どこまでが本物で、どこからが偽りなのか。
本当の愛とは何だろうか。
連城三紀彦は、男と女の心の襞や綾を描く作家としては、仕掛けの名手である。
連城三紀彦の短編の名作を、細野辰興監督が映画化した。
原作も素晴らしいのだが、細野監督はセピア色の輝きをそのままに、まことに魅力ある映像世界を作り上げた。
よくできた、作品だ。
叔父と姪という二人の、19年にわたる、禁忌ゆえに一層切ない本物の愛とは・・・。
ドラマも骨太だし、繊細な純愛映画の趣きだが、どこか息が詰まるような切なさも感じさせる。
田原構治(高橋克典)は、四十代の売れっ子カメラマンだ。
大学受験のために上京し、自分のマンションに寝泊まりさせていた夕美子(松本望)の発言に言葉を失った。
夕美子の母親で、18年前に夕美子を生んで間もなく亡くなった夕季子(寺島咲)は、構治の姉の郁代(松原千恵子)の一人娘で、構治とは叔父と姪にあたる関係であった。
18歳になった夕美子は、なぜこのような疑問を持ったのか。
18年前に、構治と有季子との間に何があったのか・・・。
夕美子が、福岡へ帰った後である。
構治の姉郁代から連絡があって、夕美子は妊娠していて、しかもお腹の子の父親は構治だと言い張るのだった。
福岡の実家で、構治を交え、郁代、、そして夕美子の父布美雄(鶴見辰吾)に対して、夕美子は母夕季子と構治が愛しあっていたと言い張り、その証拠として、構治の撮った、赤ん坊の自分を抱いた母夕季子の5枚の写真を見せるのだった。
夕美子の執拗な追及に、構治の想いは18年前に遡っていく。
・・・構治と夕季子は、兄妹のように育った6つ違いの叔父と姪だ。
ある日、東京でカメラマン修行をしている構治のもとに、見違えるように綺麗になった夕季子が上京し、7年ぶりで再会を果たした。
その一か月後、再度上京した夕季子は、一カ月何処へも行かずに、献身的に構治の世話を始める。
お互いがお互いの気持ちを察しながら、二人の恋愛模様が微かに回り始めるのだった・・・。
細野辰興監督のこの映画「私の叔父さん」は、原作に忠実に、上質なミステリーのような緊迫感をはらんでいる。
心の内側をなぞるように、ドラマの世界に入ると、作品の各場面、登場人物のセリフひとつとっても、精緻な組み立てで、物語が進行する。
18年前の偽らざる過去と、そして現在とを巧みに交錯させている。
ひとつの死で終わったはずの愛と、ひとりの男の再生のドラマだ。
原作とていささか古風でも、人の愛とか心情はいつの時代も変わるものではない。
主演の高橋克典は、テレビドラマでも売れっ子の好漢で、この作品では、26歳と45歳という年齢差のある二役を演じている。
年齢差にはかなり無理(!)があるかと思うが、共演の寺島咲とともに、よく頑張っている方だ。
むしろ、主人公に気合が入りすぎていることのほうが気になる。
ドラマの中、叔父と姪という、男と女の間に揺れる心に抗いながら、もう帰れというのに夕季子は帰りたくないといい、「兄ちゃん」のそばで暮らしたいという。
構治が、飲み屋の女をわざと自室に連れ込むと、夕季子は「私が、毎晩下着洗ってるの、何故だと思ってたのよ」と、泣き出す始末だ。
姪は福岡へ帰り、結婚して娘を産み、交通事故で死ぬ。
19年後、その娘夕美子が構治のところへ遊びに来て、帰る。
そして、お金を貸してほしいといって、構治を訪ねたとき、構治が東京駅で撮った赤ん坊を抱いている5枚の写真・・・。
母さんの顔を見てよと、それを見ると、声には出さないが、唇の形が、あ、い、し、て、る、と言っている。
ここのところは、原作も映画も、思わずどきっとさせられる場面である。
構治は思ったに違いない。
19年前、自分も夕季子も、本当の気持ちを嘘にしたのなら、いまこの嘘を真実に・・・と。
何ともミステリアスな、あざやかで哀しみの滲む終章である。
ただ、文芸作品なので、ちょっと現実離れのした、無理造りの(?!)話ではある。
でも、それをくどくど言っちゃあ、映画なんて観てられないということになる。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
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私にも姪が居ますが,正直あり得ないですね・・・(笑)。
でもうーん・・・世の中にはあり得る人も居るのかなぁ・・・。
(-_- )
茶柱様。
原作者の蓮城氏は、作品の「あとがき」でこんな風に言っています。
「秋の冷たい雨の中を、ひとつの傘を分け合って本当の叔父さんと姪と、そして自分の三人で歩いていた時、その二人が親しい男と女に見えた、その雨の小景から、勝手に作り上げたドラマ」だと・・・。
もし私もそんな光景を見たら、勝手な想像を膨らませたかもしれませんね。はい。
こんなブログですが、勝手気ままに自分流で書いています。
拙いブログですが、それでよろしければ、いつでもお気軽にお立ち寄りください。リンクでも、トラックバックでも、どうぞご自由に・・・。
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