この時期の風のない夕方、追分はアカシアの甘い空気に包まれる。はずなんだが、今年はちと様子が違う。それはソーラーパネルと関係がある。JR敷地の鉄道林が伐採され、それと共にニセアカシアの成木がほぼ消滅した。小さい頃、アカシアの葉を輪にした親指と人差し指の上に置き、「パーン」と鳴らして遊んだものだ。その象徴的な木が、鉄道周辺から消えた。しかしアカシアは強い木だから、まだあちこちに生えている。
今年のだから天ぷらの材料は、潟上市から採取してきた。と言っても道路をまたぐと、潟上市なんだが。
アカシアの天ぷらは、娘が幼い頃からの我が家の重要な年中行事の一つだった。あまりに凝って、敷地に植えたこともある。そしたら、その勢いの凄さにびっくりしたのは、台風の後だった。隣の家の壁が、アカシアの枝の擦りつけた色に染まっているではないか。住宅にアカシアを植えるのも反則だが、運よく賠償問題には発展しなかった。しかしそれ以来、伐採することになった。
未だにアカシアの天ぷらの旬が分からない。房の花が全部開いてしまうと、ミツバチに蜜を吸われ、蜜が無くなる。そして天ぷらにした際、パラパラと花が落ちる。反対に花が開く前だと、蜜が薄い。最初の頃、天ぷらを初めて試した時には、揚げている最中に広がる甘い蜜の香りが充満して凄かった記憶がある。しかしその後、そういうことはない。今回もさほど香りはしなかったが、まあまあ美味しく頂いた。娘は天ぷらと言えば塩なんだが、これは天つゆで食べる。口に入れたあとに、アカシアの蜜がプーンと鼻を抜ける。この甘くて辛い感じが、つい多く食べ過ぎて、天ぷらだけで満杯になってしまう。それは蜜による満腹感が先に来てしまうからなのだろう。今回は三人で20房。一人6~7個がちょうどいい。
大きい木と若い木、どちらが蜜が入っているか、香りを確かめながら採ったが、実際のところ違いは分からなかった。今や甘さ控えめが流行っているわけだから、これで良かったのかも知れない。タダで食べられる材料で、これだけ書ける人間は他にいないだろう。