徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ファミリー・ツリー」―人間の懐の深さと人生の豊かさを謳い上げるハートフルな物語―

2012-05-19 19:00:00 | 映画


 アカデミー賞脚色賞
受賞した、アレクサンダー・ペイン監督(脚本・製作共)アメリカ映画だ。
 大地に根を張って、受け継がれる家族の系譜、それが「ファミリー・ツリー」だ。

 洒脱な役柄から、シリアスな演技まで、自由自在に役を生きる俳優ジョージ・クルーニーが、この作品で初めて等身大の父親役に挑戦した。
 それは、欠点を抱えながらも、人生のほろ苦さや驚くような出来事を経験し、何とか自分なりの生き方を見つけようとする男だ。
 生意気な娘たちからは信用されず、妻には浮気をされ、文無しの従兄弟たちからは、金のなる木とみなされている。
 主人公を演じるジョージ・クルーニーは、ダークな可笑しみと人間的な味わいのある役が多かったが、そうしたこれまで演じてきた役柄とは一味違うキャラクターが描かれる。
 その男を中心に綴られるこの物語は、その家族の系譜と深遠なテーマを、上質なユーモアと軽やかな語り口で描いている。

     
ハワイ・オアフ島に生まれ育った、弁護士のマット・キング(ジョージ・クルーニー)は、美しい妻エリザベス(パトリシア・ヘイスティ)と、二人の娘、長女のアレックス(シャイリーン・ウッドリー)と次女スコッティ(アマラ・ミラー)と、何不自由なく暮らしていた。

ところが、ある日突然、エリザベスがパワーボートのレース中に事故に遭い、意識不明の昏睡状態となってしまったのだ。
マットは、予想ももしない人生の危機を迎えていた。

妻エリザベスには、さらに恋人までできていて、離婚を考えていたことも発覚し、長女までがその秘密を知っていた。
重なる事態から、10歳になるスコッティもショックで不安定となり、様々な問題を起こし始めていた。
マットは、娘たちをどう扱ってよいのか、見当もつかないでいた。
さらにマットは、カメハメハ大王からの血を引く先祖から受け継いだ、広大な土地の行方について決断を迫られていたのだ・・・。

だが、妻エリザベスは眠り続け、限りある余命はいくばくもなかった。
妻が回復したら、贅沢な生活を楽しませてやろうと思っていたが、その道は閉ざされたままだ。
エリザベスが浮気をしていたとのアレックスの告白は、心から母を愛しているからであったが、その娘の突然の告白にマットは激昂し、何と浮気相手の親友夫妻を問い詰めるのだった。
彼らは、エリザベスが本気でマットとの離婚を考えていたことを、知っていたのだ。
妻への怒りに震えながらも、マットは彼女のために、相手のブライアン・スピアー(マシュー・リラード)に会うことを決意した。
そして、マットは娘二人と家族の‘絆’を取り戻す旅に出るのだが・・・。

全く予期せぬ形で人生の転機を迎えたマットは、家族、人生、そして生命とは何かという問いを突き付けられる。
・・・マットは、やがて大きな希望に満ちた答えにたどり着くのだが、地上の楽園ハワイの澄みきった自然を背景に、温かな人間同士の絆が生まれてくる。
生きるパワーとともに、全編に流れるハワイアン・ミュージックが、優しく心地よい。

主役のジョージ・クルーニーが、微妙な心の揺らめきを絶妙に演じている。
この作品のはまり役である。
もちろん、アレクサンダー・ペインの演出の妙によるところも大きいが、何気ない場面でさえ、深く鋭い吟味、周到な演出が施されているのだ。
マットが妻の浮気を知って、我を忘れて一目散に走りだす場面や、病院で昏睡する妻に語りかける場面などは、長年連れ添った夫婦にしかわからない、そこはかとない感情を伴っているし、生垣(?)の向こうでひょっと顔を出すシーンの可笑しさなど、どれをとってもリアルでさりげなく、どこまでも誇張しない自然体が上手い。
可笑しいやら、あきれるやら、あれまあ・・・、といった感じで、一体何が起こったのかと・・・。
本来ニヒルでダンディな男が、ここではダメ男を演じている。クルーニーが、いい味を出している。

マットに感情をぶつける、二人の娘の存在も忘れてはならないだろう。
長女役のシャイリー・ウッドは、新進女優だが、怒りと悲しみを抱きながら、その心の変化を繊細に表現しているし、次女のアマラ・ミラーのちょっとふてぶてしい感じといい、面白いキャラクターが揃っている。
さすが、脚色賞である。セリフがよく練れている。

妻は植物人間になってしまって、何も語ることができなくなってしまっている。
その妻が、夫の知らない間に浮気をしていて、あげくには離婚まで考えていたことを友人から知らされるマット・・・。
当の自分は、それに気付いていなかったのだ。
青天の霹靂である。
そうして、父親として、娘と初めて向き合う姿勢になる男、クルーニーの新しい一面がのぞく。
実際はかなり重いテーマを扱っているのに、観終わってみると、それがまことに軽やかなことに気づく。
こんな壮快感には、あまりお目にかれない。

病室で、主人公がまだ眠り続ける妻に語りかけるシーンでは、妻から一言の言葉も返ってくるわけはないのだが、そんな非情なシーンでも、何とも言えない温かさが込み上げてくる。
映画のラスト、妻が亡くなって、二人の娘に挟まれて、クルーニーが三人で膝かけで半身をくるんで、みんなでアイスクリームを食べながらテレビを見るシーンが、何だかとてもいいのだ。
真剣な表情をした父親の手が、娘の手に触れている・・・。
あのシーン、ほんと、よかった。(笑)

家族の再生を描く、この作品の絶妙なラストである。
アメリカ映画アレクサンダー・ペイン監督「ファミリー・ツリー」は、控えめのユーモア、抑えた悲しみ、押しつけがましさのない、調和のとれた秀作である。
いい映画だ。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点


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2 コメント

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人生の妙味・・・ (茶柱)
2012-05-19 20:53:33
ですか・・・。
私のよく知らない味ですね・・・。うむム・・・。
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もちろん・・・ (Julien)
2012-05-22 12:22:48
この映画の世界は、一庶民としては大変贅沢な世代の話でして・・・。
そこを考えると、かなり遠い世界の話になりますよね。
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