YS Journal アメリカからの雑感

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キューポラの熱い国

2010-03-05 00:19:56 | アメリカ経済
今日のWSJ で、鋳物工場に投資が戻って来ているとの記事があった。倒産等で安くなっている上に、景気の回復を見込んで製造業に投資が戻ってきているそうだ。

数年前に、鋳物工場(鉄、アルミ、ちょっとだけマグネシウム)を見て回った事があり、自動車部品製造関係でアメリカで投資するなら、この分野だろうと思っていた。イメージ的には、アメリカの工場、設備は古いものばかりなのを見て、日本から最新技術を導入すれば、抜群の競争力になるかもという漠然としたものだった。

今回の大不況の前から鋳物業界は、倒産の嵐が吹き捲くり、既に安い投資になっていた。現時点だともっとだと思うので、既存の設備を安く買って、業界の再編と景気回復を待つのは、良い戦略であろう。特に、鋳鉄の方は目新しい技術は無いので、目ざとい投資家である。

鋳物業界は、鉄鋼や自動車部品に比べて規模が小さいので、投資家もユニークである。記事で紹介されている Wayzata Investment Partners LLC は、ミネソタにある投資会社である。ホームページによると、元々は政界最大の穀物商社の投資部門が前身の会社のようである。中西部の本拠地がある所がシブい。土地柄、製造業それも鋳物業界なんて泥臭いものを、を理解する人がいる様な気がする。

鋳物は中西部が盛んである。鉄鉱石が取れるのと、五大湖で海運が発達しているので、鉄鋼や自動車産業とともに発展して来た歴史がある。

もう一つ肝心なのは、良い砂がある事らしい。(特にミシガン湖畔)日本でも、石川県やその周辺に工作機械メーカーが多くあったりするのは、工作機械の土台になる大きな鋳物が入手し易い、つまり、良い砂があって鋳物産業が昔から盛んであったと聞いた事がある。

肝心の日本の最新技術であるが、鋳鉄については、言ってはみたものの自信が無い。ホンダのエンジン工場で、ブレーキディスク用のローターを吹いているのを見た事あるが、アメリカの工場のそれと余り違いが無い様な気がした。日系の鋳鉄部品の加工会社が、アメリカでは素材の鋳鉄をアメリカの鋳物屋から購入している事からも、技術的、コスト的なメリットが無いのかもしれない。

では、アルミはどうかと言うと、これは先ず、日米の好みの違いが明確ににあるので技術導入すると面白いと思う。日本では、アルミは溶かした時の流れが良いので、鋳鉄の様に使い捨ての砂の型に流し込むのではなくダイキャスティングと呼ばれる型に流し込むのが主流になってきている。(簡単に言えばプラスチックの射出成形と同じ)日本は高い圧力でのこのダイキャスティングが好み。一方、アメリカは低圧力が好みで、ダイキャスティングとは違い重力や真空引きを利用した製法が主流である。

よって、日系でもアルミ加工会社は自社のダイキャスティング技術を持ち込んで素材から鋳造している。アメリカでダイキャスティングが一般的ではないという事情もあるが、技術やコストの優位性が高いと思われるので、アルミ鋳造専業でもアメリカ市場に結構食い込めるのではないかと思う。(型ものとなるので加工が少なくてすみ、結局、加工までする事になると思われるが)

アルコアのミシガン西部にあるアルミ鋳造工場を見学した時に、ライト兄弟の初飛行のエンジンを制作したのがアルコアである事を知った。(この工場で製造したかどうかは忘れた)鉄製のエンジンでは重すぎたのだが、新素材として出現したアルミによって、軽量化が出来て動力飛行の道が開けたとの事だ。(アルコアの歴史)ちょうど百周年記念(2003年)の前年だったので、案内してくれた営業の人が、アルコアが積極的に宣伝していないのを悔しがっていた。

但し、初飛行に使われたエンジンは冷却の構造が無く、20分以上運転すると焼き付くものだったそうだ。初飛行日に確か4回飛んでおり、最後は墜落してエンジンも割れてしまったのだが、どちらにしてもそれ以上は無理だったらしい。(今年の夏に、キティーホークでもう一度勉強してきます)

鋳物業界はセクシーではないけど、必ず必要なものだし、アメリカでは、特にアルミで面白いビジネスモデルが出来そうな気がする。鋳鉄も重量物なので輸入にシフトする事は無いと考えていたが、ブラジルや南アメリカで鋳鉄が盛んになってきて輸出も始まっているようだ。鉄鉱石が出たりするから安いのだろうか。(中国の鋳鉄は正体不明の物質が入っていたりしていまいちだった経験がある。)

マグネシウムは、アルミと補完の立場にある微妙な存在であるが、常に粉塵爆発の危険がある。アルミ鋳造工場にマグネシウム鋳造設備という所が多いのだが、いつも隔離されている。