こころ旅の日野正平が、ポケットベルの頃の合言葉「14106」を解読できなかった。オレたちゃ、そういう時代よりも前の化石だ。
もっぱら相手に電話する時は、公衆電話。遠いと、10円玉の落ちるスピードが気になって、気持ちが逸(はや)るのだった。
正平ちゃんが、学生時代の寮生活を思い出させてくれた。2階の住人が歩くだけで、天井からほこりが落ちてくる、つっかいぼうに支えられたポンコツ寮で。外からの電話を回り番っこで繋いであげる。特に「女性」からの電話が来た時、「お電話です」と「お」をつける。すると、おおあいつに女から電話が来たぞ、と寮全体が耳をそばだてるのだった。
その寮に耐えられなくて、1年で出た。いじめがあったわけではない。4年生の部屋の先輩は、とてもやさしかった。でも夜、寝ているとストームがやって来る。飲んで帰って来た連中が「ストーム!」を連呼して部屋に入り問い詰める。すっくと起きて、名乗らないといけない。「シャキッとしろ、シャキッと!」と気合を掛ける。あれ、これいじめか?
ただでさえ麻雀でジャラジャラうるさくて眠れなかったところへ、これだ。入寮してすぐ、マージャンが嫌いになった。プライバシーがほぼ無いのも辛かった。
そういう我が家の家計だったのに、1年で飛び出して下宿生活をした。わがままな人間だったなあと思う。
ただ、国立大学を目指したおかげで、全教科まんべんなく勉強した。その高校レベルでの広範囲な知識は、今も書き物に役立っている。皮肉と言えば皮肉。
貧乏というほどではなかったかも知れないが、裕福でなくて良かったかも知れない。