アカデミー賞に二度輝いたトム・ハンクスが、監督・脚本・製作・主演のすべてを手がけた作品だ。
そして、これまたオスカー女優・ジュリア・ロバーツとの共演を実現した話題作なのだけれど・・・。
人生は何が起こるかわからない。
それは誰にでも起こりうる。
今を生きる大人たちは、この作品をどう見るだろうか。
アメリカの俳優たちの、社会意識の高さと心意気を感じ取ることは容易だ。
アメリカの、正規雇用の労働者のリストラによる失業者数は、1981年から2003年にかけての23年間で、2000万人にものぼるといわれる。
もし、自分がかりにリストラによって突然失業に追い込まれた時、どうするか。
いろいろな生き方があるだろうが、日本人にとっても、労働者の首切りは大きな問題だ。
この問題提起は結構だ。
でも、教室での幸せとはいったい何なのか、どうもこの作品の描き方は物足りない。
学歴を理由に、勤務先の大手スーパーをリストラされたラリー・クラウン(トム・ハンクス)は、再就職のためにスキルを身につけようと、コミュニティ・カレッジ(短期大学)に入学する。
その大学で、スピーチを教えるメルセデス・テイノー(ジュリア・ロバーツ)は、結婚生活が破綻してアルコールに走り、教師としての情熱を失っていた。
ラリーは、初めてのキャンパスで、年齢も境遇も違う様々な人たち(生徒)と出会い、充実した毎日を送り始める。
カレッジの授業を糸口に、ラリーにとってはすべてが新鮮だし、そんなラリーとの交流を通して、メルセデスも改めて自分と向き合い始める。
いつも仏頂面で、自分の中に眠っている可能性に目覚めていく中年男ラリーと、酔っぱらって暴言を吐いたりするが、ほんとは愛らしいメルセデスの二人が、それぞれ幸せな未来を見出そうとするのだが・・・。
そんな幸せの予感を抱かせつつ、ドラマは淡々と、本当に淡々と展開する・・・。
こんな話は、どこにでもあるような話である。
しかし、ドラマは正直言って退屈きわまりない。
アカデミー賞二大俳優の競演で人気にはなっているが、トム・ハンクスとジュリアロバーツにはこの作品はまるっきり役不足で、二人の出演が気の毒と思うほかない。
コミュニティ・カレッジでの授業や、生徒たちとの交流といっても、平凡でどこが楽しいのかわからない。
物語がひどく散漫で、プロットに新味も魅力もない。
トム・ハンクスは、監督と俳優のふたつの役をこなすことでうきうきしているが、演技と演出の切り替えが出来ているのか疑問だ。
教壇に立つ情熱を見失った教師のメルセデスにしても、突然のリストラで一学生となったラリーにしても、ともに存在感が薄く、魅力あるキャラクターとは言い難い。
場面ひとつとっても、ありきたりの次の展開は読めてしまうし、しきりに笑いを誘おうとするが、お決まりの筋書きも月並みで、退屈で、そんなところを延々と見せられて、飽き飽きする。
このハりウッド作品が、アカデミー賞俳優のハートフル・ストーリーとは・・・!。
もっと、素敵な大人のロマンティック・コメディに期待したが、ものの見事にそんな期待は裏切られる。
ドラマの中で、経済学の授業で隣り合わせたタリア(ググ・パサ=ロー)に誘われて、彼女の恋人の率いるスクーター仲間に入り、センスのいいタリアのラリー改造プロジェクトらしきものが始まり、ラリーが、さえないおやじから少しでも洗練された大人の男へと変わっていくところと、嘘くささのあまりないところは、また別としても・・・。
まあいずれにしても、このアメリカ映画「幸せの教室」は、豪華な大スターの競演という触れ込みながら、肝心の面白みが乏しい。
敢えて言わせてもらうと、駄作に近い凡作だ。
この映画で、アメリカの大学システムにおける、コミュニティ・カレッジの位置や役割については理解できる。
ドラマでは、主人公ラリーは50代という年齢で一念発起し、コミュニティ・カレッジに通い始めるが、学校の生徒の年齢構成はやはり24歳以下が6割以上で、次いで35歳から54歳までの学生も多く、中には80歳の高齢学生もいる。
職業にそのまま役立つ技術や資格を取得できる、社会人のための職業教育もあり、ダンスの授業まであるそうだから、日本の専門学校に近い感じではないだろうか。
[JULIENの評価・・・★☆☆☆☆](★五つが最高点)
最新の画像[もっと見る]
- 川端康成 美しい日本~鎌倉文学館35周年特別展~ 4年前
- 映画「男と女 人生最良の日々」―愛と哀しみの果てに― 5年前
- 文学散歩「中 島 敦 展」―魅せられた旅人の短い生涯― 5年前
- 映画「帰れない二人」―改革開放の中で時は移り現代中国の変革とともに逞しく生きる女性を見つめて― 5年前
- 映画「火口のふたり」―男と女の性愛の日々は死とエロスに迫る終末の予感を漂わせて― 5年前
- 映画「新聞記者」―民主主義を踏みにじる官邸の横暴と忖度に走る官僚たちを報道メディアはどう見つめたか― 5年前
- 映画「よ こ が お」―社会から理不尽に追い詰められた人間の心の深層に分け入ると― 5年前
- 映画「ア ラ ジ ン」―痛快無比!ディズニーワールド実写娯楽映画の真骨頂だ― 5年前
- 文学散歩「江藤淳企画展」―初夏の神奈川近代文学館にてー 5年前
- 映画「マイ・ブックショップ」―文学の香り漂う中で女はあくなき権力への勇気ある抵抗を込めて― 5年前
星一つ・・・。
これはまた・・・。
やっぱり役者としての才能と,演出家・脚本家としての才能は別なんですかねー・・・。
絶賛している人には申し訳ないですが、どうしても、個人的には評価できませんね。
そしたら、私と同じように、とっても厳しい採点をしている、著名な映画評論家さんもおりましたよ。
映画って、見方や感想が大いに違って、それでいいと思うのです。ええ、それで・・・。
観る人が楽しければ、それはそれでいいのですから、誰だって、映画の好きな人は自分なりの熱い思いがあるわけでしょうからね。