OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

平常心の1枚

2006-01-25 17:45:22 | Weblog

自然体は難しいです。自分に正直というのは、本当に難しいですね……。いつも何らかの形で「演じて」いる自分を感じます。カッコつけたり、グッと堪えてみたり、平常心を装ってみたり、力んでみたり……。そんな繰り返しの終りなき日常に聴くアルバムが、これ――

Bebop City / Dusko Goykovich (enja)

ダスコ・ゴイコビッチといえば、今や日本では不動の人気を確立しているトランペッターですね♪ このユーゴスラビア生まれの名手は、1970年代に「アフターアワーズ(enja)」というジャズ喫茶の名盤でブレイクしたのですが、その魅力は常にジャズの保守本流を大切にした演奏にあります。

実際、そのスタイルは1950年代のマイルス・デイビスを彷彿とさせる歌心とフレージングの妙、仄かに黒いフィーリング、溌剌としたノリと思わせぶりなバランスの絶妙さという、ジャズ者ならば、必ずや心魅かれる存在です。

当然、レコード製作の共演者は保守派というか同世代のベテランが多いわけですが、このアルバムは1994年に勇躍としてニューヨークに乗り込み、バリバリの若手と吹き込んだ1枚です。

メンバーはダスコ・ゴイコビッチ(tp) 以下、エイブラハム・バートン(as)、ラルフ・ムーア(ts) という伸び盛りの若手をフロントに、リズム隊は中堅のケニー・バロン(p) とレイ・ドラモンド(b)、そして欧州で何度も共演して気心の知れているベテランのアルビン・クイーン(ds) という布陣です。

というわけですから、私は大いに期待して聴き始めたのですが、こういう書き出しだと皆様すでにご推察のとおり、これが全くダメというか、いつものゴイコビッチ節が出ません……。つまりバンド全体のコンセプトが噛合わない雰囲気が濃厚です。

結局、あ~ぁ、ゴイコビッチでも気負ったりすることがあるんだなぁ~、という気分になり、それが逆に安心感でもあるという、全く妙な気分にさせられる出来なんですが、それが突如、7曲目の「One For Klook」でいつもの快感、ジャズを聴く楽しみに引き戻されるのです。これはゴイコビッチのオリジナルで、かつて共演したドラムスの巨匠であるケニー・クラークに捧げたビバップ色が強い曲♪ メンバーのソロも快適そのもので、これまでのウサが一気に晴れる名演です。特にアドリブの出だしで「キャ~ンディ~」と元ネタメロディを引用してしまうゴイゴビッチが憎めません♪

そして続く有名スタンダードの「Day By Day」はゴイゴビッチのワンホーン・カルテット編成で、マイルス流儀のミュート・トランペットがたっぷりと楽しめます。この哀愁を塗した歌い回しがゴイゴビッチ中毒の本質で、いつまでも聴いていたいと思わずにはいられなくなります♪

さらにオーラスの「Brookly Blues」は、典型的なハードバップのブルース! もちろんゴイコビッチのオリジナルですから、作者が余裕のファンキー節を披露すれば、エイブラハム・バートンもじっくりと黒いフィーリングを醸し出そうと奮闘しています。そしてそれを支えるリズム隊はタメとツッコミのバランスが良く、ハメを外し気味のケニー・バロンがやや浮いているとはいえ、フェードアウトしながら終わる演奏の最後までダレていません。

ということで、私はこれを後半3曲だけしか聴きませんが、それで充分、ジャズを聴く楽しみに浸ることの出来る、稀有の名盤! と今日は言い切っておきます。あ~、たまに贅沢もいいでしょう。

コメント (4)
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