徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「再会の食卓」―歴史に引き裂かれた夫婦と家族の運命―

2011-12-04 18:00:00 | 映画


     少し旧作になってしまうけれど、ベルリン国際映画祭で、銀熊賞に輝いた中国映画だ。
     ワン・チュエンアン監督が、舞台に選んだのは、上海摩天楼の狭間、迷路のように細い路地にたたずむ、古い平屋の食
     卓であった。
     ワン・チュエンアン監督は、前作「トゥヤーの結婚」グランプリに次ぐ快挙だ  
     
     
     家族の食卓というのは、中国人にとって、日本人以上に、大事な習慣とされる。
     食事と会話を通して、家族の運命の再会をめぐって、主人公はある決断を迫られることになる。










  
ある日、上海に暮らすユィアー(リサ・ルー)のもとに一通の手紙が届く。
そこには、かつて生き別れた夫のイェンション(リン・フォン)が、数十年ぶりに台湾から帰ってくると記されていた。
しかし、ユィアーには、すでに新しい夫シャンミン(シュー・ツァイゲン)と家族がいた。
戸惑いながらも、イェンションを食事に招き、精一杯もてなすのだった。

だが、イェンションには、元妻に対する密かな願いがあった。
 「これからの人生、私と一生台湾で暮らしてほしい」
イェンションの予期せぬ告白に、ユィアーの心は揺れ動く。

猛反対する娘、自分は関係ないとうそぶく長男、金銭で解決しようとする娘婿・・・。
ただひとり、長年連れ添った夫のシャンミンだけは、彼女の台湾行きに賛成するが、彼もまた複雑な想いを抱いていた。
そうして、円満だったはずの一家が、にわかに揺れ始めるのだった。
 「本当に生きていたのは、あなたと一緒にいた時。後は、ただ、生き延びてきただけ・・・」
夫を前にして、女はぎょっとするような言葉を吐く。
それは、どんな歳月だったのだろう。
40年ぶりに戻ってきた元夫に、家族たちはテーブル一杯の料理をふるまい、いつもの食卓には酒などの料理が並ぶ。
いつもの食卓は暖かい場所であるはずなのに、女と男たちの胸の内が次第に吐露されていく中で、複雑で激しい感情が溢れていく。
・・・そして、最後にユィアーは決断を下さねばならなかった・・・。

中国は、国民党と共産党が一体となって、戦った。
日本軍が撤退後も国共内戦となって、49年に共産党が勝利すると、国民党は上海から船で台湾に逃れ、本土と断絶する。
この時、数十万人が生き別れになったのだった。
交流が再開されたのは87年だから、それから幾星霜・・・である。
故郷を訪れる元国民軍の老兵の目的は、別れた妻を連れ戻すことだった。
妊娠して路頭に迷う彼女を救ったのは、共産党の兵士だった。
彼は、女と息子を養い、二人には娘と孫も生まれた。

ドラマには、そうした複雑な背景があり、混乱の中で引き裂かれてしまった夫婦の後日の物語として映画化された。
いまの夫は、立つ瀬がない。
敵方の女と結婚したから出世の道もないし、妻の愛も得られない。
でも、文革の時代に苦労した妻を好きなようにさせたい。
辛い選択だ。

行方不明になった夫が、40年ぶりに帰ってきて、妻は新しい夫と暮らしていたのである。
それで、波風が立たないほうがおかしい。
中国映画ワン・チュエンアン監督「再会の食卓」は、何気ないその光景の中に、中国と台湾における別れと再会の物語を映し出し、食卓を囲む家族ひとりひとりの様々な想い、心の揺らめきを、鮮やかに描き出している。
戦争は終わっても、人々の苦しみは続くのだ。
もともと、台湾の老兵が上海の妻を訪ねるという話をもとに、監督自身がシナリオを描き上げたわけで、ここで問われるのは、家族の在り方、家族で語り合うことの大切さであり、刻々と変化を遂げる上海の街で、長い歴史を刻み、年老いた男女三人の人生ドラマが美しくも哀しい。
この作品を観て思うことは、不幸な歴史が生んだ、大切な人のかくも長き不在である。

その長い時の間に生じた隙間を、どうしたら乗り越えることができるのだろうか。
40年という時を経ての再会も、いつも通りの食卓から始まって・・・。
さすがに、戦争体験者でもある、ベテラン三人の俳優の演技が上手い。
歴史と人間を見つめ、歓びよりも哀しみの交錯する、上出来の小品である。
   [JULIENの評価・・・・★★★★☆] (★五つが最高点

 


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
国共内戦 (茶柱)
2011-12-04 21:25:21
とも言われていましたね。

引き裂かれた家族や友人,そう言う人たちもいたのでしょう。
人々が平和だと良いのに・・・。
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そうでした・・・ (Julien)
2011-12-05 15:12:42
そうでした、「国共内戦」でしたね。
中華民国政府が率いる国民革命軍と、中国共産党の率いる中国人民解放軍との間で行われた内戦でした。
その10年後、1937年に日中戦争(支那事変)が勃発して、上海で日中両軍が全面的な戦闘状態に入ったのでした。
まだ、あれから80年もたっていないんですね。
コメントを有難うございました。
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