カクレマショウ

やっぴBLOG

アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ「ザ・クライング・ライト(THE CRYING LIGHT)」

2010-03-29 | ■私の好きな歌
このインパクトありすぎのアルバムジャケット。1906年(明治39年)生まれといいますから、現在104歳になる舞踏家・大野一雄の、1977年に撮影されたポートレイト、だそうです。

一見、グロテスク顔に見えますが、よーく見ると、この表情、そして、手の動き(スチル写真なのに、動きが見える!)は、恐ろしく深い。悲しみなのか、喜びなのか、絶望なのか、希望なのか。あるいは、そのすべてを表しているのかもしれない。大野一雄、恐るべし。

そして、このアルバム自体が、このグループのリーダーであるアントニー・ヘガティが、大野一雄に捧げたものだとか。「あらゆる所作の中に、彼は子供と神の女性的な側面を表現していました。彼は、芸術家としての私にとって親のような存在です」とアントニー自身が語っているように、大野一雄はアントニーが敬愛してやまない芸術家なのです。

そのアントニー・ヘガティは、英国生まれで現在はニューヨークで活躍するミュージシャンです。彼の中性的な声、そして、神秘と耽美に彩られた詩とメロディは、このジャケット以上にインパクトがあります。

前作の「アイ・アム・ア・バード・ナウ(I am a Bird Now)」(2005年)は、自身もトランスジェンダーであるアントニーが、彼らの叫びを切々と歌った曲がメインに据えられていました。ボブ・ディランの伝記映画「」のサントラで、あの名曲「天国への扉」をカバーしていたのもアントニーです。この曲もいろいろな歌手がカバーしていますが、私はアントニーの歌が、最もこの曲の歌詞と合っていると思います。

そして、昨年1月に発表されたこの「ザ・クライング・ライト」のテーマは、「母性と自然への賛歌」でしょうか。あるいは「死と再生」、はたまた「光と陰」と言ってもいいかもしれません。このところなんだか冬に逆戻りしたような天気が続いていますが、私には、静かな春の息吹きを感じさせてくれるアルバムとして、ちょうど今頃の季節に聴きたくなるのです。




1曲目の"Her eyes are underneath the ground"。いきなりアントニーのハイトーン・ボイスが響いてきます。この出だしだけで、もうこのアルバムのすべてが見えたような気がしました。なんてやさしくて、はかなくて、切ない曲なのでしょうか。"Her eyes"とは「母の目」。今は「地面の下」にある「母の目」。「庭で、私は母と一緒に一輪の花をこっそり手に取った」。

静かなピアノのイントロで始まる"Another World"もいい。

 別の場所へ行きたい
 そこは平和だろうか?
 別の世界へ行きたい
 この世界はほとんど滅びてしまった

海も雪も蜂も木々も太陽も動物も鳥も風も、恋しい。「この世界」への強烈なメッセージ。

このアルバムは、確かに全編「やさしい」。でも、見かけだけのやさしさや軟弱なやさしさがはびこっている今の時代にあって、アントニーが歌うやさしさは、強靱で、どこまでも深い。本当のやさしさとは、人間だけでなく自然界のあらゆる事物に向けられるべきものであり、希望だけではなく時には絶望も、生の喜びだけでなく時には死の恐怖も、もたらすものなのです。

これって、映画「ショートバス」で最後に歌われる"In The End"とも通じるものがあるなあと思います。それから、この前見た映画「アフター・デイズ」にもどこかで通じている。それはまたのちほど書きたいと思います。

それにしても、こういうアルバムを聴くと、「音楽のジャンル分け」という行為がいかに無意味なものであるかが分かります。ロック? ジャズ? ソウル? ヒップホップ? 何だっていいじゃん。聴いていて気持ちが揺さぶられたら、それが私のジャンル。

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2 コメント

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Unknown (やっぴ)
2010-06-06 03:26:17
蒼さん

大野一雄氏、103歳の大往生だったようですね。一度、生の舞台を見てみたかったものです。このアルバムの曲に合わせた大野氏の舞踏がもしあれば、きっと見事だったにちがいありません。

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Unknown ()
2010-06-05 09:14:00
大野一雄氏の訃報を知り、このアルバムを聴いてみたいと思いました。
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