愛しても、足りなかった。
裏切られても、愛し続けた。
そんな女がいた。
ヒトラーと並ぶ独裁者、ムッソリーニ没後65年になる。
イタリアの最高権力者であった、彼を熱愛した女がいた。
その女の、激しい波乱の人生を綴る。
遅まきながら、今頃になって鑑賞できてよかったと思っている。
イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ監督の作品だ。
・・・「統帥(ドゥーチェ)、私を愛しなさい!」
統帥とは、イタリア近現代史最大の問題人物、べニート・ムッソリーニその人だ。
20世紀初頭のイタリア・・・。
ひとりの男と女が、激しい運命の中で出逢った。
男は、官憲から追われていた。
女は、男を匿うように抱擁し、唇を委ねる。
そして、その瞬間、女は燃えるような恋に落ちた。
それからしばらくの時が流れ、二人は再会した。
二人は、互いを必要とし、愛し合うようになる。
男は、急速に移り変わりゆく世界の中に、自らの祖国を守るべく、より深く政治闘争へと身を投じていく。
女は、そんな男のために、全財産を投げ打って男に与え、その活動を支えた。
男の名はムッソリーニ(フィリッポ・ティーミ)、そして女はイーダ(ジョヴァンナ・メッゾジョルノ)といった。
第一次大戦が始まった。
当初は党の方針に従って、中立的な立場を取っていたムッソリーニだったが、次第に参戦論へと傾斜していった。
その過激な言動から、やがて党の機関で「アヴァンティ」の編集長の要職を説かれ、ついに社会党からも除名処分になってしまった。
これに対し、ムッソリーニはイーダからの資金援助をもとに、新たに独自の政治活動を模索する。
その一方で、イーダの運命は全く違った方向に動き始める。
ムッソリーニに変わらぬ愛を捧げていたイーダは、やがて妊娠し、1915年11月11日長子ベニート・アルビノを出産し、ムッソリーニの認知を受ける。
幸福な人生を歩み出すかに見えたイーダであったが、ムッソリーニには、正妻ラケーレ(ミケーラ・チェスコン)がいたのだ・・・!
政権を奪取し、ドゥーチェ(総帥)としてイタリアに君臨するようになったムッソリーニに、愛人イーダの存在は邪魔になったのだろうか。
ムッソリーニは、彼女の権利を剥奪するかのように、書類を改竄し、あるいは放棄させ、イーダと息子ベニートの存在をなき者にしようと謀り、ついにはイーダを精神病院に送り込んでしまったのだ。
この精神病院の柵によじ登って、イーダが狂ったようにビラを撒くシーンも見応えがある場面だ。
だが、イーダは自らの愛のため、息子ベニートを守るため、そして愛の勝利のために、ひとり立ち向かうのだった・・・。
ムッソリーニといえば、イタリアを第二次大戦へと導き、第二次大戦末期には愛人クララ・ペタッチとともに銃殺され、ミラノのロレート広場で逆さ吊りにされ、その波乱の人生を閉じたことは知られている。
その彼に、ひた隠しにしていた愛人がいたという事実だ。
この話は、近年までその存在すら知られることなく、歴史の闇の中に忘れ去られようとしていたのだそうだ。
いかなる歴史の教科書にも載ることもなく、そして人々の記憶からも消されようとしていたイーダ・ダルセルという女性の存在が・・・。
ムッソリーニに無償の愛を与えながら、その見返りとして、ムッソリーニ本人から、存在の証しさえ剥ぎ取られてしまった女性に、再び生命を吹き込んだ作品だ。
第一次大戦から第二次大戦へと突き進んでいた、その時代を背景に、ひとりの女性の生き様に焦点を当て、愛の真実を浮き彫りにする。
イタリア・フランス合作、マルコ・ベロッキオ監督の「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」は、当時のドキュメンタリーやニュースフィルムの映像をふんだんに駆使し、この作品そのものが壮大なドキュメンタリーの感がある。
マルコ・ベロッキオ監督の演出も、圧巻の映像を創造して傑出しているが、主役の二人、ジョヴァンナ・メッゾジョルノの鬼気迫る演技、ハリウッド映画への進出も果たして成長著しいフィリッポ・ティーミの演じる、ムッソリーニの存在感も、なかなかのものがある。
この映画は、どちらかというとイーダを主人公に据えた作品で、ムッソリーニの方はあまり描かれていないのは少し不満だが、仕方がないか。
実際のドキュメンタリーシーンの多用も気になるが、歴史の勝者(?)を語るとき、これらの映像の力がここまで必要かどうか。
まあ、狂気すれすれの、愛が凄い!
とにかく、骨太で、重厚な演出が冴えている。
[JULIENの評価・・・・★★★★☆] (★五つが最高点)
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こういう歴史物ではこれまで知られなかった事実というのは,なかなかに興味深いですよね。
実に・・・。
それらは、決して虚構ではなく、厳然とした真実なのですからね。
闇に葬られた、いまだ知られざる真実・・・!