第二部 コゼット
第八編 墓地は与えられるものを受納す(岩波文庫第2巻p.273~p.364)その1
明日からまた新しい年度が始まります。異動があって、別の部署で仕事をすることになったので少し緊張気味ですが、あまり構えず、自然体でやっていけたらいいなと思っています。
久しぶりに『レ・ミゼラブル』をひもときます。
ジャヴェルに追われて小路に追い込まれたジャン・ヴァルジャンは、超人的な腕力でコゼットを抱えて高い塀を乗り越え、何とか追っ手をまくことに成功します。二人が入り込んだのは、プティー・ピクプュス修道院の敷地。偶然にもそこでそこでジャンはフォーシュルヴァンに再開します。
フォーシュルヴァンは、かつてジャンが「マドレーヌ市長」だった頃に、馬車の下敷きになったところを助けてやった老人です。彼はあのあと、市長の斡旋で、この修道院で働いていたのです。
命の恩人であるジャンに助けてくれと頼まれ、フォーシュルヴァンはしばし逡巡します。彼はどこから来たのか、彼はいったいどうやってあの高い壁を乗り越えて入って来られたのか? この子どもはいったい誰なのか…。それでも彼はジャンを助けることを決心します。
彼はひそかに考えた、「今度は自分の番だ。」そして心のうちでつけ加えた、「私を引き出すため車の下にはいり込むのにマドレーヌ氏は種々考えてみはしなかったんだ。」
しかし、彼を修道院に留めることは、大変むずかしい問題でした。まず、彼がここにいるためには、「改めて入る」ことが必要となります。さらに、そのためには「いったん修道院の外に出る」必要があります。コゼットは、負いかごを背負ってその中に彼女を隠して外に出ることができる。しかし、問題はジャンです。ジャンをどうやってひそかに外に出すか…。
この章では、ジャンを修道院の外に出すためにとられた奇想天外な方法が語られます。子どもの頃に読んだ『ああ無情』でも、一番わくわくどきどきした場面です。さてその方法とは…?
ジャンが「天から落ちてきた」翌朝、つまりフォーシュルヴァンがジャンの脱出方法で頭を悩ませているさなか、喪の鐘が鳴り響きました。それは、一人の修道女が亡くなったという知らせでした。フォーシュルヴァンはジャンに、修道女が亡くなった時の埋葬の手順、医者が検死をしたあと死体を棺に納めて自分が釘を打ち、棺を馬車に乗せて外の墓地に埋める、という手順を話します。
フォーシュルヴァンは、自分を呼び出す鐘の音を聞くと、急いで院長のところに出向きます。そして、何気ないふりをして、自分がもう老年であり、身体も弱ってきているので仕事がきついこと、ついては自分の弟に園丁として来てもらって仕事を手伝ってほしいこと、さらに弟には小さな娘が一人いるので一緒に連れてきたいと思っていることなどを院長に頼みます。ジャンを連れてくるための布石をまず打っておいたのです。
院長は、それに対しては一言も返することなく、今日亡くなったのはクリュシフィクシオン長老だと告げます。そして、彼女の遺言についてフォーシュルヴァンに話します。
「死んだ方のお望みには従わなければなりません。礼拝堂の祭壇の下の窖(あなぐら)の中へ葬られること、汚れた土地の中へは行かないこと、生きてる間祈りをしていた場所に死んでもとどまりたいこと、それがクリュシフィクシオン長老の最後の御希望でありました。あの方はそれを私どもに願われました、云いかえれば、おいいつけなさいました。」
それは禁じられていることだったため、フォーシュルヴァンは、しかし衛生係が、警察が…と、くどくどと院長に問いただします。院長は「世俗のことは十字架に対しては何でもありません。」と言い放つと、突然、修道院の歴史、カトリックの歴史をとうとうと語り、それを引き合いに出してきます。
「埋葬地に対する修道院の権利は、だれにもわかりきったことです。それを否定するのは、狂信者か迷いの者かばかりです。私たちは今恐ろしい混乱の時代に生きています。人は皆、知るべきことを知らず、知るべからざることを知っています。皆汚れており、信仰を失っています。…ルイ十六世の断頭台とイエス・キリストの十字架とをいっしょにするほど神を恐れない者もいます。ルイ十六世は一人の国王にすぎなかったのです。ただ神にのみ心を向くべきです。そうすればもはや、正しい人も不正な人もなくなります。…」
これはまさにユゴーが院長の口を借りて語らせている考えだとみていいでしょう。修道院でさえ、今や世俗の動向に左右されつつある時代だったのです。
修道院に身を捧げているフォーシュルヴァンは、院長の命令に従うほかありません。長老の遺体は修道院の祭壇の下に埋葬する。空の棺は外の墓地に運んで埋める。人夫たちに悟られないように、棺の中には土を入れておく。そんな算段が院長との間に語られます。
そして。
小屋に戻ったフォーシュルヴァンからそうしたいきさつを聞いたジャンは、自分が棺の中に入ればいいと言い出し、フォーシュルヴァンを仰天させるのです…。
第八編 墓地は与えられるものを受納す(岩波文庫第2巻p.273~p.364)その1
明日からまた新しい年度が始まります。異動があって、別の部署で仕事をすることになったので少し緊張気味ですが、あまり構えず、自然体でやっていけたらいいなと思っています。
久しぶりに『レ・ミゼラブル』をひもときます。
ジャヴェルに追われて小路に追い込まれたジャン・ヴァルジャンは、超人的な腕力でコゼットを抱えて高い塀を乗り越え、何とか追っ手をまくことに成功します。二人が入り込んだのは、プティー・ピクプュス修道院の敷地。偶然にもそこでそこでジャンはフォーシュルヴァンに再開します。
フォーシュルヴァンは、かつてジャンが「マドレーヌ市長」だった頃に、馬車の下敷きになったところを助けてやった老人です。彼はあのあと、市長の斡旋で、この修道院で働いていたのです。
命の恩人であるジャンに助けてくれと頼まれ、フォーシュルヴァンはしばし逡巡します。彼はどこから来たのか、彼はいったいどうやってあの高い壁を乗り越えて入って来られたのか? この子どもはいったい誰なのか…。それでも彼はジャンを助けることを決心します。
彼はひそかに考えた、「今度は自分の番だ。」そして心のうちでつけ加えた、「私を引き出すため車の下にはいり込むのにマドレーヌ氏は種々考えてみはしなかったんだ。」
しかし、彼を修道院に留めることは、大変むずかしい問題でした。まず、彼がここにいるためには、「改めて入る」ことが必要となります。さらに、そのためには「いったん修道院の外に出る」必要があります。コゼットは、負いかごを背負ってその中に彼女を隠して外に出ることができる。しかし、問題はジャンです。ジャンをどうやってひそかに外に出すか…。
この章では、ジャンを修道院の外に出すためにとられた奇想天外な方法が語られます。子どもの頃に読んだ『ああ無情』でも、一番わくわくどきどきした場面です。さてその方法とは…?
ジャンが「天から落ちてきた」翌朝、つまりフォーシュルヴァンがジャンの脱出方法で頭を悩ませているさなか、喪の鐘が鳴り響きました。それは、一人の修道女が亡くなったという知らせでした。フォーシュルヴァンはジャンに、修道女が亡くなった時の埋葬の手順、医者が検死をしたあと死体を棺に納めて自分が釘を打ち、棺を馬車に乗せて外の墓地に埋める、という手順を話します。
フォーシュルヴァンは、自分を呼び出す鐘の音を聞くと、急いで院長のところに出向きます。そして、何気ないふりをして、自分がもう老年であり、身体も弱ってきているので仕事がきついこと、ついては自分の弟に園丁として来てもらって仕事を手伝ってほしいこと、さらに弟には小さな娘が一人いるので一緒に連れてきたいと思っていることなどを院長に頼みます。ジャンを連れてくるための布石をまず打っておいたのです。
院長は、それに対しては一言も返することなく、今日亡くなったのはクリュシフィクシオン長老だと告げます。そして、彼女の遺言についてフォーシュルヴァンに話します。
「死んだ方のお望みには従わなければなりません。礼拝堂の祭壇の下の窖(あなぐら)の中へ葬られること、汚れた土地の中へは行かないこと、生きてる間祈りをしていた場所に死んでもとどまりたいこと、それがクリュシフィクシオン長老の最後の御希望でありました。あの方はそれを私どもに願われました、云いかえれば、おいいつけなさいました。」
それは禁じられていることだったため、フォーシュルヴァンは、しかし衛生係が、警察が…と、くどくどと院長に問いただします。院長は「世俗のことは十字架に対しては何でもありません。」と言い放つと、突然、修道院の歴史、カトリックの歴史をとうとうと語り、それを引き合いに出してきます。
「埋葬地に対する修道院の権利は、だれにもわかりきったことです。それを否定するのは、狂信者か迷いの者かばかりです。私たちは今恐ろしい混乱の時代に生きています。人は皆、知るべきことを知らず、知るべからざることを知っています。皆汚れており、信仰を失っています。…ルイ十六世の断頭台とイエス・キリストの十字架とをいっしょにするほど神を恐れない者もいます。ルイ十六世は一人の国王にすぎなかったのです。ただ神にのみ心を向くべきです。そうすればもはや、正しい人も不正な人もなくなります。…」
これはまさにユゴーが院長の口を借りて語らせている考えだとみていいでしょう。修道院でさえ、今や世俗の動向に左右されつつある時代だったのです。
修道院に身を捧げているフォーシュルヴァンは、院長の命令に従うほかありません。長老の遺体は修道院の祭壇の下に埋葬する。空の棺は外の墓地に運んで埋める。人夫たちに悟られないように、棺の中には土を入れておく。そんな算段が院長との間に語られます。
そして。
小屋に戻ったフォーシュルヴァンからそうしたいきさつを聞いたジャンは、自分が棺の中に入ればいいと言い出し、フォーシュルヴァンを仰天させるのです…。
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