大団円というマックス・ローチのドラム・ソロへ! これが大迫力で、唐突な演奏の終り方への布石というあたりに、あぁ、やっぱりこれは名盤なのだっ! と納得させられてしまうのでした。

というこのアルバムは現在廃盤状態のようです。ジャズ喫茶ではA面が定番のようですが、ここはひとつB面をリクエストして、ウェイトレスの気をひくのも悪くありません。もちろん内容はジャズ喫茶の大音量で聴くのに最適です。 

コメント
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