カクレマショウ

やっぴBLOG

『ニッポン「起業」学』を読んで(その1)

2006-12-19 | └キャリア教育
日本IBM会長で日本経済同友会代表幹事を務める北城恪太郎氏編による『ニッポン「起業」学』(日本実業出版社、2005年)。現在の日本の経済の閉塞状況を打破できるのは「起業」であり、起業家の育成こそ、これからの日本の活性化に必要だと説きます。ベンチャーを生み出しにくい日本の土壌、その中であえてベンチャーを志し、成功した何人かの起業家の皆さんの話はどれも切実だし、何より説得力があります。

私にとって特に印象深かったのは、最終章の「第八章 ベンチャー経営者をめざせ!」です。

・「三人の母ちゃん」がベンチャーを止める
・寄らば大樹─日本人は自立していない
・キャリア教育が求められている
・「起業」は重要な職業選択の一つである
・「人間力」をベースにしたキャリア教育を!
・企業経営者は教壇に立て!
・経営者は行動を始める

自分が漠然と考えていることがほとんどそのまま活字になっている本というのはなかなかお目にかかれないものですが、この章はまさしくそれでした。うほほーい、と膝を叩きながら読みました。この章でも、「ベンチャーを育む新事業創造立国」に向けて、起業家や”起業応援者”たちの熱い声を聞くことができます。

「一番大事なことは、本人のチャレンジを周りが応援することですね。足を引っ張るのではなくて。それが社会の一般常識にならないと難しいと思います」(㈱リクルート・柏木斉氏)

「優秀な人材というのは、学校でも優秀だった確率が高いんですね。そうなると、人の期待を裏切れないというところがあって、周りの人の期待を簡単には踏みにじれないみたいなところがある。悪くいえば、いい子になりやすいんですね。そういうこともあって、『君子危うきに近寄らず』ということになる、ベンチャーに対して、動きが遅い結果になるわけです」(ザインエレクトロニクス㈱・飯塚哲哉氏)

「大企業の「優秀な人」というのは能吏であって、テキパキとまとめるのは上手だという人ですね。ベンチャーを起ち上げるのは、あらゆる困難に立ち向かう強い意志であるとか、利益とか売上げに対するすごい執着心、がめつさがないとダメなんですね。大企業ではとかく異端視される人が、ベンチャーには向いているという面があるようです。…(中略)…お母さんたちが『せっかく大学行ったのに、何を考えているの』と言わなくなるような価値観の醸成が必要だと思います」(富士ゼロックス㈱・高橋秀明氏)

少なくとも、ベンチャーを志す人の足を引っ張らない風土、価値観を作ることがまず大切だということですね。リクルートの柏木氏は、こんなことも語っています。

「親御さんだけでなく学校の先生、経済界を巻き込んだ社会全体の問題として取り組む必要がある。社会が変わっていくのだから、個人に合ったいい選択を社会全体で応援したり、後押しをする。うまくいかなかったら、やり直しがきくようにバックアップする。一回の失敗でもうアウトではなく、何度でもやり直しができる社会にしていかないといけない。…(中略)…社会全体で支えていかないと、リスクをとってチャレンジする人が生まれてこないと思います」

そして、そういう風土を作り出していくためには、何より「教育」が大事だ、となるわけです。回り道かもしれないけれど、生き方に関する抜本的な日本人の意識改革が必要だと。つまり、「『自分が社会でどう生きていくのか』という点を小学時代から段階的に考えて、『私』と『社会』との関係に気づかせる『キャリア教育』の早期実行が望まれる」ということなのです。「社会と自分との関係をいっさい考えることなく大学三年生になった若者が、突然に就職を考えても考えようがない」。

先日、高校生が「仕事」のことを様々な角度から調べた学習成果の発表会(14校)を見る機会がありました。水産高校の漁業体験、工業高校の「匠の技」へのアプローチ、普通高校の福祉施設での介護体験など、高卒での就職を前提としながら、それぞれの学校・学科の特色を生かした取組には非常に興味深いものがありました。

ただ、発表の中に、あるいは発表後の「講評」の中に、「起業」というフレーズがほとんどなかったのが少し残念な気はしました。どこかの会社に入社する、ある既存の職業に就くという選択肢の他に、「自ら会社を作る」という選択肢があってもいいのではないかと思いました。「今あるものの中から選ぶ」だけでなく、「今までにないものを新たに創り出す」ということ。それは、高校生や若者だからこそ選び取ることができる選択肢なのではないでしょうか。

「起業家教育」というのは、会社を起ち上げたり、商品開発をしたり、その商品を実際に販売してみたりといった一連の「経済活動」を擬似的に体験することを通して、「起業家精神」(アントレプレナーシップ)や「起業家的資質・能力」を育てようとする教育活動です。全国各地の学校でそうした取組が徐々に広がりつつありますが、まだまだ一過性のイベント的な取組が多いようにも感じます。まず、「起業家」という道もあること、さらに、自分で自分の人生を切り開いていく手段として、「起業」こそが最も適した方法かもしれないことも含めて、子どもたちが「起業家」を「職業」の一つとしてちゃんとイメージできることが必要です。もちろん、親や教師、ひいては社会全体がそのことをしっかり認識することも。

(続く)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿